第13話 楼閣
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「はい、これで最後!」
リタの放った火属性の魔術がひとりの傭兵を吹き飛ばす。
傭兵は地面に倒れこんで気絶し、辺りは静寂に包まれた。
どうにか全ての敵を倒し終えたようだ。
「おっ・・・やってるな」
その時、静寂を断ち切る声が響く。
見ると、開かなかった扉がいつのまにか開いていて、そこにユーリが立っていた。
「ユーリ!」
彼の姿を見た途端、エステルが駆け出した。
他の皆も彼の元に集まる。
「おわっと・・・ちょっと、離れろって・・・」
「だいじょうぶです!?ケガはしてません?」
「なんともないって。心配しすぎ」
エステルは半ば飛びつくようにして、怪我はないかユーリの体をあちらこちら確かめ始める。
ユーリはたじろき、少し困っているようだ。
彼女のその必死な様子に、 リリーティアは表情を綻ばせてそれを眺めていた。
「おまえらも・・・おとなしくしてろって言ったのに」
ユーリは呆れた表情を浮かべて、リリーティアたちを見る。
「だって、みんなユーリのことが心配で!」
「ちょっと、別にあたしは心配なんてしてないわよ」
「おっさんも心配で心配で」
「嘘つけ。っていうか、なんでおっさんまでわざわざ来てんだ?」
「ドンがバルボスなんぞになめられちゃいけねえとか言い出してさ。仕方なくここまできたってわけよ」
それぞれに反応を返すが、レイヴンにいたってはあまりの大げさな身振りにユーリはすかさず彼に疑いの目を向けている。
「そもそも、おまえたち、どこから入ってきてんだよ」
そう言いながら、ユーリはリリーティアへと視線を向けた。
”お前がいながら何をしているんだ”と彼はそう言いたいらしい。
その視線の意味を察して、彼女は肩をすくめた。
「仕方なかったんだよ。表の扉も閉まってたみたいだし」
「だからってなあ・・・」
苦笑を浮かべる彼女に、ユーリはやれやれとため息をついた。
その時、ユーリが出てきた扉から、もう一人現れた。
「・・・だ、誰だ、そのクリティアッ娘は?どこの姫様だ?」
「おっさん、食いつきすぎ」
リタが冷たく返す言葉の通りに、レイヴンはその人物を身を乗り出すほど食い入って見ている。
その人物は耳が尖っていて、青色の髪の中に水色に近い触覚がある。
彼が言うように、クリティア族の特徴である容姿であった。
「オレと一緒に捕まってたジュディス」
「こんにちは」
ユーリの紹介に、にこっと笑顔を向けるジュディスという女性。
青色の前髪にはメッシュのように薄紫色が入っていて、髪は渦のように後ろに束ね上げている。
その髪束にも、ひとつだけ筋のように薄紫の色に変わっていた。
前髪の下から見える切れ長な瞳は、揺るぎないほどの強い意志を秘めているように見える。
クリティア族はどこかのほほんとした穏やかな印象の種族だが、強い意志を感じさせるその瞳のせいか、彼女にはそれとはまた違う印象を受けた。
愛用の武器なのか、その手に槍が握られていることも、そう思わせるひとつなのかもしれない。
また、彼女は露出が多い服を身に纏っており、どこか目のやり場に困る格好であった。
その上、豊満な胸に高い身丈、それでいて華奢な体つきの容姿端麗な女性。
つまりは、レイヴンが彼女に食いついた大きな要因は、そこにあるということで、ゆえにリタが大きく呆れていたのである
「ボク、カロル!」
元気な声で、新参者の彼女へと自己紹介をするカロル。
彼を筆頭に、皆がそれぞれに名乗っていく。
「エステリーゼって言います」
「ボクらはエステルって呼んでるんだ」
「リタ・モルディオ」
「そして俺様は-------、」
皆が次々と自己紹介をする中、待ってましたとばかりに、レイヴンは気取った調子で名乗ろうとするが、
「おっさん」
「レイヴン!レ・イ・ヴ・ン!」
そこに、リタがすかさず口を挟んだ。
