第12話 黒幕
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「ん、なんかここに刻んであるな」
その道中、ユーリは壁面に何かを見つけた。
彼はそこにそっと手をふれる。
リリーティアがその壁面を光照魔導器(ルクスブラスティア)の光で照らしてみた。
「文字か。・・・なんだ?」
訝しるユーリの横にエステルが立つと、その壁面を見上げる。
「・・・かつて我らの父祖は民を護る務めを忘れし国を捨て、自ら真の自由の護り手となった。
これ即ちギルドの起こりである。
しかし今や圧制者の鉄の鎖は再び我らの首に届くに至った。
我らが父祖の誓いを忘れ、利を巡り互いの争いに明け暮れたからである。
ゆえに我らは今一度ギルドの本義に立ち戻り持てる力をひとつにせん。
我らの剣は自由のため。我らの盾は友のため。我らの命は皆のため。
ここに古き誓いを新たにす」
エステルは壁に刻まれた文字を読み上げた。
「ねえ・・・・・・これって〈ユニオン誓約〉じゃない?」
「何よ、それ?」
「ドンがユニオンを結成した時に作られた、ユニオンの標語みたいなもんだよ」
「自分たちのことは<帝国>に頼らないで自分たちで守る。そのためにはしっかり結束し、お互いのためなら命もかけよう、みたいなことね」
「でも、なんでこんなところに誓約が書かれてるの?」
カロルはレイヴンに聞く。
「ユニオンってのは<帝国>がこの街を占領した時に抵抗したギルド勢力が元になってんのよ。それまでギルドはてんでバラバラ好き勝手やってて、問題が生じた時だけ団結してた。で、事が済めばまたバラバラ。<帝国>に占領されて、ようやくそれじゃまずいって悟った訳ね」
「そのギルド勢力を率いていたのがドン・ホワイトホースなんだ!?」
ドンを尊敬しているカロルは目を輝かせる。
「そそ。そん時、この地下水道も大いに役に立ったはずよ」
「じゃあ、その時ここで結成の誓いを立てたってことなんだね」
「そういうことみたいね。確かに誓約書の実物がどこかにあるって話だったけど、こんな壁の落書きだったとはね」
「壁に書かれた誓約書なんて、なんか素敵ですね」
そう言うとエステルは何かに気づき、壁の下の方を凝視する。
「ここ・・・・・・アイフリードって書いてあります」
「ああ、あの大悪党って噂の海賊王か」
「・・・・・・・・・」
一瞬、リリーティアの表情が僅かに動いた。
だが、すぐに何事もないように文字が刻まれた壁面を見詰めた。
「ドンが言うには一応、盟友だったそうよ。でも、頭の回る食えない人物で、あのドンですら相手すんのに苦労したってさ」
「それでも盟友とか言うあたり、大した器のじいさんだな、ドンってのは」
ユーリはもう一度その壁面を見上げる。
「面白いもん見れたが、今はバルボスだ。そろそろ行こうぜ」
ユーリがそう言うと、一行はその場を歩き出す。
だが、リリーティアだけはそこに留まり、ひとり壁面を見詰め続けていた。
「(我らの剣は自由のため。我らの盾は友のため・・・)」
それは〈ユニオン誓約〉に書かれた最後の言葉。
心の中でその言葉を復唱するリリーティア。
そして、おもむろに自分の左手を見詰めた。
「(私は・・・・・・)」
彼女は小さく頭(かぶり)を振ると、ユーリたちの後に続いた。