第12話 黒幕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
店を出て、再び商店街通りをひとり歩くリリーティア。
『そんだけ大事にしくれてたら、送り主もさぞ嬉しいことだろうねえ』
笑顔を浮かべていた女店主の言葉を思い出し、おもむろに髪飾りに触れる。
そして、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
女店主のあの笑み、あの眼差しはとても優しく、リリーティアの心を温かく包み込んでくれたのだった。
その時、再び、彼女はその足を止めた。
しばらく立ち止まっていると、再びその歩を進める。
商店街通りを抜けると、さっきまでの賑やかさは落ち着いて、少しばかり人通りが減った通りとなった。
それでも人々が行き交うその数は多い方である。
リリーティアはその通りをしばらく歩き、宿まではあと数分も歩けば辿り着く距離まできた時だ。
彼女は目だけ動かして何やら周りの様子を窺うと、横に続いていた狭い通路にその体を滑り込ませるようにして入っていった。
その通路に入った瞬間、彼女はだっと駆け出す。
奥へ奥へと走り抜けると、少し開けた場所に出た。
その場所には判別のつかない物という物に溢れており、酷く荒れていた。
壁に積まれてある木箱の中にも古く錆びてしまった鉄パイプや壊れた部品と、ガラクタが山となって積まれており、幾つかはそれを隠すように薄汚れた布が多い被されてある。
そこはどう見ても生活感はなく、長い間放置されている場所のようだ。
灯りも何もなかったが、満ちた月の光によってそこは一段と明るく、はっきりとあたりの様子がうかがえた。
リリーティアは足を止めると、壁に沿ってその開けた場所の中を進み歩いた。
そして、壁に背をつけると、上空を仰ぎ見る。
そこからは、くっきりと浮かぶ丸くて大きな月が見えた。
その時、月を映す彼女の目が射抜くような鋭い目に一変した。
同時に、彼女は目にも止まらぬ速さで《レウィスアルマ》を両手に引き抜く。
----------キンッ!!
瞬間、甲高い音が鳴り響く。
静寂さが際立つこの場所では、やけに大きく響き渡った。
そして、リリーティアはすぐさま横に転がる。
すると、さっきまで彼女がいた場所に数本の矢じりが刺さった。
それは月の光に照らされ僅かに鈍く光る、鋼製の矢じりだ。
地に片膝をついて起き上がると、目の前に黒い影が一斉に姿を現した。
リリーティアはさっと立ち上がり壁に背をつける。
「(・・・・・・やはり赤眼か)」
その黒い影は赤眼たちだった。
彼女は街の中を歩いていた時、途中から異様な視線を感じていた。
はじめは気のせいかと思っていたが、やはりそれはれっきとして自分に向けられている視線だった。
あの店に立ち寄ったのも、その視線を探るためにとった行動であり、そこの女店主と思いもよらない言葉を交わすことになったが、視線を向ける気配はやはり自分の行動に張り付いていることがわかった。
その視線が示す意味も分かっていたが、人ごみの中で対処するわけにはいかず、かといってこのまま宿に戻ってもいずれ向こうから動きを見せるだろう。
宿で休んでいる時に狙われたりでもしたら、エステルたちを含めた周りの人々を巻き込まんでしまう。
それだけは避けなければならないことだった。
その為にわざと人気にない場所に潜りこんで、彼女はここで対処しようと考えたのである。
目の前にいる赤眼の数は4人。
あたりの気配を探る。
1人----------いや、2人。
全部で6人。
「(・・・・・・この短時間で、よくもこれだけの数を)」
リリーティアは心の内で舌打ちした。
彼女には自分に差し向けた赤眼の雇い主は誰だかすでに分かっていた。
だが、彼女はあえて問う。
「誰からの依頼ですか?」
赤眼は答えない。
かわりに臨戦態勢をとっていた。
リリーティアはすっと表情をなくした。
静かにその口を開く。
「ラゴウか?」
その声が戦いの合図となった。
赤眼たちが一斉に動く。
「サジッタグローリア!アーラウェンティ!」
術式を同時に組立て、連続で発動する。
発動と同時に飛んできた矢じりを、横に駆け出してギリギリのところで交わすと、足を止めずそのまま突き進んだ。
その時、どこからともなく人の唸り声と叫び声、そして、どさっと何かが落下する音が聞こえた。
彼女が最初に放った魔術は、上方からボウカンで狙ってくる赤眼たちに向けて放ったものであった。
矢じりが飛んできた方向から、すぐに敵の位置は把握していた。
だが、まだその二人は絶命していない。
まだ気配が辛うじてある。
リリーティアは走りながら、左手に持っていた《レウィスアルマ》を鞘に戻した。
途端に一人の赤眼が飛び出してきて、刃を振り下ろし攻撃してきた。
《レウィスアルマ》でそれを受け止め、同時に空いていた左手で短剣を引き抜く。
彼女の眼孔は完全に相手の首を捉えていた。
逆手に持った短剣を横へ振り上げ、首へと叩き込む。
