第12話 黒幕
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ほの暗い空。
空には明けの明星が輝いているのが見える。
あと数分もすれば夜が明けるだろう。
そんな中、一行は広大な平原の中を歩いていた。
時折、爽やかさ感じる風が一行たちの間を通り過ぎていく。
「本当にこっちの方向であってんの?」
リタが先頭を歩くリリーティアに聞く。
「このまままっすぐ歩いて、砂地に入ってしばらくしたら北西に進む。そうしたらすぐにスウェンダル諸島なんだけど、バルボスが向かった方向はそこにあてはまる」
リリーティアたちは昨日言っていたようにバルボスを追って夜明け前にダングレストを発った。
本来、<帝国>の姫であるエステルには、街でフレンと共に待ってもらうべきだったのだが、どうしても一緒に行きたいと彼女たっての願いに、リリーティアはそう悩むことなく彼女の同行に頷いた。
フレンはダングレストを発つ少し前まで彼女の同行を渋っていたのだが、特別補佐であるリリーティアからの強い申し出もあり、心配な気持ちは残っていたようだがエステルの同行を承諾してくれた。
彼からはユーリのことも頼まれたのだが、頭を下げるフレンの姿に、これでは本当に彼はユーリの保護者にしか見えないなと、リリーティアは苦笑をもらしながらも快く頷いて応えた。
フレンも共に向かいたかったようだが、彼には彼のやるべき任務があるためダングレストに残っている。
「でもさ、スウェンダル諸島に建物とか何かあったけ?何もないところだと思ってたんだけどなぁ」
カロルは空を見上げがら言う。
この大陸て生まれ育ったカロルでも、スウェンダル諸島には一度も足を運んだことがないという。
ただ砂地が広がっているだけの大地で何もないと聞いていたから、わざわざそこへ訪れる機会もなかったようだ。
カロルからそれを聞いて、ある意味、そのこともあの要塞を立てるための条件がよかったのだろうと、リリーティアはそんなことを思った。
「何もないわけじゃなくて、そこには古い遺跡があるんだよ」
「え!そうなの?」
正確には、あるんじゃなくて、あったといったほうが正しいのだが、リリーティアは口には出さない。
ガスファロストを建てることにもうひとつ条件がよかったのは、その場所にはもともと打ち捨てられた古代の遺跡があったということだった。
その遺跡を土台にして、ガスファロストが建てられたのである。
そのおかげで建設が始まってからそれほど時間もかけずして、そのガスファロストは完成したのだ。
「発掘し終わって、打ち捨てられている遺跡なんだけどね」
「そこがバルボスのアジトってこと?」
「方角的にそこしかないからそう思ってるんだけど・・・、行ってみないとなんとも」
そう言いながら、そこにはれっきとしたバルボスのアジト 楼閣『ガスファロスト』 があることを彼女は知っている。
推測ではなく、確実にそこにあるのだ。
「そこにバカドラがいてくれないと、こんな朝早く出た意味がないじゃない」
「ユーリのこともありますしね」
「ワン!」
リタはあの竜使いのことで頭がいっぱいのようだが、エステルは何よりユーリのことのほうが心配なのだろう。
それぞれ追う相手がてんでばらばらな感じであるが、どちらにしろすべてバルボスを追うことに繋がっている。
それに、ユーリのことを心配する気持ちはエステルだけでなく、口にしないだけで皆が持っているのだ。
「でも、そんなところに古い遺跡があるなんて、ボク全然知らなかったよ」
「今や要塞まがいのでっかい塔になり変わちゃってるみたいだけどね~」
突然、リリーティアたち以外の声が背後から聞こえた。
皆が一斉にその足を止めて振り向く。
「え?レイヴン!」
「ちょっと、あんた何しにきたのよ!」
そこにはレイヴンがいた。
驚く皆の後ろで、相変わらずの神出鬼没の彼の行動に、リリーティアはひとり苦笑を浮かべていた。
「さっき要塞って言いました?」
彼の言葉に引っかかたエステルが首を傾げて尋ねる。
「ん?そうそう。ギルド連中の話によれば、その古い遺跡があった場所にいつのまにか巨大な塔ができてたんだってさ」
「そういえば、あの時ラゴウも言ってましたよね、要塞まがいの塔がどうとか・・・」
「ということは、やっぱりそこにバルボスがいるってことだ」
「竜使いもそこに向かったってことね」
レイヴンのもたらした情報により、バルボスがいることを確信した三人は意気込んだ。
「それで、レイヴンはどうしてここに?」
思い出したかのようにカロルが聞く。
「それが、聞いてくれよ。ドンがバルボスなんぞになめられちゃいけねえとか言い出すわ、若えもんも頑張ってんだ一緒に行ってこいって言われちまって、こっちはいい迷惑よ」
「だったらこなくていいわよ」
「・・・そういう言い方はないでしょうよ」
レイヴンはジト目でリタを見る。
未だにリタはレイヴンに対しては手厳しいようで、その様子にリリーティアは小さく笑った。
「まあまあ、リタ、これから行くところは危険な所だから、一緒についてきてくれた方が心強いじゃない」
「さすがリリィちゃん、わかってらっしゃる♪」
レイヴンは親指を立てて、機嫌よく笑った。
しかし、リタはそれを冷ややかに横目で見ると、
「買い被り過ぎよ」
冷たく言い放つ。
相変わらず容赦のないリタの様子に、リリーティアはただ乾いた笑いしか出てこなかった。
「と、とりあえず先へ進みましょう」
「そうだね」
エステルが仕切り直すようにそう言うと、止めていた歩を進めた。
カロルも頷いて歩き出し、リタとラピードもそれに続く。
「ほんと、怖いんだから」
リタを見ながらぼやいているレイヴン。
リリーティアは困ったような笑みを浮かべ、彼へと振り返った。
「レイヴンさん、頼りにしていますよ」
「お、任せてちょーだい」
彼女の言葉にレイヴンはにっと笑ってみせた。
そして、彼もエステルたちの後に続く。
前を行く彼の背をしばらく見詰めていたリリーティアは、気づくと左の手で髪飾りを触れていた。
『そんだけ大事にしくれてたら、送り主もさぞ嬉しいことだろうねえ』
彼女はふと昨日の女店主の言葉を思い出した。
もう一度、前を歩く彼の背を見る。
「(嬉しいものなのだろうか・・・)」
思い浮かんだのは、あの時の彼の笑顔。
あの丘で見せてくれた、あの----------おどけた笑顔。
あの頃と同じ笑顔だった。
リリーティアは微かに笑みを浮かべた。
瞬間、彼女の瞳の奥に黒い砂嵐の中から見え隠れするものが見えた。
「っ!?」
一変して頬を強ばらせるリリーティア。
黒い砂嵐の中から、彼女の瞳には鮮明に見えたのだ。
それは----------”薄ら笑う顔”
リリーティアは髪飾りに触れていた左の掌(てのひら)を見る。
その時、地平線から光がさした。
夜明けだ。
「・・・・・・・・・」
彼女は左手をぐっと握り締め、ゆっくりと大きく息を吐く。
そして、顔を上げると、前を行く彼らの後に続いてその歩を進めた。
太陽の光に照らされる彼女のその表情は、いつもと変わらない表情(もの)だった。
早天の空。
地平線から登る、煌々たる太陽。
陽の光は彼女を優しく照らしている。
爽やかな風が彼女の体を包み込み、髪飾りが小さく揺れた。
刹那、髪飾りが儚げに煌めいた。
第12話 黒幕 -終-