第11話 大森林
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「リリィちゃんも、じいさんの言うことにいちいち付き合わない」
「・・・ですが、せっかくの機会でしたし」
ドンとの道楽に付き合うことを止められたリリーティアは大人しくレイヴンと話をしていた。
目の前ではユーリとドンが手合わせをしている。
「年寄りは年寄りらしく、隠居して茶でもすすってろよ!」
「すまねぇな、そういうのは俺の性にあってねぇんだよ!」
ここまでそれなりの距離があるにも拘わらず、ドンの気迫がリリーティアのいる場所までひしひしと感じられる。
やはりドンは只者ではないことは、見ているだけでも実感できた。
「・・・絶対にやめといたほうがいいって」
ユーリとドンとの戦いを見ながら、レイヴンはどこか疲れた様子であった。
ドンの強さが想像以上の域をいくことはわかっているつもりだが、あれだけ必死に止めたのには彼なりに何か思うことがあるのだろう。
「おっさん、ドンとやり合うって聞いただけでドキマギもんなんだから」
レイヴンは胸を抑えて、恐れている風を見せる。
「ドンが魔物と戦うところを一度見ましたが、確かに想像以上の戦術を持っていますね」
「そうそう。それにね、ドンとやり合った若いもんは大抵、あばらのほとんどをボロボロにされてしばらく起き上がれなくなるから、気をつたほうがいいわよ」
それを聞いたリリーティアはしばらく絶句した後、ドンと戦っているユーリを見た。
彼はまだしゃんと立ち上がり、目は生き生きとしてドンとやり合っている。
しかし、その表情にはいつもの彼の余裕さはないようだ。
「・・・・・・ユーリ、大丈夫ですか?」
「・・・・・・まあ、見たところじいさんの機嫌も良さそうだし、大丈夫なんじゃない」
それで必死で止めたのか。
リリーティアはレイヴンがドンとの手合わせを止めた理由に納得した。
そして、ふと彼女は思った。
彼も一度ドンとやりあったことがあるのでは、と。
しかも、ドンの機嫌が悪い時、自分の体がボロボロになったことが・・・。
そう思ったのは、彼の話す言葉の節々に深く感情が込もっていたように感じたからだ。
身をもって知っているのだと言っているような。
そして、それはいつのことなのか。
それは考える間もなくすぐに思い当たり、リリーティアは胸の奥に何か重いものがのしかかったような気がした。
「それに、じいさんっていろいろ武勇伝持ってるからね~」
その声に物思いからはっとして、彼女はレイヴンを見る。
「・・・ドンの武勇伝、ですか?」
レイヴンは大げさに頷くと、指を立てて話し始める。
「若い頃には一人でギザギザ甲羅の魔物トータスをまとめて100匹倒したこともあるとか」
「・・・・・・・・・」
「ダングレストの結界魔導器(シルトブラスティア)、あれ倒れそうになったのを鎖引っ張って一人で直したって伝説もあるね」
「・・・・・・・・・それ、どこの御伽話ですか」
そんなまさかと、リリーティアは小さく声を上げて笑った。
呆れるように笑う彼女に、ギルドの人間の間では有名な話なのだとレイヴンは説明した。
にわかに信じられないことだったが、そういったドンの武勇伝の話は数多にあるのだという。
彼の話のおかけで、彼女が感じていた胸の奥にあった重いものはいつの間にか消えていた。
ユーリとドンはまだ手合わせをしている。
すでにドンのほうが圧倒的にその剣の動きもその力も上回っているのが傍から見ていてもわかった。
それでもユーリはとても生き生きとした目をしていて、ドンとやり合えていることが本当に楽しそうであった。
「・・・・・・やっぱり惜しかったかな」
それを見たリリーティアは、やはり自分もドンと手合わをしてみるべきだったなと、少しばかり残念に思った。
好戦的ではない彼女にしては珍しいことだが、それだけドンという男に、一人の人間として興味があったのだ。
「・・・・・・勘弁してってば」
彼女のその呟きに、レイヴンは呆れたようなため息をつくと頭を抱えた。
身をもってドンの強さを知っている者からすれば、そう思わずにはいられないのだろう。
そうしてしばらくの間、ユーリとドンの手合わせの行方を周りで見ている者たちは固唾を飲んで、ただ静かに見守っていたのであった。