第13話 楼閣
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それから、さらに何階目かの階段を上った。
あれからバルボスの部下たちは姿は見せず、すんなりと先へと進んでいる。
バルボスの根城でありながら、そこには仕掛けも何もない。
この先に大きな罠が待っているのではないかと、カロルが不安げに言っていたが、先へ進まないことにはどうにもならないと、ユーリは構うことなく上へと進み続けた。
リリーティアも周りを警戒しつつ、一段一段階段を上っていく。
そして、一体どこまで続くのかと思っていた矢先のこと、突然、傭兵たちが大勢襲ってきた。
一行は武器を手に彼らと一戦交えたが、どうにかそれも退くことができた。
「厳重に守ってたってことは」
「この上が頂上ってことね、きっと」
ユーリとジュディスが話す。
二人の視線の先、上に上がる階段の先は扉があった。
おそらく頂上に続く扉だろう。
今まで鳴りを潜めていた様子であったバルボスの部下たちが、ここへきて一斉に攻撃をしかけてきたということは、この先には何かがあるということだ。
「んじゃ、行くぜ」
ユーリは階段を上っていく。
リリーティアたちもその後に続いた。
階段を上りきり、その扉を開くと視界いっぱいに光が溢れる。
外だ。
一行はついに塔の頂上へとたどり着いたのである。
頂上には辺りを取り囲むように巨大な歯車の輪が重々しい音を轟かせながらゆっくりと回転していた。
「性懲りもなく、また来たか」
憎々しげな声音が塔の屋上に響いた。
『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の首領(ボス)、バルボスの声だ。
その手には例の機械剣が握られている。
「待たせて悪ぃな」
ユーリはその機械剣を一瞥をする。
「もしかして、あの剣にはまってる魔核(コア)、水道魔導器(アクエブアラスティア)の・・・!」
「ああ、間違いない・・・」
リタの言葉に、ユーリが頷く。
バルボスが持つ機械剣には青く輝く魔核(コア)がはめ込まれていた。
それは、下町に使われていた水道魔導器(アクエブアラスティア)の魔核(コア)であった。
「分もわきまえぬバカどもが。カプワ・ノール、ダングレスト、ついにガスファロストまで!忌々しい小僧どもめ!」
「バルボス、ここまです。潔く縛に就きなさい!」
「そう、あんたもう終わりよ!」
エステルとリタの凛とした言葉。
しかし、バルボスは一笑に付した。
「ふんっ、まだ終わりではない。長い歳月を費やしたこの大楼閣ガスファロストがあれば、ワシの野望は潰えぬ!」
己の野望を滔々(とうとう)と披瀝(ひれき)すると、剣を突きつけるバルボス。
「<帝国>を利用して作り上げたこの魔導器(ブラスティア)があればな!」
バルボスが手にしている剣の先端から見えない衝撃が放たれる。
「下に飛び降りろ!」
瞬間、ユーリが叫ぶ。
一行はその攻撃から逃れるために、次々と一段低い場所へと大きく飛び退(しさ)っていく。
下段まではそれなりの高さがあり、飛び降りることに少し臆した様子のエステルに、傍にいたリリーティアはすかさず彼女を横に抱いて飛び降りた。
彼女の礼の言葉にただ頷き返すと、リリーティアは自分たちを追って宙を飛んでくるバルバスを鋭い目で見る。
「下町の魔核(コア)を、くだらねえことに使いやがって」
ユーリは怒りを湛えた目で、目の前に降り立つバルボスを見据えた。
「くだらなくなどないわ。これでホワイトホースを消し、ワシがギルドの頂点に立つ!ギルドの後は<帝国>だ!この力さえあれば、世界はワシのものになるのだ!ハエども!」
バルボスが衝撃波を乱射する。
一行たちの周囲で激しい衝撃が炸裂した。
直撃は免れたものの、屋上の縁に追い詰められてしまう。
