第11話 大森林
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「もう少しってえとこだな」
「ワフ!」
ユーリは剣を振り下ろして魔物に一撃を加えた。
何度か攻撃を与えて、少しずつではあったが魔物の動きが徐々に鈍くなっているのが分かった。
そう思っていた矢先、突然魔物が高く飛び上がり、隊列を組んでいた一行の中央に着地する。
「下がって!」
隊列を崩され、眼前に現れた敵を前にリリーティアは急いで後退しながら、エステルとリタに向かって叫ぶ。
《レウィスアルマ》にエアルで構築した刃を出現させると彼女はさっと構えた。
その時、魔物が咆哮をあげて、6本の足で地を激しく踏み鳴らす。
激しい地響きと共に襲ってきた衝撃は想像以上に広範囲に広がり、その衝撃の波に一行は吹き飛ばされてしまった。
少し体を打ちはしたが、リリーティアはなんとか受身をとり、すぐに片膝をついてその体を起こした。
「愛してるぜぇ!」
その声の後、リリーティアの体は温かな光に包まれた。
レイヴンが治癒効果の術式を施した矢を放ってくれたようだ。
リリーティアは彼に目配せして感謝の意を伝えると、周りの様子をうかがい見た。
「いらないっ言ってんでしょ!」
「リ、リタ、せっかく回復してくれたんですから・・・」
「ちょっと、ボクたちには・・・!」
「オレらは大丈夫だけどな」
「ワフ!」
相変わらずな皆の様子に苦笑を浮かべるも、何やら文句を言ったりしてそれは元気な様子だ。
どうやら大した怪我もなく、皆大丈夫のようである。
そして、またも魔物は大きく啼いた。
だが、その様子はさっきと比べると明らかなる違いがあった。
「なんか、元気になってない?!」
「まだまだ、終わりそうにねえな」
「え~、俺様もう疲れてきたんだけど・・・」
さっきまでその動きに鈍さがあったのだが、今はどことなく覇気が戻っているような感じなのである。
嘆いても仕方がないと一行は体制を整え、再び魔物との戦いに身を投じた。
「一体どうなってんの」
「やはり、エアルのせいでしょうか?」
戦いながら、後方でリタとエステルが話している。
「(・・・だからって、体力まで戻るものだろうか。・・・・・・おかしい)」
二人の会話を聞きながら、リリーティアはなぜ魔物の体力が戻ったのかその原因を考えていた。
魔物は体力が戻っただけでなく、よく見ると、これまで受けた傷も浅くなっているのである。
それは、エアルの影響とは考えられなかった。
しかし、これまで魔物が自身を回復していたという、なにかしらの行動も見せていない。
そもそも魔物が自ら回復術を使うなど正直考えられなかった。
----------バシャン!
「あいたっ!」
そんなことを考えていると、近くいたカロルが水たまりに足を取られて尻餅をついた。
「カロル、大丈夫?」
「ははは、・・・うん、平気平気」
カロルは恥ずかしさを隠すようにすぐにその場に立ち上がって頷いた。
「(この匂い・・・・・・?)」
その時、リリーティアは何か甘い匂いに気づいた。
それは、なんとなく蜜にも似たようなもの。
「カロル、なにか甘い匂いしない?」
「甘い、匂い?・・・・・・あ、言われてみれば」
カロルもその匂いに気づいて、あたりをキョロキョロと見渡す。
「そっち行ったぞ!」
ユーリの声に前を向くと、魔物がリリーティアとカロル目掛けて突撃してくるところだった。
彼女はすぐさま火の魔術を放つと、カロルと共に後ろに下がって魔物との距離を置いた。
「あ!これだ!」
「?」
突然、カロルが声を上げた。
見ると、彼は白い手袋(グローブ)をはめた自分の手を見ている。
「リリーティア、これだよ!甘い匂い」
その手をリリーティアの顔に近づけるカロル。
確かにカロルの手からさっき嗅いだ匂いと同じ、甘い蜜のような香りが漂ってきた。
そのカロルの手は濡れている。
さっき尻餅をついた時、水たまりに手がついたせいだった。
「ということは、あの水が・・・」
彼女は水たまりを見る。
この場所にはいくつか水たまりがあり、それはこの地帯ではよく降っている雨によって出来たものだ。
その中にひとつ、一際大きな水たまりがあった。
それも雨によってできた単なる水たまりだと思っていたのだが---------、
「(----------あれだ!)」
リリーティアは、はっとした。
そして、これまでの魔物の行動を振り返る。
