第12話 黒幕
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ケーブ・モック大森林を後にし、一行はダングレストへと戻ってきた。
街に入ってすぐ、ドンに会いに行くためにギルドユニオン本部へと足を運んだ。
見張り番の男に事情を説明すると、既にドンから話は聞いているようで快く中へと通してくれた。
中に入ってすぐは大きな広間になっており、左右にある扉の前にはそれぞれ見張りが立ててある。
「奥の扉がドンがいる部屋だ」
案内してくれた男が説明する。
広間中央の奥にある大きな扉が『大首領の私室』。
ドンの面会者と話をする部屋のようで、一行はその部屋に入った。
その部屋は前後に細長い造りで、部屋の左右の壁には五大ギルドのそれぞれの紋章旗が掛けられている。
一番奥の壁一面は窓になっていて、その中央にはギルドユニオンを示す紋章旗が垂れ下がっていた。
その大きな旗の前に長椅子が置かれ、そこにドンがどっしりと座っていた。
ドンの座る長い椅子はどうみても二人掛けほどある広い椅子なのだが、彼が座っているとそれは一人用の椅子にしか見えない。
その後ろにはドンの部下である4人の男が立っていた。
「よぉ、てめぇら、帰ってきたか」
ドンはリリーティアたちに気づくと、にっと笑みを浮かべた。
この時、これまで一行と共に行動をしていたレイヴンはドンの傍に控え立った。
「・・・ユーリ」
ドンの前にはフレンが一人立っており、こちらへと振り向く。
「なんだ、てめぇら、知り合いか?」
「はい、古い友人で・・・」
「ほう」
ドンは意味ありげな視線でユーリとフレンをじっと見る。
彼らに何を思ったのか、その視線の意味はリリーティアには分からなかった。
「ドンもユーリと面識があったんですね」
「魔物の襲撃騒ぎの件でな。で?用件はなんだ?」
「いや・・・」
フレンはユーリを見る。
ドンに会いに来た理由を先に話すようユーリに促しているようだ。
「オレらは『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』のバルボスってやつの話を聞きに来たんだよ。魔核(コア)ドロボウの一件、裏にいるのはやつみたいなんでな」
「なるほど、やはりそっちもバルボス絡みか」
「・・・ってことは、おまえも?」
フレンはドンヘ向き直ると姿勢を正した。
「ユニオンと『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の盟約破棄のお願いに参りました。バルボス以下、かのギルドは、各地で魔導器(ブラスティア)を悪用し、社会を混乱させています。ご助力いただけるなら、共に紅の『絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の打倒を果たしたいと思っております」
フレンの話にドンはしばらく黙り込んだ。
じっとフレンを見据えながら、何かを考えているようだ。
彼がどんな判断を下すのかその成り行きを案じながら、リリーティアは深刻な眼差しでドンを見ていた。
「・・・なるほど、バルボスか。確かに最近のやつの行動は少しばかり目に余るな。ギルドとして、けじめはつけにゃあならねえ」
かつて、シュヴァーンがもたらした情報通り、やはりギルドのほうもバルボスについては問題視していたようだ。
「あなたの抑止力のおかげで、昨今、<帝国>とギルドの武力闘争はおさまっています。ですが、バルボスを野放しにすれば、両者の関係に再び亀裂が生じるかもしれません」
「そいつは面白くねえな」
「バルボスは、今止めるべきです」
「協力ってからには俺らと<帝国>の立場は対等だよな?」
射抜くような目でフレンを見るドン。
フレンは臆することなく堂々とした出で立ちで、まっすぐにドンを見据えた。
「はい」
「ふんっ、そういうことなら<帝国>との共同戦線も悪いもんじゃあねえ」
「では・・・」
