第3話 少年
夢小説設定
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「・・・この場所にある森って、まさか、クオイの森・・・?」
「ご名答、よく知ってるな」
一行は『幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』のカウフマンに言われたとおり、西に平原を進んでクオイの森にやってきていた。
「クオイに踏み入る者、その身に呪い、ふりかかる、と本で読んだことが・・・」
「なるほど、それがお楽しみってわけだ」
エステルは不安げに本で読んだこの森のことを思い出していた。
しかし、呪いの話を聞いても、ユーリは平然としていて落ち着いた様子である。
リリーティアはというと、初めから呪いことを知っていたのもあり、彼と同じように落ち着いて注意深く辺りを見渡していた。
木々が生い茂っているせいか昼間だというのに辺りは薄暗いが、何処にもである森の中と何ら大差はないように見えた。
呪いと呼ばれる理由は、森の奥に隠されているのだろうか。
「エステル、大丈夫?」
ユーリが森の中へと歩き出したのでリリーティアも後に続くこうとしたのだが、前にいるエステリーゼ-------もとい、エステルが俯いたまま一向に動こうとしないので声をかけた。
実は、彼らと共に行くことを決めたあのデイドン砦からここまでくる間に、リリーティアも彼女のことを”エステル”と愛称で呼ぶようになっていた。
そして、その言葉遣いも、とても砕けたものに変わっている。
本来なら<帝国>の姫に対してそのような言葉遣いは不敬罪にあたり、<帝国>に従事している者ならばそれは尚更のことで、明らかに無礼極まりない行為であり、罰する行為ともいってもいいのだが、その姫本人がリリーティアに対して”エステル”と呼んでほしいとお願いしてきたのだ。
さすがにそれはできないとして、はじめは丁重に出来ないことを伝えたが、ここまでの道中、エステルは愛称で呼ぶことにひどくこだわり続けた。
挙句には、愛称で呼びかけないと無言を貫き通すという、強引ともいえる手段を以って愛称で呼んでもらおうとするほどで、おしとやかな彼女が見せた思わぬその強情さに、ある意味感服したリリーティアは、ユーリ同様”エステル”と呼び、飾らない言葉で話すようになったのである。
「行かないのか?ま、オレはいいけど、フレンはどうすんの?」
ユーリは揶揄な言葉をエステルに投げた。
彼女は押し黙ったまま、じっと足元を見詰めている。
やはり呪いがふりかかるという曰く付きの森の中を歩くというのは、あまりに不安が大きいのだろう。
正直、リリーティアも気が進まなかったが、ここでじっとしていても仕方がないと割り切っていた。
「・・・わかりました。行きましょう!」
ややあって、エステルは喉をこくんと鳴らすと意を決したのか、顔をあげて前を見据えると、勇気を振り絞るようにぐっと胸の前で両の手を握り締めた。
それでも未だ不安な様子のエステルに、リリーティアは彼女の傍に寄った。
「大丈夫だよ、エステル。みんないるから」
「リリーティア・・・。はい」
リリーティアの笑みにエステルの不安も少しは和らいだようだ。
彼女のその表情には、微かな笑みが浮かんだ。