第13話 楼閣
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「じゃあ、私はここでお別れね」
ダングレストに戻るという話をユーリたちがした頃、ジュディスが彼らに告げた。
「ここからは別行動。お互いの行動に干渉はなしね」
「そっか、じゃあな」
彼女の言葉はどこか突き放すような言い方であったが、対するユーリもそっけないとさえ言える態度であった。
彼もジュディスの正体を知っている。
思えば、さりげなく彼女のことをフォローしている言動がこれまで度々あった。
彼は彼女が竜使いであることを重要視していないらしい。
終始、彼女と接してる様は普段と変わらず、これまで旅を共にしてきたリリーティアたちと何ら変わらないものであった。
「ええ・・・」
ジュディスはユーリに頷くと、背を向けた。
リリーティアはその場から離れる彼女の背をじっと見詰めた。
傍にヘルメス式魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)があるというのに、ジュディスは、竜使いは背を向けて歩き出す。
リリーティアは未だに判断がつかないでいた。
短い時間であったとしても、これまで行動を共にした彼女の様子を見てきた。
魔導器(ブラスティア)の助力を失ってもバルボスは手強い相手だった。
ひとりの戦士としても強力だっただけでなく、率いる勢力においても強大であったのだ。
そのバルボスたちに自分たちと共に挑んだジュディス。
必ずしも同じ目的のためにそうしている訳ではなかっただろう。
にも拘わらず、彼女はこの危険に自ら進んで投げ出していたようにも見えた。
何より、敵と戦う中で周りのことをよく見、最善の行動をとってくれていた。
それは確かに共に戦う者たちのためにとっていた行動だった。
そのことが、リリーティアを戸惑わせた。
早急の判断を鈍らせる。
こうして考えている間にも彼女は自分たちからどんどん離れていく。
ユーリたちもダングレストに向けて、その場を発とうしていた。
「ジュディス」
リリーティアが彼女の名を呼ぶ。
それは、半ば無意識の行為だった。
彼女が振り返ってその時、自分が発した声なのだと認識したほどに。
なぜ彼女を呼び止めたのか。
リリーティアはふと他人事のように考えた。
しかし、その答えはすぐに出た。
彼女は竜使いだ。
それは紛れもない事実。
けれど、もうひとつ確かな事実がある。
それは----------、
リリーティアは、笑みを浮かべた。
「あの時、助けてくれてありがとう」
----------私を助けてくれたという事実。
あのことが彼女が竜使いであると確信するきっかけとなったが、助けてくれたことも確かだった。
リリーティアは竜使いとしての彼女を確かに恐れていた。
かつて竜使いに受けた傷を通して-------。
その傷を受けた右肩はすでに傷跡もなく完治しているにも拘わらず、
まるで右肩自体がそこに当時の事を鮮明に記憶しているかのように竜使いが現れる度に必ず痛み疼いた。
それは、罪の重さに耐える叫び声のように。
それは、真実を知ることを恐れる呻き声のように。
今もほんの少しだけ、鈍い痛みを感じている。
けれど、言っておきたかった。
今、言っておかなければと。
彼女の正体に愕然として、あの時、言い忘れていたその言葉を。
リリーティアの言葉にジュディスは僅かに目を見開く。
ジュディスは内心大きく戸惑っていた。
なんと言葉を返していいのか分からない。
それは、塔の中で休憩中に話していたその時とまったく同じで。
その上、彼女の浮かべるその表情は柔らかく、相変わらずそれは心から向けられたものであった。
「・・・・・・ええ」
ようやく出た言葉。
たった一言。
しかし、ジュディスはまた、彼女のその柔らかな笑みに自然と笑みを零したのだった。
ジュディスは踵を返すと、再び歩き出す。
リリーティアはその背をしばらく見詰めると、ユーリたちへと振り向いた。
「さあ、ダングレストに戻ろう」
彼女の言葉に皆が一斉に頷くと彼らもその場を歩き出した。
リリーティアはもう一度、ジュディスが去っていったほうを見る。
すでにそこに彼女の姿はなかった。
結局、竜使いに対しては、一時の旅の道連れとしたまま別れる、ということになった。
リリーティアは自分の判断がそれで良かったのか分からなかった。
いや、正確には判断を下せないままに終わったといったほうが正しい。
成り行きに任せただけにすぎないのだ。
ただ
リリーティアはふっと息を吐くと、前を行く彼らの後に続いた。
彼女はまたその姿をあらわすことになるのだろう。
竜使いとして。
この世界にヘルメス式魔導器(ブラスティア)がある限り、きっとそれは続いていくのだ。
そのほとんどに自分が関わっている。
リリーティアは心の底で何かが重くのしかかったような気がした。
それでも、ヘルメス式魔導器(ブラスティア)は必要なのだ。
「・・・・・・私たちの理想のためには」
リリーティアはひとりそう呟くと、その思考の方向を一転させた。
自分が下した結果について考える。
黒幕の自決。
思わぬ者による助勢。
ガスファロストの機能損失。
そこには、竜使いという言葉はない。
彼女はダングレストへと帰路へつく道中、そのことだけを頭の中で巡らせ続けた。
心の底に感じた重みを振り払うかのように。
第13話 楼閣 -終-