よくよく考えると、魔物の動きはあの水たまりを中心に動いていたのだ。
戦いながらだと気づかなかったが、今改めて考えて注視して見ると、その動きには法則性があった。
水たまりからだいぶ距離を置いても必ずその水たまりに後退している。
「あの水たまりに近づかせないで!この魔物、あの水で回復してる!」
魔物を含めた動物たちは、時として脅威となる自然の力を自身の身を守る術にと独自に適応して進化してきた生き物だ。
新たに作りだす人間とは違って、動物たちは元々在るもの自身に適応させて自然と共存してきた。
それは生きる糧とする獲物をとるため、自らの身を守るため、様々な用途をもって自然を利用してきたのだ。
つまりこの魔物は、実際甘いものが何なのかは分からないが、この水たまりを使って己の身を守ってきたのだろう。
「え、そうなの!」
「ただの水たまりじゃないんです?!」
カロルとエステルが驚いてその水たまりを見る。
傍から見ればただの水たまり。
しかし、それは魔物にとっては命の泉。
「だからそんなピンピンしてるってわけか」
「なめたマネしてくれるじゃない」
「一本とられたてたって感じかね」
ユーリ、リタ、レイヴンも水たまりを一度見ると、魔物に視線を移した。
それは、至極自然にそこにあった。
周りと一体化して、ただの水たまりなのだと勝手な先入観から思い込んでいた。
そこが大きな罠だったのだ。
相手に弱ったと思わせておき、水たまりで密かに治癒し、形成逆転を図る。
獲物を油断させるための、大きな罠。
「(・・・・・・どうにかしてあれに近づかせないようにしないと)」
リリーティアは魔物を見据える。
ユーリとラピードが魔物と水たまりの間に立って行く手を阻みながら戦っていた。
皆が水たまりを念頭において、行動を改めて戦っている。
しかし、魔物の動きは早く、攻撃の威力も凄まじいもので、動きを完全に押さえ込むことは無理であった。
その上、水を飲んでいるのも一瞬でしかなく、少しずつ水を体内に取り込み徐々に回復をしているようだった。
「これじゃあ、いたちごっこじゃない。こっちの体力がもたないわ」
「そうですね。・・・あそこになにか仕掛けることができれば-------」
「あ、・・・その手があったか」
リリーティアの声を遮り、突然レイヴンは何かを閃いたようだ。
「レイヴンさん?」
「んじゃ、ちょっと仕掛けますかね」
そう言うやいなや、彼は水たまりまでヒョイと軽快に走ると、矢をつがえた。
しかし、それは魔物に向かってではなく、足元に向かっている。
「土竜なり!」
そう言って、地面に矢を放つレイヴン。
すると、橙に輝く術式が現れた。
「(あの術式は、・・・・・・放爆式?)」
浮かぶ術式を読み取るリリーティア。
それを水たまりの周りに数箇所打つと、レイヴンはさっさと戻ってきた。
術式は未だそこに輝き浮かび、なにも変化が見られない。
「そこ、危険だから、魔物が来たらちょっくら離れてよ!」
レイヴンは水たまりの周りに浮かぶ術式を指差して、一行に告げる。
皆が訝しげにレイヴンを見ていた。
「もしかしてあれ、一種の地雷装置、ですか?」
「お、さすがリリィちゃん、ご明察!」
レイヴンはにっと笑う。
彼の行動の意図を読み取り、なる程とひとり納得したリリーティアは魔物のほうへと視線を移した。
まさに今、魔物が水たまりに向かって突進しているところだった。
そして、魔物の足が術式に触れた瞬間、術式が展開し光を放つ。
爆発音と共に周りに仕掛けられた術式も作動して、仕掛けられた術式が一気に爆発を起こした。
魔物は雄叫びをあげながら吹き飛ばされ、足元から襲った爆風により体がひっくり返った。
その隙を見逃さまいと、ユーリとラピードはすぐに魔物の元へ駆け出す。
魔物はすぐに起き上がることはなく、よく見ると爆発の衝撃によって一時的に意識を飛ばしている。
「ワォォーン!!」
自身に炎を纏ったラピードが魔物に突撃すると、口に咥えた剣で何度も切り裂く。
そして、さっと後ろへ後退すると、立ち代わりにユーリが魔物の頭上へと飛び上がった。
「天狼滅牙・飛炎!!」
落ちる勢いのままに炎を纏った剣を魔物の急所に突き刺すと、そのまま剣を大きく振り上げた。
魔物は森中に響き渡る大きな奇声を上げると、足を激しく動かして盛んに暴れていたが、しばらくするとすっとその動きが止まった。
それ以上、魔物は一度も動くことはなかった。