レイヴンは大声で自分の名を強調して答えた。
「そういう言い方する人って信用できない人多いよね」
彼の必死さに、リタ同様にカロルは冷たい視線を向けた。
「なーんか、納得いかないわ」
「ま、いいんじゃねえの、とりあえず」
大げさに肩を落として落ち込むレイヴンにユーリは苦笑を浮かべる。
「ウフフ・・・愉快な人たち」
「おお?なんだか好印象?」
「バカっぽい・・・」
落ち込んでいたレイヴンだが、ジュディスの反応に彼はすぐにいつもの調子を取り戻したようであった。
その変わりようにリタは深くため息をついているが、リリーティアは彼らしいその様子にただ可笑しげに笑ってそれを見ている。
そんな時、ジュディスの視線を感じた。
リリーティアは自分が名乗っていないことに気付き、改めて彼女に向き直った。
「私はリリーティア・アイレンスと言います。どうぞよろしく」
「アイレンス・・・・・・?」
名前を聞いた途端、ジュディスは何やら呟いて思案な表情を浮かべた。
だが、彼女のその呟きは誰にも聞き取れていなかった。
「ジュディス、あなたはここへ何しに来てたんですか?」
「私は・・・魔導器(ブラスティア)を見に来たのよ」
エステルの問いにジュディスは答える。
「わざわざこんなところへ?どうして?」
畳み掛けるようにリタが聞く。
「私は-------」
「ふらふら研究の旅してたら、捕まったんだとさ」
ジュディスの代わりに、ユーリが横から答えた。
「ふ~ん、研究熱心らしいクリティア人らしいわ」
その答えにリタは納得し、それ以上ジュディスのことを聞くことはなかった。
リタだけではなく、周りの皆も納得したようだ。
しかし、リリーティアだけは訝しげな表情を浮かべ、ジュディスのほうをうかがい見ていた。
「水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)は取り返せたんですか?」
「残念ながらな」
「じゃあ、この塔のどこかにあるのかなあ・・・」
カロルが空高くそびえ建つ塔の先を見上げた。
塔の真下から見上げると、雲を突きつけるほどの高さがあるような錯覚さえ覚える。
一行はバルボスを追って塔の頂上まで向かうことを決めた。
ユーリによると、二階の内部からは上に続く道がないという。
そこで、この外側にある梯子から上層の入口を探そうということになった。
そうして歩き出す一行だが、レイヴンはその場から動かず、ずっと塔の上を見上げている。
リリーティアが彼に声をかけようとした思った矢先、彼女ははっと何かに気づいた。
「どうした、おっさん?」
その変わりにユーリが彼に声を掛けた。
ユーリもその場に留まっている彼を訝しく思ったらしい。
「あ、いや・・・こんな立派な塔に住んでたら、自慢できるだろうなあと思ってねぇ」
「ふーん・・・。リリーティア、ラピード、行こうぜ。ついでにおっさんも・・・」
「俺のほうがついでかよ」
レイヴンはジト目で歩き出すユーリを見る。
リリーティアは苦笑を浮かべると、ラピードと並んでユーリの後に続いた。
「(・・・・・・今の気配は)」
レイヴンがいまだにそこに留まっていることを背に感じ、一度そっと後ろへと視線を向けて見る。
彼はいまだにその場に佇んでいる。
だが、よく見ると、微かにその口は動いていた。
誰もいないのに誰かと話している、そんな様子。
「(どうしてここに・・・・・・?)」
リリーティアは視線を前に戻した。
彼女は仲間たちとはまた別の気配に気づいていたのである。
そして、それはレイヴンも。
彼はその気配となる者となにやら話をしているようだが、その会話を耳にすることはできなかった。
でもその気配の人物が誰なのかは分かっている。
彼女はすでに物陰から一瞬だけその姿を捉えていた。
その人物とは----------、デュークだった。
リリーティアは彼がここにいる目的が何なのか気になったが、前を行くユーリたちと共にその歩を進めた。