第11話 大森林
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商店街を抜けて街の入口付近、橋の手前の広場に出た。
「すげーな、こんだけの魔物、どっから湧いてくんだ」
「ちょっと異常だよ・・・!」
そこにはすでに大量の魔物が入り込んでおり、大勢のギルドの人たちが武器を手に戦っている。
それは、自分たちの街は自分で守るという、ギルドの人間ならではの強い意思が感じられた。
さすがはギルドの街だと、リリーティアは感嘆した面持ちでそれを見た。
「魔物の様子も普段と違いませんか?」
「ええ、見たところ普段より気性も荒いよう・・・」
そう言ってリリーティアは両手に《レウィスアルマ》を手に取った。
ユーリたちもそれぞれに武器を手に持ち、戦う体制を整えると、いくつかの魔物がこちらに向かってきた。
「来るよ!」
リタの声と共に、ユーリとラピードは魔物たちに向かって駆け出した。
リリーティアも魔術を放って応戦し、皆がそれぞれに立ち回り魔物の襲撃に立ち向かう。
しばらくして、一行に向かって襲ってきた魔物たちはすべて撃退した。
「気ぃ抜くな、すぐ次のくるぞ!」
「こんなにたくさんの魔物・・・どうして?」
一行が戦っている間も、魔物はどんどん街の中へと入ってきていた。
甲殻類の硬い体に手は大きなハサミになっている クラブマン。
猪のような獣型の突進力のある サイノッサス。
口元が刃のように鋭く空中を自在に飛ぶ ビートル。
姿はまさにカマキリで両前足に持った鋭い鎌を振りかざす グラスホッパー。
それは、この一帯に生息している魔物たちで、一行がここダングレストに来る間でも何度か戦ったことがある魔物たちばかりだ。
しかし、これほどいっぺんの種類の魔物、その数を相手にしたことは未だかつてない。
大勢の魔物たちが入り乱れながら、街の中へと押し寄せてくる。
「このままじゃキリないわよ!」
「ワォーン!」
「(・・・・・・次から次へと!)」
あまりの数の多さの魔物がこちらに向かってくるのを見たリリーティアは、《レウィスアルマ》の片先にエアルで刃を構築すると一度それをひと振りする。
ユーリやラピードの横をすり抜けて、魔物たちがリリーティアたち目掛けて向かってきた。
後衛で戦っているリタやエステルの詠唱の邪魔はさせないと、彼女はぐっと足に力を込めると、その魔物たちの中へと飛び込んだ。
その横ではカロルも必死になって武器を振り回して戦っている。
「あ~、ウザイ!・・・もぉっ!」
何度となく倒しても、次々と現れる魔物たち。
リタは苛立ちを露わにしながら、魔術を繰り出していた。
魔物の咆哮、戦う人々の怒号はさらに激しさを増す。
「きゃっ・・・!」
リリーティアがその声に振り向くと、そこには女性が一人倒れていた。
そこを上空から魔物であるビートルが襲いかかろうとしている。
「スキンティッラ!」
リリーティアは火の魔術でそれを撃退する。
女性に駆け寄ると、その腕を取って急いでその場から立ち上がらせた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます!」
早く逃げるように促すと、改めて周りを見渡したリリーティア。
戦う術を持たない住人たちの逃げ惑う姿があちらこちらに見える。
「礼はいい!走れ!」
ユーリもその者たちを助けるのに精一杯のようだ。
住民たちに襲いかかる魔物を剣技で吹き飛ばしながら、なんとか街の人たちを守っている。
魔物の数は未だに増え続けており、どう見ても魔物たちを退けられるという兆しは見えない。
「・・・・・・これでは」
この状況なら魔物を撃退するよりも、一刻も早く結界魔導器(シルトブラスティア)を直すほうがいい。
そう考えたリリーティアは、今すぐにでも結界魔導器(シルトブラスティア)の様子を見に向かいたいところだったが、住民たちが襲われているのを前に、それを放って行くわけにもいかない。