その下は底知れぬ闇が広がっていて、落下すれば確実に命はない。
「あの剣はちっとやばいぜ」
「やばいっていうか・・・こりゃ反則でしょ」
「圧倒的ね」
ユーリ、レイヴン、ジュディスが苦い表情を浮かべる。
リリーティアもこの状況をどうするべきか考えを巡らせながら、バルボスに険しい目を向けていた。
「グハハッ!!魔導器(ブラスティア)と馬鹿にしておったが使えるではないか!」
その剣の威力にバルボスはすっかり悦に入っていた。
大笑いしながら剣を掲げると、その頭上で剣が輝きを増していく。
バルボスが剣を振ると、塔の頂(いただき)のあちこちで爆発が起きた。
「そんな・・・!」
エステルは思わず声を上げる。
「どうした小僧ども。口先だけか?」
「(・・・・あの剣をどうにかしないと)」
リリーティアは辺りを見渡しながら、バルボスと対抗するための打開策を探る。
しかし、周囲は爆発に包まれ、バルボスに一歩も近づくことができない。
このままではバルボスを捕らえるどころか、こちらの身が危険だった。
「お遊びはここまでだ!」
爆発もいまだ収まらない中、バルボスがふたたび機械剣を掲げた。
次の攻撃に一行が身構えた、その時。
「伏せろ」
轟き渡る騒音の中で、その声は不思議とはっきり耳に届いた。
見ると高みからひとりの男がこちらを見下ろしている。
その男とは、この塔を上がる前にレイヴンと何やら会話を交わしていたデュークであった
彼は宙の戒典(デインノモス)を掲げた。
同時にその周囲に光が生まれる。
その一瞬、魔導器(ブラスティア)の術式を思わせる文様が浮かび上がるのをリリーティアは見た。
「なにっ!?」
さらにデュークから放った光は強まり、塔全体を包み込むと、バルボスの手にしていた剣が音を立てて爆発する。
その光が消えた時、彼は何も言わずその場から去っていった。
「(彼の目的はいったい・・・)」
自分たちがここへ来た時、すでにこの塔にいたデューク。
目的はバルボスを止める為だったのか。
それとも、他に目的があってここへ訪れていたのか。
リリーティアは彼が去っていったほうを訝しく見詰めていたが、すぐにバルボスへと視線を戻した。
彼の目的の詮索よりも、今は目の前の目的を為すべきだ。
バルボスは煙をあげて壊れてしまった機械剣を忌々しげに見ていた。
「・・・くっ、貧弱な!」
「形勢逆転だな」
ユーリはバルボスに詰め寄る。
「・・・賢しい知恵と魔導器(ブラスティア)で得る力などまがい物にすぎん・・・か」
バルボスは機械剣を投げ捨てた。
「所詮、最後に頼れるのは、己の力のみだったな。さあ、おまえら剣を取れ!」
バルボスは新たな剣を手に持った。
それは、なんの変哲もない大剣だった。
しかし、その刃は広く、人一人分あろうかというほどの巨大な剣。
ノール港近海にて、船上で手にしていたあの剣と同じものである。
バルボスにとってはそれが愛刀らしい。
「あちゃ~、力に酔ってた分、さっきまでの方が扱いやすかったのに」
「開き直ったバカほど扱いにくいのはないわね」
レイヴンは頭を抱えて嘆く。
珍しくリタもレイヴンの言葉に同調し、やれやれと面倒そうにバルボスを見た。
「ホワイトホースに並ぶ兵(つわもの)剛嵐のバルボスと呼ばれたワシの力と・・・」
と、その時、歯車の輪が激しく唸る音が響く。
リリーティアアたちがいる円状の場所から四方に通路が伸びた。
通路の先には大きな穴が開いていて、そこから続々と物騒な格好をした者たちが駆け出してくる。
バルボスの部下である傭兵たちだ。
「ワシが作り上げた『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の力。とくと味わうがよい!」
剣を突きつけるバルボスの威勢いい声。
一行はそれぞれに愛用と武器を手に持った。