第13話 楼閣
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「まったく、魔核(コア)が無事でよかったぜ」
手にした魔核(コア)を眺めながらユーリが言った。
「水道魔導器(アクエブアラスティア)の魔核(コア)ってそんなに小さいものだったんですね」
エステルがまじまじと魔核(コア)を見詰めて言った。
それは下町の水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)だった。
あの機械剣から取り出して、今は彼の手におさめられている。
一行はガスファロストを出たところだった。
塔の基部となっている古代の遺跡の扉を潜って空を仰ぐと、太陽は真上を過ぎて、だいぶ下っているところにあった。
「無事に取り戻せてよかったね」
「でも、バルボスを捕まえることができませんでした・・・」
喜ぶカロルとは対照的にエステルは少し気が沈んでいる。
「・・・・・・」
リリーティアはエステルの言葉を半ば上の空で聞いていた。
一行から少し離れて、彼らの様子を後ろから眺めながら考えに耽っている。
バルボスから水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)を取り戻してから、
ガスファロストを出るためにあの長く続く階段を下ってきたのだが、その過程で驚くことを目にした。
塔の中に施されていたヘルメス式魔導器(ブラスティア)が軒並み破壊されていたのである。
しかも、元来の魔導器(ブラスティア)のみだけが破壊されず、ヘルメス式だけが壊れていたのだ。
「(でも、どうしてあの魔核(コア)だけ・・・)」
リリーティアはユーリの手におさまっている水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)を見る。
ひとつ疑問だったのが、機械剣の機能はあの時失われたのに、
どういうわけか、その剣に組み込まれていた水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)だけは壊されずに残っていたことだ。
間違いなく、それもヘルメス式魔導器(ブラスティア)であったにも拘わらず。
「(彼が意図的に行ったことか、それとも・・・・・・)」
その疑問だけは未だに分からないが、塔の中にあったすべてのヘルメス式魔導器(ブラスティア)が破壊された原因は、
デュークが一行を助勢したあの時に行った行為がすべての原因だろう。
彼が宙の戒典(デインノモス)を掲げた後に一瞬見えた、魔導器(ブラスティア)の術式を思わせる文様。
それが干渉してヘルメス式魔導器(ブラスティア)だけになんらかの作用を起こさせたと考えてよかった。
魔道士であるリタも、地上に戻る間、デュークの行為が塔の中にもたらしたその結果について、
始終憤りつつあれこれと推論を巡らせ、鍵紋だの遷移干渉術だのと延々と魔導器(ブラスティア)に関する専門用語を呟いていた。
「(結局、彼はなんのためにここにきたのか・・・・・・)」
リタのその呟きを耳にしながら、リリーティアも考えを巡らせていたが、それよりも彼女は彼の真の目的のほうが気がかりだった。
彼もヘルメス式魔導器(ブラスティア)を破壊するためだけにここに来ていたのか。
そうだとすれば、それは竜使いと同じ目的となる。
ならば、竜使いと何かしらの関係があるということなのだろうか。
リリーティアははじめは竜使いである彼女と仲間なのかもしれないと疑ったのだが、
塔を下る間、彼女がデュークについてユーリたちに聞いていた様子をうかがい見ていた限りでは、彼女自身、本当に知らない様子であった。
ますます彼の行動の真意がわからない。
「さて、魔核(コア)も取り戻したし、これで一件落着だね」
「まだ一件落着には早いな。こいつがちゃんと動くかどうか確認しないと」
ユーリの声にリリーティアは彼が手にしている魔核(コア)を見詰めた。
ヘルメス式である魔核(コア)がそこで仄かに光輝いている。
「魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)はそんなに簡単に壊れないわよ」
「ふ~ん、そうなんだ。知ってた、レイヴン・・・・・・??」
カロルがレイヴンに話かけようとして振り向いたが、あたりを何度見回しても、彼の姿はそこになかった。
「あれ・・・?ねえリリーティア、レイヴンは?」
カロルの問いにリリーティアも今になって彼がいないことに気づいた。
「・・・だぶん、先にダングレストに戻っだんだと思う」
彼女は小さく苦笑を浮かべると、肩をすくめた。
ダングレストに帰ったのは間違いないだろう。
しかし、ひとりで一足先にダングレストへと戻る理由まではわからない。
バルボスの処遇や塔の上でのびている傭兵たちの対処について、ドンへの報告を早急に済ますためか。
それとも、他に何かしらの理由があるのかもしれない。
リリーティアはそれ以上の推察はやめた。
彼には彼のやるべきことがあるだけなのだから。
「また、あのおっさんは・・・・・・本当に自分勝手ね」
「それをリタが言うんだ」
呆れるリタにカロルがさらに呆れていた。
「人それぞれでいいんじゃない?」
ジュディスが言う。
リリーティアは彼女をそっと窺うように見た。
彼女も一行の少し離れた位置に立ち、ユーリたちの様子を見ている。
竜使いである彼女。
デュークの目的は分からずとも、彼女が竜使いとわかった以上、ガスファロストにいた彼女の目的だけははっきりとしている。
それは、ヘルメス式魔導器(ブラスティア)を破壊するため。
バルボスを追ってというよりも、バルボスが持っていた機械剣、そこに嵌め込まれていたヘルメス式である水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)を追って、おそらく今まで行動を共にきてきたのだろう。
塔に使われていたヘルメス式魔導器(ブラスティア)のこともある。
彼女がここへ訪れた理由の違和感。
竜使いだと確信してから、リリーティアの中にあったその違和感は一瞬にして払拭された。
納得したのだ。
自分たちと行動を共にしてきた理由にも説明がつくのである。
しかし、塔の中あったヘルメス式魔導器(ブラスティア)は壊されたが、だた唯一残っているヘルメス式魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)がまだ目の前にある。
さっきからリタがその魔核(コア)そのものを調べたそうな様子を見せているが、ユーリは黙殺していた。
彼にとっては魔核(コア)を早く元あった場所に戻し、身内同然の下町に魔導器(ブラスティア)の恩恵を取り戻すこと以外は重要ではないのだ。
しかし、竜使いである彼女はどうだろうか。
リリーティアは内心警戒していた。
それに、何よりエステルのことがある。
ヘリオードで彼女を狙っていたことは忘れもしない。
なぜヘルメス式魔導器(ブラスティア)のみならず、突如として彼女のことも狙うことになったのか。
その理由を当事者であるジュディスに尋ねたかったが、今ここで聞けるはずもない。
他にも聞きたいことは山ほどあるのだが。
リリーティアは右肩が微かに疼いたのを感じ、音もなく息を吐いた。
疼きに意識を奪われないように、考えを巡らせ続ける。
これから、自分はどう動くべきだろうか。
竜使いがすぐ近くにいる。
一時的といえど、自分たちの仲間として、ここに。
あの時はバルボスのことがあってその判断を後回しにしたが、そのバルボスのことはすでに片がついた。
----------ならば今、改めてその判断を下さなければ。