第13話 楼閣
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「あ!本当だ、あそこになにか見える」
カロルが指をさして言った。
指をさした先には砂地から生えたように立っている黒い塔が見える。
リリーティアたちはバルボスを追って、あれから砂地を進み歩き、バルボスの根城ガスファロストが遠くに見えるところまできていた。
それからほどなくして、一行はガスファロストの塔にたどり着いた。
「近くで見ると、とても大きいですね」
エステルはガスファロストを見上げていた。
空を貫くように天高くそびえ立った、その巨大な塔の姿に圧倒されている。
一行は塔の周りに崩れ落ちている、建物の残骸に身を潜め、塔の様子を窺っていた。
「(・・・今はなんとか中へ侵入できそう)」
ガスファロストはこれまで建物全体を覆い包むようにして竜巻を発生させ、よそ者を寄せ付けないようにしていた。
その威力は周囲の土地を不毛の砂地へと変えてしまうほど強力で誰彼と容易に近づけなかった。
それだけでなく、この塔自体が巨大な魔導器(ブラスティア)と機能しており、それもヘルメス式のものが使われているのだが、竜使いにその存在を知られてしまうために、その竜巻を起こしていた装置も塔を機能させていた装置も、これまで通常の魔導器(ブラスティア)だけを使って稼働させていた。
その時が来るまで、なりを潜ませておく考えだった。
リリーティアはアレクセイからそう報告を受けていた。
しかし、今はどうだろう。
報告通りの竜巻は一切発生していなく、入口の前に立つ見張りたちをどうにかできれば中へ入れそうな状態であった。
「(・・・・・・竜使いに壊されたのかもしれない)」
おそらく竜使いとユーリの侵入を阻止するために、今が本領発揮としてヘルメス式魔導器(ブラスティア)を稼働させたのだろう。
この塔がヘルメス式を稼働させた時点で、おそらく竜使いは次の標的としてとらえたはずだ。
つまりは竜使いがあの塔の中にいる可能性が高いということだ。
少なくとも、バルボスを追っているユーリは確実に塔の中にいるだろう。
「どうやって中に入る?」
「何人か見張りも立ってるっぽいしね」
カロルとレイヴンが話す。
ガスファロストの出入り口である大きな扉の前には二人の見張りが立っている。
扉の左右に鉄の梯子があり、それを登った先にも5人ほどの見張りがあたりを行き来しているのが見えた。
その中には弓を持つ者もいて、容易に近づくと侵入者はその矢の標的になってしまうだろう。
「どっちにしろ見張りをどうにかしなきゃなんないんだから、さっさと魔術でぶっ飛ばしたらいいじゃない」
「そんな簡単に・・・・・・」
当然のように言うリタに、カロルは呆れて見る。
だが、リリーティアはなぜか納得したような表情を浮かべている。
「それもそうか・・・。リタ、あの扉の前いにいる見張りに向かってひとつお願い」
「って、ええ!?・・・リリーティアも何言っちゃってるの!」
「ガキんちょ、声でかい」
耳元で叫ばれたリタは、目を丸くさせてリリーティアを見ているカロルを軽く睨んだ。
幸い、見張りからはまだ距離があったため、こちらには気付かなかったようだ。
「この様子だと見張りに気づかれずに中に侵入することは難しいよ。だったら、リタの言うとおり、見張りを倒して中に入るしかない。こっちから仕掛けて相手が混乱している隙に、上にいる残りの見張りも倒してしまおう」
そう言うと、リリーティアは《レウィスアルマ》を両手に引き抜いた。
「ま、この状況じゃ、それが一番かね」
「え~・・・・・・」
彼女の見解に賛同しレイヴンもその手に変形弓をとると、続いてリタも武器である帯を手にしていた。
だが、カロルは納得できず少し不安げであった。
「大丈夫ですよ、カロル」
エステルはもとよりリリーティアの判断そのものを信じているようだ。
リリーティアも大丈夫という意味を込めた笑みをカロルに浮かべて見せたが、それでも彼は納得いかないのか、本当に実行しようしているリリーティアたちにおどおどしている。
「それじゃあリタ、頼むよ」
「ええ」
カロルの心配をよそに、リタが頷くのを確認すると、リリーティアは見張りに見つからないようにその場を駆け出した。
物陰に隠れながら左側に回り込み、見張りが立つ入口の扉へと距離を詰める。
その反対側である右側からはレイヴンが見張りとの距離を詰めていた。
「炎焔の帝王、地の底より舞い戻れ」
その間、リタが魔術を詠唱している。
そして、リリーティアたちが位置についた、その時。
「出でよ!イラプション!」
魔術を発動した。
二人の見張りが立つその間の地面がひび割れて盛り上がると、そこから火が噴出し見張りの男たちを襲った。
男たちは驚いて叫ぶと、その場から逃げ惑う。
その爆音と叫び声に建物の二階にいた見張りの男たちが何事だと体を乗り出して下の様子を見下ろした。
下に気を取られている所に数本の矢が男たちを襲う。
その矢はレイヴンの放ったものだ。
「神々(こうごう)たる雷神よ、恐れを知らぬ愚者に 殃禍(おうか)なる断罪を。セレスタインマレウス!」
リリーティアも二階にいる見張りの男たちに向かって魔術を放つ。
彼女の放ったその魔術により、ほとんどの者たちは麻痺して、思うように体が動かなくなった。
その時ラピードが物陰から飛び出し、逃げ惑っている見張りの男二人に攻撃して、その場に気絶させた。
あとは梯子を登った先いる見張りだけだ。
その男たちも麻痺によってうまく身動き取れない上に、それを逃れた者たちも動揺しており冷静さを欠いている。
今がチャンスだ。
リリーティアは物陰から飛び出すと、左側の梯子をつたって上に上がり、そこにいる見張りたちを倒していく。
レイヴンも右側の梯子を上ると、弓を剣に変形させ、彼女同様に見張りたちを倒していった。
「ダメだ!ここの扉は閉まってるよ!」
カロルの声が下から聞こえた。
どうやら、あの大きな扉は閉ざされているようで外からは開けられないようである。
リリーティアのいる二階にも中へ入る扉があり、彼女はそこも調べてみたが同じように開けられなかった。
だが、その場所にも左右に梯子がかけられている。
さらに上の階へと続いているようだ。
「リリィちゃん、上!」
レイヴンの声にはっとして、リリーティアは慌てて後ろへと飛び退いた。
バルボスの部下たちが騒ぎの音に気づいて階上から飛び降りてきたようだ。
彼女は難なくその部下を倒したが、上の階からは数人の気配を感じ、まだまだここへと向かってきているようである。
その時、ラピードやリタ、カロル、エステルも梯子を上ってきた。
皆が揃ったことにより、上階から次々と飛び降りてくる増援の傭兵たちにも対処できる態勢が整い、確実にその数を減らしていった。