引き抜くと同時に眼前には朱(あか)が飛び散ったが、即座に身を引いてその場を走り出す。
まずは----------1人目。
今度は三人がかりで、刃を振りかざしてきた。
「サジッタグローリア!」
走り続けながら魔術を発動するリリーティア。
無数の光が矢の如く降り注いで赤眼たちを襲う。
だがまともに受けたのは一人だけで、あとの二人は後ろに転がり避けていた。
受けた一人も絶命はしていない。
今はそれでいい。
それよりも先に片付ける赤眼が目先にいる。
それは、最初の魔術で地に落下した赤眼のことである。
今まさに起き上がろうとしているところだった。
その赤眼の背に全体重をかけて膝で押さえ込むと、首の後ろに短剣を叩き込んだ。
----------2人目。
傍に落ちていたボウガンを拾い上げ、矢じりが装着されたままのそれをすぐさま放った。
狙いは、これも最初の魔術で攻撃したもう一人の赤眼。
反対方面の壁際で片膝をつき、ボウガンでリリーティアを狙っていた。
しかし、相手が放つより先に彼女の放った矢じりが赤眼の眉間に突き刺さった。
----------3人目。
次に二人の赤眼が左右から刃を突き出してきた。
ボウガンを右手の赤眼に向かって投げ捨て、前に転がり避けると《レウィスアルマ》を再び手に持つ。
体を起こして立ち上がった瞬間、背後からの気配に急いで振り向くと、赤眼の刃を受け止めた。
がら空きになった背中に向かって、二人の赤眼が斬りつけようとする。
とっさに彼女はふっと力を抜いた、同時に逆手に持ってい短剣を順手に持ち変えた。
僅かに体を捻りながら地に倒れ込むと、リリーティアに刃を振り下ろて体重をかけていた赤眼も一緒に前へと倒れ込む。
そして、その流れのままに腹部の急所に短剣を突き刺した。
----------4人目。
背後からのふたつの刃は空を切り、彼女と共に倒れ込んだ赤眼のすぐ頭上に剣先の軌跡が流れた。
リリーティアは絶命した赤眼を蹴り上げて起き上がると、右側に立つ赤眼に対して《レウィスアルマ》を下から振り上げる。
相手は後ろに避けると、別の赤眼が横から刃を突きつけてきた。
逆手に持った短剣でそれを受け流すと、体を反回転させながら《レウィスアルマ》を横から顔面に叩きつけ、その回転する勢いのままに短剣を首に叩きつけた。
----------5人目。
最後のひとりが両手に持った剣を不規則に振り回してきた。
リリーティアもその攻撃を受け止め、避けながら、こちらからも攻撃を繰り出す。
何度か金属の甲高い音が繰り返されたあと、相手の一瞬の隙をその目に捉えた彼女は、短剣を首元を狙って振りかざした。
「(これで最後っ!!)」
そう思った瞬間、短剣を握っていた腕に激しい痛みが走り、彼女は呻き声をあげた。
同時にその手から短剣が弾き落とされる。
リリーティアは反射的に後ろに飛び、さらに、相手との距離をとろうとしてさらに後ろへ飛んだ直後、今度は左の太腿(ふともも)に激痛が走る。
突然の痛みに体を支え切れず、体制を崩して、仰向けに倒れ込んだ。
何が起きたのか理解しないうちに、赤眼は彼女の鳩尾を足で強く踏みつけて地面に押さえつけた。
瞬間、激しい痛みと共に、息が詰まる。
ひゅっと息が吸えたと思った時には、武器を振り上げている黒い影が見えた。
刃が月光に照らされ煌く。
”死”
その言葉が彼女の脳裏に浮かんだ。
その時だった。
----------『あなたなど簡単に潰せるのです』
あの時のラゴウの言葉が嫌に頭に響いた。
蔑んだ目。
不気味な笑み。
威圧的な言葉。
彼女の体が激しく脈打つ。
怒涛たる怒り。
その時、右の指先に冷たいものを感じた。
はっとして見ると、そこには鋼の矢じりが突き刺さっていた。
彼女は考える間もなく、衝動のままにその矢じりを掴む。
地面に刺さっていた矢じりを力一杯に引き抜くと、体を踏みつけている相手の足に力の限り突き刺した。
それは思っていた以上に深く突き刺さり、相手は足をおさえてもんどりうった。
「サジッタグローリア!」
上体を起こしたかみたか、リリーティアは魔術を叫ぶ。
そして、右腕を自らの口に噛ませて太腿に深く刺さった矢じりを左手でぐっと引き抜くと、どさっと遠くに何やら落下する音を耳に捉えながら、もんどりうって地に倒れた赤眼の上体に膝を突いて圧し掛かる。
すでに朱に汚れている矢じりを両手に持って頭上高く振り上げると、大きく見開く瞳(め)に捉えた相手の首へとあらん限りの力でそれを振り下ろした。
----------6人目
最後であったはずの赤眼を倒したあと、彼女は半ば転がるようにして物陰に隠れた。
左腕に刺さった矢じりも引き抜き、物陰に背をもたせかけて周りの様子をうかがった。
あたりは静寂に包まれている。
そこにはリリーティアの荒い息づいだけしか聞こえなかった。
それでも、彼女はしばらくそこから動くことなく周りを警戒し続けた。
こめかみから伝う一筋の汗と、肩から伝う一筋の朱を、その身に感じながら。