第11話 大森林
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あれから一行は来た道を引き返し、森の入り口近くまで戻ってきた。
「エアルの異常で魔導器(ブラスティア)が暴走、そのせいで魔物が暴走化・・・。それがあいつの言うひずみと関係あるなら、この場所だけじゃすまないのかも」
「さっきからぶつぶつと・・・」
レイヴンは訝しげにリタを見る。
森の中を引き返してる間、リタはずっとなにやら呟いていて、気難しい表情を浮かべていた。
おそらく、デュークが言っていたことを考えているのだろう。
リリーティア自身も頭の中では彼の行動とその真意、そして、彼が話していた言葉について考えを巡らせていた。
やはり、それはあくまで推測の域の考えでしかなかったが、彼女の中では確信的なものもあった。
「うわっ、何!?また魔物の襲撃?」
突然の地鳴りにカロルは慌てふためく。
見ると、目の前から魔物の大群が押し寄せてきており、一行は急いで近くの草の陰にその身を潜ませた。
魔物たちは一行の横を通り抜け、森の奥へと向かっていく。
そのあまりの数の多さに地鳴りが酷く、膝をついているのがやっとだった。
「カロル、頭上げんなよ!」
魔物たちの迫力に恐れ、カロルはとっさに立ち上がって逃げ腰になるのをユーリが制した。
もしもこの大群の中で見つかったら、到底自分たちだけでは対処しきれないだろう。
しばらくして地鳴りも収まり魔物たちが過ぎ去ると、一行は魔物の気配をうかがいながら慎重に草の陰から出た。
「あ・・・あの人たち・・・」
エステルの声に振り返ると、その先に人の姿が見えた。
「ドン・・・!」
カロルが駆け出す。
その姿はギルドユニオンの長、ドン・ホワイトホースだった。
ユーリたちも彼のもとに歩み寄る。
「・・・てめえらが何かしたのか?」
「何かって何だ?」
「暴れまくってた魔物が突然、おとなしくなって逃げやがった。何ぃやった?」
リリーティアもユーリたちと少し距離をおいて近づく。
よく見ると、ドンの後ろには草地に座り込んでいるギルドの男たちが数十人いた。
彼の部下だろう、魔物の群れと戦い、だいぶ疲れ果てているようだ。
だというのに、ドンだけはまったく疲れた様子もない、さすがはドンと言うべきか。
彼女はそんなことを思いながら、ふとレイヴンがいないことに気づいた。
後ろに振り返ると、彼は草の影にその身を隠しており、リリーティアに向かって人差し指を立てていた。
「(・・・・・・なにも隠れなくても)」
リリーティアは呆れにも似た笑みを浮かべると、ユーリたちの方へと向き直った。
「・・・ユーリ、あれです。エアルの暴走が止まったから・・・」
「ボクたちがエアルの暴走を止めたから、魔物もおとなしくなったんです」
「エアルの暴走?ほぉ・・・・・・」
「何、おじいさん、あんた、なにか知ってんの!?」
なにかを知っているような反応を見せたドンに、リタは食いつくように問いただす。
「いやな、ベリウスって俺の古い友達がそんな話をしてたことがあってな」
「(ベリウス、ってどこかで・・・・・・)」
リリーティアは聞き覚えのある名前に首を捻る。
「・・・ドンが南のベリウスと友達って本当だったんだ・・・」
「何よ、そのベリウスっていうの」
「ノードポリカで闘技場の首領(ボス)をしてる人だよ」
「(ああ、そうだ・・・統領(ドューチェ)だ)」
リリーティアは思い出した。
ここから南にあるデズエール大陸。
その大陸の西端にノードポリカがあり、そこは闘技場が盛んな大きな都市だった。
ギルド『戦士の殿堂(パレストラーレ)』がノードポリカという都市をつくり上げ、闘技場を運営している。
