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それから一行はケーブ・モック大森林の様子を調査しながらも、森の奥へと歩みを進めていた。

しかし、先程からカロルの様子がおかしい。

それは森の奥に進むにつれてひどなっているようだ。

リリーティアは周りの木々たちの形態をよく観察しながらも、その落ち着きのないカロルの様子が気になった。





「カロル、何してるんだ、さっさと行くぞ」

「う、うん・・・」





魔物に対して恐れているのかと思ったが、これまで共に結界の外を旅している中で、

今以上にそわそわして落ち着きのないカロルは一度も見たことがない。

この森に何かあるのだろうかとリリーティアが思ったその矢先のこと、一行のすぐ頭上を魔物であるビートルが飛んでいった。





「うわぁあああぁあぁあっ・・・！あっち行け！触るな！近付くな！」





それを見たカロルがぎょっとして、叫び上げながら武器を振り回しはじめた

魔物はこちらに見向きをもせずに去っいったのたが、いっこうにカロルは武器を振り回すのをやめない。





「カロル、カロル、大丈夫ですよ、もうあっちに行っちゃいましたから」

「・・・へ？は、ははは、なーんだ・・・さ、先へ急ご」





エステルの言葉ではっとすると、ようやく落ち着きを見せたカロル。

そして、さっさと先へと歩き出して行ってしまった。





「・・・いつものカロル先生と少し様子が違うな」

「本当、どうしたんだろう・・・？」




先へ進むカロルの背を見ながらユーリとリリーティアが言う。





「何が、いつものダメガキっぷりじゃない」

「ちょっと違うんだよな。いつものあの反応なら腰抜かすか、逃げてるぜ」

「ああ・・・そう言えば、そうですね」





皆が一斉に挙動不審なカロルを見る。

気にはなるが彼が何も言わない以上、リリーティアたちからは何も言い出すことはせず、先へ進むカロルの後に続いた。

そのとき、その様子を黙って見ていたレイヴンが少し考える素振りを見せ、





「うはぁっ！虫だ、虫の大群だぁっ！」





突然、大声で叫んだ。

隣にいたリリーティアはその大声に一瞬驚いて彼を見るも、それは明らかにわざとらしさがにじみ出ていた。

そもそも大群といいながら、魔物の鳴き声も足音もまったくといって何も聞こえないのだから。





「うわぁあっ、来るな、来るな・・・！！」





だが、先頭を行くカロルはその言葉を鵜呑みにしてしまったようで、またしても声を上げてぶんぶんと音をならし武器を振り回し始める。

目を強く瞑り、ろくに周りも見ず、ただ手当たり次第といった様子でまさに必死であった。

レイヴンはそれを面白おかしく見ており、そんな彼をリリーティアは横目で見た。

その時、手に何かを持ったリタがレイヴンに近づき、それを彼の顔に突きつける。





「うわっぷ・・・ちょい！」





レイヴンの顔に白い霧状の何かが吹きつけられた。

何食わぬ顔で吹き付けたリタが手にしていたものは何かのスプレーのようだった。





「ななな、何すんの・・・うわっ、目痛っ・・・」





顔を抑えて痛がるレイヴン。




「虫の大群追い払うために、薬かけてやったんでしょ」

「（・・・・・・それ、人に使っちゃダメなやつじゃ）」





当然のごとくの態度でそう言うと、リタはカロルのもとへ歩み寄る。

リタの手に持っているものが何なのか知ったリリーティアは、相変わらず容赦のない彼女に苦笑を浮かべた。





「げほっげほっ・・・」





スプレーの影響で涙を溜めた目をこすりながら咳き込んでいるレイヴン。

それを見たリリーティアは呆れながらも、腰にある鞄から小さな布（ハンカチ）と水の入った携帯用の小さな容器を取り出すと、その布（ハンカチ）に水を浸して、それを彼に差し出した。





「・・・・・・大丈夫ですか？」

「う～、あんがと・・・・・死ぬかと思った・・・」





レイヴンはそれを受け取ると、痛む目をおさえる。

リリーティアは困ったような笑みを零してその様子を見ていた。





「へ、嘘・・・」





その時になってようやくカロルが我に返り、忙しなく辺りを見渡す。





「カロル・・・虫、ダメなんですね・・・」

「そ、そんなことないって・・・」





気遣わしげなエステルの言葉にカロルは慌てて否定する。

どう見ても無理をしているということはその反応だけでも分かった。





「何とりつくろう必要あんのよ、今更。これ、持ってなさいよ。アスピオ特製撃虫水溶薬」





やれやれとリタがカロルにスプレーを差し出す。

彼女が持っていたのは、虫に効く殺虫剤だった。

直接虫に吹き付けることで、効果が出るものである。





「あ、う・・・い、いいの・・・？」

「いいわよ。ただし、人に向けて噴射しないでよ」





カロルは笑顔を浮かべてそのスプレーを受け取る。

よほど嬉しかったようだ。

まるで姉弟（きょうだい）のようだなと、リリーティアはその光景を微笑ましく見詰めた。





「俺様、人扱いされてないのね・・・とほほ・・・」





一方、リリーティアの隣では目の痛みが治まったレイヴンが大きく肩を落としていた。

そんな彼に対し、自業自得だとも思いながらも、リリーティアはただ苦笑を浮かべた。





「さ、行くわよ」





リタの声に一行は再び森の奥へと歩みを進めた。

それからは、まだ少し落ち着きのない感じではあったが、いつものように元気な様子で森の中を歩くカロルの姿があった。