第14話 決意
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「ここでお別れなんてちょっと残念だな」
カロルは淋しそうに見上げる。
彼の前には、リリーティアとエステルがいた。
翌日。
リリーティアたちはカロルたちが休んでいた宿屋から、少し離れた場所で互いに別れの言葉を交わしていた。
昨日言っていた通りエステルは帝都へ帰ることにしたのだが、カロルとリタだけというさみしい見送りであった。
「今度、お城に遊びに来てください」
エステルは微笑む。
しかし、カロル同様、その表情には寂しさが見えた。
「ガキんちょ、ほんとうに行くわよ」
リタが呆れたように言う。
彼女はカロルと違って、二人から少し距離をあけ、背を向けて立っていた。
「え、行っちゃダメなの?」
「はぁ・・・バカっぽい・・・」
キョトンとするカロルにリタが大きくため息をついた。
城に訪ねてきたからといって、<帝国>の姫に会えるなどそう簡単にはいかない。
一般人である彼ならそれは尚更で直接言葉を交わすこともできないだろう。
身分という常識がそこにある。
「だって、友好協定が結ばれたら、ギルドの人間も帝都に入りやすくなるでしょ」
「そうですね」
エステルが笑みをもって頷く。
そんな常識も頭になく、カロルは純粋に仲間であるエステルにまた会いにいくつもりであった。
帝都の中と城の中とでは意味が違う。
城の中はギルドの人間も、まして<帝国>の人間も関係ない。
そこには身分という壁がある。
カロルのように常識に囚われず世の中がそんな考え方になればどれだけいいだろう。
「ラゴウの件は城へ帰ったらすぐに掛け合ってみます」
昨夜のカロルの言葉を気にして、改めて彼に約束の言葉を告げるエステル。
「エステル、そのことなんだけど・・・・・・」
エステルは首を傾げて、リリーティアを見る。
彼女は少し考える素振りを見せると、その口を開いた。
「実は、ラゴウ執政官は朝早くから行方不明になってる」
「え、そうなの?!」
カロルが声をあげる。
カロルやリタには話してはならない<帝国>の内部情報なのだが、リリーティアは彼らも含めてエステルに話をした。
早朝になってラゴウがいないことに気づいた騎士団は、ダングレスト内、またはその周辺を朝からずっと捜索している。
こうして帝都へ発つ時間になっても未だに彼の姿は現れない。
現れるはずもなかった。
----------奴はもう
リリーティアアはその胸に真実を秘めたまま、今の状況を伝えた。
「今、足取りを追っている途中だから、詳しいことはまだわからない」
「どういうことなの・・・」
エステルは戸惑う。
「びびって逃げたかな」
驚き、戸惑う二人とは違って、リタは別段驚くこともなく当然のような口ぶりで話す。
もう自分には関係ないことだといった様子であった。
「さて、あたしも行こうかな。エアルクレーネっての色々調べて回りたいし」
リタは取ってつけたような背伸びをしながら言う。
彼女はデュークが話していたことを調べるために、各地を転々と巡ってみるようである。
「調査が済んだら、あたしも、帝都に、い、行くから」
どうでもいいことのように、未だエステルに背を向けたままリタは言った。
エステルは彼女の前に回り込み、互いの視線を合わせると、両手でその手を包み込んだ。
「はい、楽しみにしてます」
「・・・・・・・・・」
満面の笑みのエステル。
リタは照れくさいのか僅かに頬を赤らめ、さっと顔をそらす。
ふたりの様子を、リリーティアは目を細めて嬉しげに見詰めた。
「あ、それと・・・・」
リタは思い出したように言うと、リリーティアへと一瞬だけ視線を向けた。
「エアルクレーネについてこれから色々調べるけど・・・。そのことについて時々、連絡入れるから・・・」
「え・・・?」
リリーティアは彼女からの思わぬ言葉に目を瞬かせる。
彼女自身もエアルクレーネについてはどうしていこうかと、考えあぐねいているところだった。
「あ、あんたもそのこと気になってたでしょ」
「ええ。そうしてくれると、とても助かるよ」
それはエアルの暴走の原因を知るために最も重要なこと。
エアルクレーネに関して、リリーティアの中では確信的な考えもそれぞれに出ているが、だからこそもっと詳しい情報がほしかった。
それにもうひとつ気になっていることがある。
なぜデュークがその知識、情報を持っているのかということ。
彼の行動も気になる。
エアルクレーネのことを知った先にその行動の真意を探れるヒントにつながるかもしれない。
そういった観点から見て、エアルクレーネのことを知ることは必要なことでもあった。
だからこそリタの言葉に心から感謝した。
「ありがとう」
でも、それだけではなかった。
彼女との交流が続くことを意味するその言葉がただただ嬉しかったのである。
これまでの旅だけで終わらないことが。
心の奥底ではこれ以上の関わりを絶つことがリタにとっても、自分にとってもいいのかもしれない、
そう思っているのも確かだったが、それでもやはり嬉しい気持ちが強かった。
「これからもよろしく、リタ」
リリーティアは微笑む。
だから、彼女はリタにその言葉を伝えた。
調査に対してというよりも、自分のことに対して。
これからも続く、この繋がりに。
そんな想いを込めて。
「・・・・・・。じゃ、じゃあね!」
リリーティアのその想いが伝わったかはわからないが、リタは照れくさそうに視線を逸らしたまま、短く別れの言葉を口にした後、その場を走り去っていった。
「(危険な目にあわなければいいけど・・・)」
リリーティアは彼女の身を案じながら、走り去っていくその背を見送った。
そうして彼女が見えなくなると、エステルが改めてカロルに向き直った。
「カロルも頑張ってください。ギルドを作るのでしょう?」
「うん。頑張って、ユーリと一緒にギルドを大きくしたいな」
カロルは頷いたものの、エステルを気遣わしげに見ると、
「・・・ユーリ呼ばなくても・・・いいの?」
恐る恐る訊ねた。
彼女が気にしていることを彼はずっと察していたようだ。
「ええ・・・まだ休んでるみたいですし」
これまでの疲れがたまっているのだろう。
エステルはそう思い、カロルの気遣いを断った。
「そう・・・」
カロルは心配げにエステルを見ると小さく頷いた。
ユーリが見送りに来ないことに、本当は落ち込んでいるエステル。
彼女の様子を見ればすぐにそのことは分かったが、彼が見送りにこないのは、彼女を思ってのことだと分かっているリリーティアにはどうこうできなかった。
エステルは昨日自ら帝都に帰ると言っていたが、本心ではまだ帰りたくない。
だからこそ彼は意図的にここに現れないのである。
彼女を帝都へ帰りづらくさせないために。
その決意が揺らぐことがないように。
「カロル、ユーリにありがとうって伝えといてくれる」
「え・・・あ、うん。わかった」
そんな彼の優しさにリリーティアは内心感謝していた。
だから、カロルに頼んだ。
カロルは一瞬戸惑うも、すぐに頷いた。
彼女のその感謝の意味を理解したわけでないようだが、リリーティアは別にそれでよかった。
それを聞いた彼にも、その言葉に対してどう解釈しようとかまわない。
ありがとうと言っていた。
ただそのことを伝えてくれればそれでいい。
「では、ここで・・・」
「また会えるといいね」
頭を下げるエステルにカロルは淋しげに言った。
「カロルありがとう、元気で」
「うん、リリーティアもね」
さみしげな表情を浮かべたまま、カロルは頷いた。
それを見ると、リリーティアにも少しばかりのさみしさを覚えたが、小さく笑みを浮かべた。
そして、カロルに見送られながら、二人は東にある街の入口に向かって歩き出した。