第12話 黒幕
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「ラゴウ、<帝国>側の根回しをしくじりやがったな!」
「ひっ・・・」
バルボスは己の目論見が崩れ、ラゴウを殺気立って睨みつけた。
ラゴウはとっさに顔を覆って怯える。
「ちっ・・・!」
「!」
その殺気をラゴウはまた違う方へ向けた。
それと同時にラゴウの部下のひとりが動いた気配に、いち早く気づいたリリーティアはすぐさま右手に引き抜いた《レウィスアルマ》を振り上げた。
「あの人、フレンを狙ってます!」
「アーラウェンティ!」
エステルが指差して叫んだ直後、リリーティアが魔術を放った。
その部下が、銃の照準をフレンに向けていたのである。
「ぐわっ!」
部下はリリーティアの魔術で吹き飛ばされると、壁に激突して気絶した。
「ナイスだ、リリーティア!!」
「ガキども!邪魔はゆるさんぞ!」
バルボスが巨大な銃を取り出すと、リリーティアたちに向けて撃った。
「うわわわっ!」
「きゃあっ!」
爆音と共に激しい爆風が一行を襲い、カロルとエステルの叫び声が響く。
幸い標準は外れたが、一行の後方の壁には銃にしては大きな穴が空いていた。
そこから火の手が上がっている。
「(ヘルメス式魔導器(ブラスティア)・・・!)」
リリーティアはバルボスの銃を射抜くように見る。
彼の銃はただの銃ではなかった。
エアルを火線やその他の形に変えて射出する武器で兵装魔導器(ホブローブラスティア)の一種ではあるが、
その威力はその銃の大きさでは従来の魔導器(ブラスティア)では制御できないほどの威力を持っている。
あきらかにその銃に使われている魔導器(ブラスティア)はヘルメス式であった。
「逃げろ、出口に向かって走れ」
「エアルを再充填するまで少し間があるはず。その隙を狙って-------」
「これは違う!早く逃げて!」
「ちょ、リリーティア!?」
ヘルメス式と知るリリーティアはリタの見解が間違っていることに異論を唱え、避難を促しながら彼女自身は前へと駆け出す。
リリーティアの行動にカロルが驚いて叫んだ。
その後ろでレイヴンも彼女の行動にぎょっとした表情を浮かべている。
その時、バルボスは再度、銃口を一行に向けた。
「遅いわぁ!」
「うそ!?エアルの充填が早い!」
「サジッタグローリア!アムニス!」
リタが驚きの声をあげると共に、リリーティアは駆けたままに魔術を唱える。
弾が放たれるのと同時に、ひとつ、ふたつと連続して魔術が出現した。
放たれた弾とその魔術が激しくぶつかり合った瞬間、爆音と共に啼き声が響き渡った。
それはこれまで何度も聞いてきた声。
ヘルメス式魔導器(ブラスティア)がある場所には必ずといって現れる啼き声であった
その声を耳にした途端、リリーティアは右肩に激しい疼きを感じたが今はぐっと堪えた。
「なっ・・・なんだぁっ・・・!」
バルボスが狼狽して叫んだ
銃弾と魔術がぶつかり、目の前に煙が舞う先で彼が仰向けに床に倒れている。
よく見ると彼に手に持っていた銃は爆発し、煙を上げて壊れていた。
「また出たわね!バカドラ!」
リタが叫ぶ。
露台の外に視線を向けると、あの竜使いが竜に乗って空中を反転している姿が見えた。
銃弾と魔術がぶつかった瞬間、竜使いがバルボスの銃を槍の一撃で破壊したようだ。
「リタ、間違えるな、敵はあっちだ・・・!」
「あたしの敵はバカドラよ!」
「今はほっとけ!」
ユーリの言葉も聞かず、リタは怒りの剣幕で竜使いから目を離さない。
リタにとっては魔導器(ブラスティア)を破壊する者は誰よりも許せない相手だった。
何より、これまで何度もそれを目の前にしてきて、何もできていない自分にも腹が立っているのだろう。
「ちっ。ワシの邪魔をしたこと、必ず後悔させてやるからな!」
するとバルボスは、新たな武器を掲げる。
それは、剣のようだが、雑多な部品の集合体にも見えた。
その剣から竜巻のような光が発せられ、それがバルボスの体を覆うと、体の重さが失ったように浮き上がった。
瞬間、見えない機械に打ち出されでもしたかのように、その部屋から一直線に飛び出していった。
「うそっ!飛んだ!」
「おーお、大将だけトンズラか」
「(あそこに逃げたか・・・・・・)」
微かに光跡を後に残しつつ、遥か彼方へと飛び去っていくバルボス。
バルボスが逃げた場所はすでにわかってはいたが、いよいよ面倒なことになったかもしれないとリリーティアは思った。
その時、様子をうかがうように上空に漂っていた竜使いが、バルボスの去っていった方へと向かおうとしていた。
「あ!待て!バカドラ!あんたは逃がさないんだから!」
リタは露台へ駆け出し、今にもこの場から去ろうとする竜使いに叫んだ。
「やつを追うなら一緒に頼む!羽のはえたのがいないんでね」
「あんた、なに言ってんの!こいつは敵よ!」
リタの横にユーリが飛び出してきて竜使いへと頼み込む。
彼の言葉にぎょっとすると、リタは非難の声をあげた。
鎧に覆われて表情は見えないが、リリーティアには竜使いが戸惑っているように感じた。
とはいえ、それは当然としての反応だろう。
「オレはなんとしても、やつを捕まえなきゃなんねぇ。・・・頼む!」
ユーリは必死で訴える。
その瞳の奥にあるのは、彼の揺るぎない想いと----------怒り、だった。
「(・・・・・・ユーリ)」
リリーティアは彼の中にある譲れない想いとバルボスに対する怒りを感じ取った。
今のユーリにとって竜使いだからなどというのは関係ないのだ。
ただ、バルボスを捕まえる。
捕まえなければならない。
その想いが誰よりも強かった。
驚くことに、その訴えに何かを感じたのか、竜使いがゆっくりとユーリのところまで下りてきた。
「助かる!」
ユーリは迷うことなく竜に掴まり、竜使いの後ろに跨った。
「待って!ボクたちも・・・!」
「こりゃどう見ても定員オーバーだ!」
「でも、ボクたちも・・・!」
カロルは必死にユーリに叫ぶ。
突拍子もない彼の行動に戸惑い、ひどく慌てていた。
「おまえらは留守番してろ!」
「そんな・・・!」
「ちゃんと歯磨いて、街の連中にも迷惑かけるなよ!」
エステルも動揺を隠せないようで、その瞳は彼の身を心配しているようでもあった。
彼女のそんな心配をよそに、ユーリはにっと笑った。
心配はないという笑みだろうか。
「リリィ、悪りぃけどこいつらのこと頼むわ!フレンにもちょっと行ってくるって伝えといてくれ!」
リリーティアはなんとも言えない表情を浮かべて、ただ彼に頷いてみせた。
そして、竜使いとユーリを乗せた竜は背を向けると、バルボスが向かった方向へと飛び去っていった。
「ユーリのバカぁっ!」
カロルがこれまでない声で叫ぶ。
自分たちを置いていくユーリに対して、恨めしい感情をすべてぶつけたような叫びだった。
リリーティアはただ黙したまま、ユーリと竜使いが空の彼方へと小さくなっていくのを遠くに見詰めていた。