大規模なギルドで、そこでは首領(ボス)と言わず統領(ドューチェ)と呼ばれており、その統領(ドューチェ)がベリウスという名だった。
実際にその人物と会ったことはないが、リリーティアは話にだけは聞いている。
ドンがその者と友だちだというのは初耳だった。
「ノードポリカ・・・・・・」
リタが呟く。
エアルの暴走のことを知るベリウスのことが気になっているようだ。
リリーティアもそのことについては気になった。
「で?エアルの暴走がどうしたって?」
「本当大変だったんです!すごくたくさん、強い魔物が次から次へと、でも・・・!」
「坊主、そういうことはな、ひっそり胸に秘めておくもんだ」
「へ・・・?」
ドンの思わぬ言葉に、間の抜けた反応をするカロル。
「誰かに認めてもらうためにやってんじゃねえ、街や部下を守るためにやってるんだからな」
「ご、ごめんなさい・・・」
ドンのその声は厳しいでもなく、ただ諭しているだけというのでもない。
その言葉を含めて、その声音は深く心に響くような、でも優しさに溢れている、そんな不思議な感じを受けた。
「ちょっと、すみません。見せてくださいますか?」
「ん?何だ?」
ドンが振り向くと、エステルが腕を怪我している彼の部下に手をかざしていた。
「おおっ・・・治癒術か・・・ありがてぇ・・・」
部下は光に包まれ、腕に受けていた傷はきれいになくなった。
傷を治してくれたエステルに、部下は喜んで礼を言った。
すぐさまエステルは、負傷した他のギルドの男たちにも治癒術を施していく。
「ん?おめえさんは・・・・・・」
しばらく治癒術を使うエステルを見ていたドンが、振り向きざまにユーリたちと少し距離をおいて立っているリリーティアに気づいた。
ドンの視線にリリーティアは微笑むと、ユーリたちとの距離を縮めた。
「リリーティアじゃねえか」
「ご無沙汰しております」
ドンの側によると、彼女は小さくお辞儀をする。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「はい、おかげさまで。ドンも息災でいらっしゃいますか」
「ああ、この通りな」
ドンとリリーティアがこうして会話を交わすのは、実に久しぶりだった。
レイヴンと共にドンとお酒を交わしたあの時からすでに二年は経っている。
あの日からドンとは会話を交わすどころか、一度も会う機会はなかった。
「え?リリーティアって、ドンと親しかったの!」
驚くカロルの視線に、ただリリーティアは肩をすくめた。
親しいと言っていいものかどうか、よく分からなかったからだ。
「まあ、一度酒を交わした仲だ」
「ええ!?」
ドンの言葉に信じられないといった目で見るカロルにリリーティアはただ頷いた。
「・・・ん?そこにいるのはレイヴンじゃねえか。何隠れてんだ!」
レイヴンの気配に気づいたらしいドンが声を荒らげて彼を呼んだ。
ドンに見つかり罰が悪そうな表情を浮かべると、彼はしぶしぶといった様子でドンの元へと出てきた。
「うちのもんが、他人様のとこで迷惑かけてんじゃあるめえな?」
「いえ、そんなことありませんよ」
「迷惑ってなによ?ここの魔物おとなしくさせるのにがんばったのよ、主に俺が」
レイヴンは自分の胸に親指を立てて指し、ドンに訴えるように言った。
言っていることはあまりに大げさだったが。
「え!?レイヴンって、『天を射る矢(アルトスク)』の一員なの!?」
「どうも、そうらしいな」
カロルはぎょっとして、レイヴンを見る。
リリーティアの時よりもさらに驚いているようで、本気で信じられないといった様子だった。
ユーリはいたって平静ではあったが、信じられない気持ちは少なからずあるようだ。
「いてっ、じいさん、それ反則・・・!反則だから・・・!」
「うるせぃっ!」