「ああ、ここは手を結んで、ことを運んだ方が得策だ。おいっ、ベリウスにも連絡しておけ。いざとなったら、ノードポリカも協力してもらうってな」
彼の後ろに控えていた部下のひとりにドンが言い付けると、その部下は慌ただしくその部屋を出ていった。
「なんか大事になってきたね・・・」
カロルの言葉に、ユーリはただ肩をすくめた。
「こちらにヨーデル殿下より書状を預かって参りました」
フレンはドンの前に片膝をつき、両手に書状を持って差し出す。
「ほぉ、次期皇帝候補の密書か。読んで聞かせてやれ」
書状を受け取るとドンは傍に立っていたレイヴンへと手渡した。
「『ドン・ホワイトホースの首を差し出せば、バルボスの件に関しユニオンの責任は不問とす』」
「何ですって・・・!?」
「!」
レイヴンが読み上げた内容にフレンは驚きの声を上げる。
リリーティアも僅かに目を見開くと、すぐに眉を寄せ険しい表情を浮かべた。
「うわはっはっは!これは笑える話だ」
ドンが豪快に笑う。
それは部屋中に大きく響き渡るほどの、迫力ある蛮声だった。
信じられないといった表情を浮かべるフレンに、レイヴンはヨーデルからの書状を彼に戻す。
レイヴンが言った通りの内容がそこに書かれてあるのを確認したフレンはその書状の持つ手をぎゅっと強く握りしめた。
「・・・なんだ、これは・・・」
「どうやら、騎士殿と殿下のお考えは天と地ほど違うようだな」
ドンはフレンを睨むようにして見た。
「これは何かの間違いです!ヨーデル殿下がそのようなことを」
「おい、お客人を特別室にご案内しろ!」
「ドン・ホワイトホース、聞いてください!これは何者かの罠です!」
フレンの訴えも虚しく、彼はドンの部下に腕を掴まれると容赦なくその場から引っ張り出される。
「(はめられたか。つくづく面倒なことを・・・)」
リリーティアは険しい表情のまま、ドンの部下に連れ連れ去られていくフレンの背を見詰めた。
彼女はこの騒動の裏にある陰謀、そして、その裏に立つ首謀者たちのことも見抜いており、
今後のことを考えると、正直煩わしさを感じずにはいられなかった。
「フレン・・・!」
「エステル待って」
連れ出されてしまったフレンを咄嗟に追いかけようとするエステル。
リリーティアは彼女の腕を掴み、それを止めた。
「リリーティア・・・フレンが!」
「今は抑えて。下手に動けば、余計に彼を危険にさらすことになる」
「・・・・・・」
エステルは俯き黙り込む。
リリーティアが言うことは理解できても、フレンが心配で堪らないのだろう。
今すぐにでもなんとかしたい気持ちでいっぱいのようだった。
「<帝国>との全面戦争だ!総力を挙げて、帝都に攻めのぼる!客人は見せしめに、奴らの前で八つ裂きだ!二度となめた口きかせるな!!」
座席から立ち上がると、ドンはあらん限りの声で叫んで部屋にいる部下たちに宣告する。
そして、レイヴンを含めた自分の部下たちを引き連れて、その場から歩き出した。
リリーティアが探るような目で立ち去ろうとするドンを見ていると、すれ違う間際、そんな彼女に対しドンは一瞬だけ視線を投げた。
「・・・・・・・・・」
彼のその一瞥は何を意味しているのか。
リリーティアはドンの考えていることを勘ぐりながら、彼らが部屋を出ていくのをじっと見ていた。
「た、大変なことになっちゃった!」
カロルは慌てふためく。
<帝国>とギルドが戦争だと聞かされては無理もないことだろう。
「おかげであたしらの用件、忘れられちゃったわよ」
「ドンも話どころじゃねえな」
「わたし、帝都に戻って、本当のことを確かめます!」
エステルは今にも飛び出しそうな勢いである。
それだけフレンの身を案じていた。
「エステル落ち着いて。もうしばらく様子を見よう」
「でも、・・・・・・わかりました」
しぶしぶといった様子でエステルはリリーティアの言葉に頷いた。
彼女の気持ちも分かるが、今は行動を起こす前に、この状況をもう少し探る必要がある。
街の様子を窺うために、とりあず一行は、一度ユニオン本部を出ることにした。