第13話 楼閣
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「観念して、おとなしく法の裁きを受けなさい」
四方からバルボスの部下たちが迫る中で、エステルは力強い声音で言う。
彼女の言葉にバルボスは鼻で笑うと、口元を釣り上げて余裕な表情を浮かべた。
「貴様らガキなんぞにワシの前ではチリにも等しいわ!ワシはいずれユニオンをぶっ潰し、そして世界も制覇する男」
「ボクたちが絶対、そんなことさせないから!」
危険な戦いとなると、いつもは少し及び腰な姿を見せるカロル。
今もそこにはきごちなさがあるが、それでも、いちギルドの首領(ボス)に対して勇ましく言い放つ。
ドンに強い憧れを持ち、故郷であるダングレストを自慢に思っている彼にとって、バルボスの野望は誰よりも許せない。
その想いが今の彼を奮い立たせているのだ。
「やかましいわ!剛嵐のバルボスの真の力を思い知れ!」
「ここで白黒つけてやる!」
剣を掲げ高らかに叫ぶバルボスに、ユーリは剣をひと振りしてバルボスを睨み見る。
ユーリの言葉にリリーティアたちもそれぞれに武器を構えて臨戦態勢に入った。
この時、バルボスの部下たちが一行たちのいる場所までたどり着く。
「加減するな、行け、しもべども!」
己が首領(ボス)の命と共に、頂上には傭兵たちの鬨の声が響き渡る。
バルボスの部下たちが四方から迫ってきた。
リリーティアは背後に振り向くと、《レウィスアルマ》を振り上げる。
「アムニス!」
即座に魔術を叫ぶと、激流の水が傭兵たちに襲いかかった。
その水圧で相手は地に倒され、攻撃の直撃を受けた者はそのまま気絶した。
リリーティアはバルボスがいるほうへ一瞥する。
見ると、ユーリと剣を交えていた。
「(仕方ない、とりあえず奴はユーリに任せるべきか・・・・)
傭兵たちの数は増えていく一方で四方の入口から途絶えることなく現れている。
このままではその数に飲み込まれて、不利な状況に追い込まれてしまう。
そして、目の前には5大ギルドのひとつを率いる強力な力を持ったバルボスもいるのだ。
バルボスだけの相手なら戦いの打開策は見い出せそうだが、そこの部下が総出となってとなると話は変わってくる。
厳しい戦いとなるのは確実だった。
リリーティアは思考を巡らせると、この戦いでの自らの立場を見極め行動を決めた。
「猛々しき紺青 激情の如く逆巻き 激動の時代(とき)をも飲み込まん!オケアヌスマリス!」
周りに術式を描き素早く詠唱すると、魔術を発動するリリーティア。
広範囲に術式が浮かび上がると、そこから大きな津波が巻き起こり、傭兵たちを襲った。
術式の津波に襲われた大半の者たちが床に伏す。
この戦いではバルボスの部下たちを一掃することを己のすべき事として、彼女はその身を置いた。
「スプラッシュ!」
声が聞こえたと思った時、リリーティアの頭上に術式が浮かんだ。
彼女は慌てて地を蹴って後ろへと避ける。
術式から大量の水が注ぎ落ち、彼女がさっきまでいた場所に容赦なく降り注いだ。
その魔術はバルボスの部下のうちの一人が放ったものであった。
『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』は傭兵だからといって、何も剣を振るうばかりの集団ではない。
中には魔術を会得している者、術者も数多くいた。
何よりそれが一番厄介だった。
リリーティアは険しい表情でその術者を見る。
自分たちから距離を置いて通路の上に立っている。
直接そこへ向かうにはあの狭く戦い難い足場を渡らなければならず、術者の前にはその者を援護し守っている物騒な男たちがいた。
魔術で間接的に攻撃を仕掛けるしかない。
「アーラウェンティ!」
リリーティアは詠唱なしで魔術を発動する。
その直後、湾曲の剣を手に持った屈強な男が攻撃をしかけてきた。