どこかふざけた物言いのレイヴンに、ドンは刀の柄で彼の胸を突く。
彼はあまりの痛さに後ろへ下がり、ドンから逃げた。
「ドン・ホワイトホース」
ユーリがドンの前に出る。
「何だ?」
「会ったばっかで失礼だけど、あんたに折り入って話がある」
「若えの、名前は?」
その時、僅かにドンの目の色が変わったように感じた。
リリーティアは気のせいかと、彼を訝しげに見る。
「ユーリだ。ユーリ・ローウェル」
「ユーリか、おめえがこいつらの頭って訳だな?」
「あのー、ちょっと、じいさん、もしもし?」
「最近、どうにも活きのいい若造が少なくて退屈してたところだ。話なら聞いてやる。が、代わりにちょいとばかり面貸せや」
レイヴンの言葉など耳には入っていないのか、ドンは何やら面白いものを見つけたかのように不敵に笑った。
「あちゃー、こんな時にじいさんの悪い癖が・・・」
「なにそれ?」
頭を抱えるレイヴンにリタが聞く。
「骨のありそうなの見つけるとつい試してみたくなんのよ」
「た、試すってなにを!?」
「腕っ節を、よ!」
レイヴンは自分の腕を叩きながら話す。
ドンの強さを知っているカロルは彼と腕試しなんて無謀だと思ったのか、ぎょっとしてユーリを見ていた。
「そういうことだ。ちょいと年寄りの道楽に付き合え」
「いやいやいやいやいや、俺様はやらないわよ」
ドンの視線にレイヴンは身を引いて、絶対的な拒否を見せる。
よほどドンとやり合うのは勘弁願いたいらしい。
「リリーティア、おめえもどうだ?」
「・・・え?・・・私、ですか?」
まさか自分も声をかけられるとは思ってもなく、リリーティアは少ばかり反応が遅れた。
彼女は何度か目を瞬かせて驚くと、少し考えてから頷いた。
「ドンが宜しいのでしたら、私も付きあ-------」
「ちょっと、ちょっと!リリィちゃん、何言ってんの?!」
彼女の言葉を遮ると、レイヴンはリリーティアの側に寄って慌てて止めに入った。
「え・・・、だめでしょうか?」
そこまでひどく慌てる彼に驚きながら、リリーティアはきょとんする。
「レイヴン、年寄りの道楽を邪魔すんじゃねえ」
「私は大丈夫ですから。このような機会はめったにありませんし」
実際にドンが戦っているところは、ダングレストで魔物たちと戦っていた姿を一度見ただけだ。
だが、それだけ見てもその戦術の腕は相当なものだと分かった。
レイヴンが必死に止めるのはドンとの手合わせは相当危険だということを示唆しているのだろうが、それでも、リリーティアにはドンの力を身をもって知りたいという興味にも似た思いがそこにあった。
「本人がいいって言ってんだ」
「いやいやいやいや!こればっかりは、だめに決まってんでしょ!!」
そう言うとレイヴンはリリーティアの腕を掴む。
「え?!ちょっ・・・レ、レイヴンさん?!」
そのまま強く腕を引かれ、リリーティアは思わずつまづきそうになる。
彼女は容赦のない彼の行動に戸惑い驚き、思わず声をあげた。
「あ、逃げた!」
リタが叫ぶが、構わず彼女と共にその場から逃げ出すレイヴン。
ドンは呆れた様子でそれを見ると、ひとつため息をつく。
「たく、しょうがねえやつだ」
しかし、その目は普段のドンにしては珍しく、どこか優しげな色をたたえていた。
「んで、おめえはどうだ?」
逃げる彼をしばらく見ていた後、ドンはユーリへと視線を移した。
「いいぜ、ギルドの頂点に立つ男とやりあうなんざ、そうある機会じゃないだろうしな」
「はっは、それでこそだ。こい!」
ドンはユーリの反応に満足げに笑い、長く大きな剣を肩に乗せる、さらに不敵ににっと笑ってみせた。
他の者たちは周りへと散り、そこには戦いの構えをとったユーリとドンだけが残る。
そして、あたり一帯には緊迫した空気が流れ込んだ。