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足元に気をつけながら大きな幹の上を歩いて森の中を進む。

一行から少し距離を置き、レイヴンは最後尾について歩いていた。





しばらく進んだ後、ユーリたちはふとその足を止め、レイヴンの方へと振り返った。

リリーティア以外の他の者は、彼に対して疑惑の視線を投げている。

エステルに関しては疑惑というよりも、それは少し戸惑っているようなものであるが。





「まあ、俺のことは気にせず、よろしくやってくださいよ」





そんな視線も気に止めず、レイヴンはあっけらかんとした態度であった。





「どうします？」

「おっさん、なんかオレらを納得させる芸とかないの？」

「俺を大道芸人かなんかと間違えてない？」





レイヴンは呆れた表情を浮かべたが、何やら少し考えるとカロルに向けて手招きする。





「ちょいちょい、こっち来て」

「え・・・ボ、ボク・・・？」





そして、カロルを連れ、幹をつたって茂みの中へと向かうレイヴン。

その場に残されたリリーティアたちは訝しげにそれを見ていた。

しばらく経たないうちに彼が一行のもとに戻ってきたが、そこには一緒についって行ったカロルの姿がない。





「ん？カロルはどうしたんだ、おっさん」

「う、う、うわぁあっ！ちょっと一人にしないで～！」





その時、茂みの奥からカロルの叫び声が聞こえてきた。





「レイヴンさん、何をしたんですか？」





眉根を寄せるリリーティアの問いに、彼はただいたずらな笑みを返すだけだった。





「ほら、ガンバレ、少年！」





レイヴンは両手を叩いてカロルに檄をいれる。

すると、カロルが慌てた様子で茂みから飛び出してきた。

見ると、巨大な昆虫型の魔物、ビートルに襲われている。





「くっ、くそぉおっ！も、もうイヤー！」





カロルは一度魔物へと振り向き武器を手に戦おうと構えたが、すぐに踵を返し、結局その場を逃げ出した。

そこでレイヴンがあの独特な変形する弓を取り出し、矢を１発、その魔物に当てた。





「（・・・なに？）」





しかし、矢が当たったと思ったのは見間違いだったのか、魔物は倒れないどころか、怯む様子も見せなかった。





「もうそろそろかね・・・」




しばくしてレイヴンが静かに呟いた。

その言葉のすぐ後、突如、魔物が音を立てて爆発した。





「うわっ！」





その爆発にカロルが驚いて、顔を覆ってしゃがみ込む。

気づくと、そこにいた魔物の姿は跡形もなく消えていた。





「中で爆発した！？」

「な、何したんです！？」





リタとエステルが驚きの表情を浮かべる中、リリーティアも内心驚いてそれを見た。





「防御が崩れた瞬間に、打ち込んで中から・・・ボンてね！」

「まったく・・・・・・悪趣味な芸ね」





リタが呆れた様子でレイヴンを見る。





「いいんじゃないでしょうか？」

「・・・いいのか？」





ユーリも呆れた口調で聞くも、エステルはただ頷いた。





「ええ。それに、これまで見てきた感じだと、リリーティアとも親しいようですし」





エステルの中ではレイヴンの見せた技でというよりも、リリーティアと知り合いだから一緒でもいいのではという結論に至ったらしい。





「そうだな、ま、いっか・・・」

「お、合格？」

「マ、マジで・・・？」





カロルはまったく納得できていない表情だった。

芸を見せるために魔物のおとりにさせられたカロルにとってのその反応は当然だろう。





「それに、そばにおいといた方が、下手な真似しやがったときに色々やりやすいしな」

「おいおい、色々って・・・」

「・・・それもそうよね」

「なんか背筋が寒くなってきたんだけど・・・」





ユーリとリタに至っては、リリーティアの知り合いだからというエステルの考えに賛同したというよりも、その言葉が何よりもレイヴンに対する本音のようだ。

リタだけだと思っていたが、案外ユーリもこれまでの彼の行動に対しては根に持っているところがあるらしい。





「えと、それなら、よろしくお願いします」





エステルは他の皆とは違い、律儀にお辞儀をしてレイヴンを仲間として迎え入れる。

エステルらしいなと、リリーティアは頭を下げる彼女を見ていた。





「はい、よろしく」





レイヴンは片手をあげてエステルに応えると、リリーティアの方へにっと笑みを浮かべて見せた。

そんな彼に、彼女もよろしくという意味を込めて小さく笑みを浮かべ頷いたのだった。