彼女はさっと避けると、瞬時に《レウィスアルマ》の片先に黄色に輝くエアルで刃を構築した。
「スプレンデンス!」
敵を突くと、刃が強く光り弾け、その衝撃で相手が吹き飛んだ。
リリーティアはさっき攻撃してきた術者を見ると、何事もなくそこに立っていた。
おそらく彼女が放った攻撃は難なく避けたのだろう。
下級な魔術では攻撃範囲も狭く、瞬時に察知したその相手は軽々と避けたようである。
それを見た彼女は直ちに敵の術者に向けて魔術の発動しようとした。
しかし、近接の傭兵たちがそれを許さなかった。
二人の傭兵が飛びかかってくる。
彼女は冷静にその二人の攻撃を難なく避け、《レウィスアルマ》で胴体の急所をついた。
倒したのものつかの間に、また別の傭兵たちが襲ってくる。
「ああ、もう!うざいわね!」
リリーティアの後ろでリタが苛立ちをあらわにしながら、魔術を放っていた。
何度倒してもいっこうに減る様子もない傭兵たち。
リタとしても魔導器(ブラスティア)をひどい扱い方をするバルボスを早く倒したいのだろう。
部下の相手をするのは不本意極まりないようだ。
リリーティアは傭兵たちと戦いながらも周りの様子を窺い見ていく。
「小僧、やはりなかなかやるな!だが、ワシの前には適わねえ!」
「ふん、まだまだ!」
バルボスはユーリが相手をしているが、互いに牽制しあっている状態で決定打な攻撃は仕掛けられていないようだ。
ラピードは主人であるユーリと共にではなく、数の多い傭兵たちの方を相手にしている。
「これでもくらえ!うわっ!」
「ワンッ!」
カロルもなんとか傭兵たちを相手をしているが、どこか危なかっしいところはあった。
だが、傍にラピードがついているから心配はないだろう。
「天月旋!月牙!」
ジュディスも俊敏な立ち回りで傭兵たちを倒しており、的確に相手の攻撃を避けて、一人一人確実に敵を倒している。
リタは何度も魔術を詠唱して敵に攻撃を繰り出し、エステルも隙を見計らって攻撃魔術を仕掛けながらも、補助の魔術で仲間たちを援護していた。
そこまで見る限り問題はない。
「(でも、この状況は・・・・・・)」
リリーティアは、レイヴンへと視線を移す。
「時雨!回る景色!」
彼は左手にある弓を剣に変えて、右手に小太刀を持ち、傭兵たちと戦っている。
戦いが始まってからというもの、彼は術を使う間もなく敵との接近戦を強いられていた。
それはリリーティアも同じで、時に隙をついて詠唱なしで魔術を発動しているとはいえど、それでも敵の数がその隙さえも与えず攻撃を繰り出してくるため、接近戦を余儀なくされていた。
とにかく数が多いのだ。
どれだけ倒しても、四方から敵の援軍が次々と現れる。
リリーティアはこの状況が長引くことを危惧として見ていた。
彼女やレイヴンは中衛に位置する者として、リタとエステルの詠唱を邪魔されないように立ち振る舞って戦っているが、これまでならいくら敵の数が多くても自分たちも魔術を放つ隙はあり、前衛を援護する立場も出来ていた。
しかし、今はどうだろうか。
そんな余裕はどこにもなく、さらに言えば、その位置を守ることだけでも半ば必死な状態に近かった。
それだけでなく、何より今戦っている立地もリリーティアたちにとって不利であった。
円状のこの地形は周りは柵もなく、そこから足を踏み外せば奈落の底へと落ちて確実に命はない。
後衛の二人が襲われないような立ち位置で戦うとしても、あまりに後方に下がらせるとその後ろは奈落の底だ。
敵には術者もいる。
後衛に向かって術を発動されたら、彼女たちは真っ逆さまに奈落へと落とされてしまうだろう。
敵である術者の攻撃には特に注意を払うべきだった。
「(術者との距離だけはよく見計らっておかないと・・・)」
リリーティアは敵の術者たちへと時折視線を移しながら、攻撃をしてくる傭兵たちと戦い続けた。