第14話 決意
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深まる夜。
闇に浮かぶ、十七夜(かなき)の月。
月の光が仄かに照らすダングレストの街の一角。
この街特有の賑やなさはなく、辺りは静寂に包まれていた。
そんな静寂漂う中に一つの黒い影。
その影は一切の音も立てず、物陰に寄り添いながら動いていた。
黒い影は街の入口に架けられた橋に近づくと、物陰とその身を一体にした。
その時である。
「これで頼みましたよ」
老年の声がひとつ。
それは橋のたもとから聞こえた。
黒い影は物陰から、その様子を窺(うかが)っている。
「アレクセイがいないと思ってはめをはずしましたか・・・」
その声の主は、評議会議員 ラゴウ であった。
彼の周りには物騒な格好をした屈強な男たちが立っている。
傭兵たちだろう。
ラゴウはその傭兵たちと何やら話をしているようだ。
「それにしても、あの小娘しぶといですね。奴らを雇うのにどれだけ金がかかっていたと・・・」
忌々しげに響く声音。
黒い影は僅かに動いた。
その影からは白銀が僅かに見え隠れしている。
「アレクセイの狗め、さっさとくたばれはよいものを・・・」
黒い影は物陰から、一歩踏み出した。
だが、影はすぐに止まった。
何かに気づいたのか、再び物陰と一体になる。
その影は大きく動揺していた。
「あとは、あの生意気な騎士の小僧・・・、フレン・シーフォか・・・」
ラゴウは憎らしげな表情を浮かべて言う。
その言葉を耳にしながらも、影はまだ動揺していた。
ただその影はラゴウを見ずに、それとは正反対の方向を見ている。
その先には、もう一つの影の姿があったのだ。
その影はラゴウと傭兵たちに音もなく近づいていく。
「この恨み、忘れませんよ。奴も評議会の力で、必ず厳罰を下してやります」
途端、その影は目にも止まらぬ速さで動き出す。
物陰に隠れている影はとっさにその身を乗り出して見た。
「うわっ・・・!」
ひとりの傭兵が影に切り捨てられた。
そのまま橋の下に流れる大河へと落下していく。
あっという間に数人いた傭兵たちは橋の下へと姿を消した。
「何・・・!?」
影はラゴウを静かに睨んでいた。
「あ、あなたは・・・。私に手を出す気ですか!?私は評議会の人間ですよ!」
ラゴウの声にいっさい耳を傾けず、影は彼に詰め寄っていく。
どこか威圧的な空気を放っている、その影。
「あなたなど簡単に潰せるのです。無事では、す、すみませんよ」
言葉は己の威信と自尊心に溢れているが、その声は震え上がっている。
影はさらに詰め寄る。
「法や評議会がおまえを許してもオレはおまえを許さねえ」
影は言葉を発した。
その声に物陰からその様子を見詰めている影は微かに動く。
静かに零れ出たものでありながらも、それは、腹の奥を重く圧迫するような声だった。
「ひぃ、く、来るな!」
ラゴウはこれ以上なく震え上がっている。
その体も、その声も、すべてが、影から放たれる恐怖に怯えていた。
それは、あまりにも無様な姿。
その恐怖に耐えられなくなったのか、影に背を向けて逃げ出すラゴウ。
刹那、その背に白く輝く一閃。
同時に朱(あか)が飛び散った。
「ぐっ・・・」
ラゴウは体を仰け反り、唸る声を漏らす。
じわりじわりと朱に染まっていく背中。
「あと少しで、宙の戒典(デインノモス)をぉ・・・」
苦し紛れに零す声。
大きくふらつく身体。
「・・・がふっ」
口から溢れる朱と共に、その体は橋の手すりを超えていく。
そして、頭から真っ逆さまに落下し、流れる大河へと音を立て吸い込まれていった。
あたりは一瞬にして静寂に包まれる。
橋のたもとにいる影はしばらくそこに佇でいた。
どのくらい経った頃か、その影はその場を歩き出した。
音もなく、街の中へと消えていく。
もう一つの影が、そこにいたとは気づかないまま。