魔物と戦っているギルドの人々も疲れが見え始めており、最初の時よりも勢いがなくなっている。
皆が皆、この戦いに余裕がなくなっていた。
「!・・・くっ」
その時、今にも魔物に襲われそうな女性が目に入り、リリーティアは苦渋な表情を浮かべる。
それはすぐに魔術を放ったとしても間に合わないことが分かった。
分かってはいたが、それでも彼女は《レウィスアルマ》を振り上げ魔術を放とうとした、その時である。
その魔物が信じられない速さで吹き飛ばされた。
「!?」
魔物を吹き飛ばした人物を目に捉えた瞬間、リリーティアは目を見開く。
その者は彼女もよく知る人物だった。
「さあ、クソ野郎ども、いくらでも来い。この老いぼれが胸を貸してやる!」
その蛮声と共に、魔物を次々と蹴散らす大きな体躯のその人物。
おかげで、襲われそうになったさっきの女性もその場から無事に逃げ出すことができたようだ。
「とんでもねえじじいだな。何者だ?」
「ドンだ!ドン・ホワイトホースだよ」
「あの、じじいがねえ」
ユーリが聞くと、カロルが目を輝かせて答えた。
そう、その人物とはギルドの頂点に立つ、ドン・ホワイトホースであった。
「ドンだ!ドンがきたぞ!」
「一気に蹴散らせ!俺たちの街を守るんだ!」
「我ら『暁の雲(オウラウビル)』の力を見せろ!!」
ドンが現れた途端、ギルドの者たちの覇気が再び上がった。
さっきまで疲れを見せていたにも拘わらず、すべてのギルドの者たちが声を張り上げ、魔物たちの中へと果敢に飛び込んでいく。
「(さすが、ギルドの大首領だ・・・)」
その様子を目の当たりしたリリーティアは、ギルドにとってのドンの存在の大きさを改めて知ることとなった。
一度会ったことがあると言えど、実際にドンが戦う姿もギルドの者たちを率いる姿を見るのはこれが初めてである。
以前に会話を交わした中でも、彼の中にある常人を超える資質的なものを感じたが、魔物たちの中に在るドンのその姿に、さらにそれを強く感じた。
「フレン!」
エステルの声。
見ると、ドンが来た方向からフレンも駆けつけてきた。
副官のソディアとアスピオ魔道士のウィチルもおり、その後ろには多くの騎士たちが集まっている。
任務であるギルドへの協力要請のために一行たちよりも先にダングレストに到着していた彼らは、今までドンと共にユニオン本部にいたのだろう。
「魔物の討伐に協力させていただく!」
「騎士の坊主は、そこで止まれぇ!騎士に助けられたとあっては、俺らの面子がたたねえんだ。すっこんでろ!」
フレンの言葉をはねのけるように、ドンは声を張り上げる。
「今は、それどころでは!」
「どいつもこいつも、てめえの意思で<帝国>抜け出してギルドやってんだ!いまさら、やべえからって<帝国>の力借りようなんて恥知らず、この街はいやしねえよぉ!」
「しかし!」
「そいつがてめえで決めたルールだ。てめえで守らねえで誰が守る」
ドンのそのすべての言葉が、ギルドの生き様そのものだった。
ギルドで生きる者たちの姿、強さ、信念、それぞれの義が、そこにはある。
「何があっても筋は曲げねえってか・・・・・・。なるほど、こいつが本物のギルドか」
ユーリもドンの言葉にギルドの在り方を垣間見たようだ。
その生き様を。
ユーリのその目の奥に、生き生きとした輝きが見えたような気がした。
「(とにかく、ここはギルドの人たちに任せてよさそうだ)」
リリーティアは武器を仕舞うと、カロルの傍に駆け寄った。
「カロル!結界魔導器(シルトブラスティア)まで案内してくれる?」
「え?結界魔導器(シルトブラスティア)?」
カロルは戸惑いの表情を浮かべる。
「この状況じゃ、確かにそのほうがいいわね。先に結界魔導器(シルトブラスティア)を直したほうがいいわ」
「このままじゃ魔物の群れに飲み込まれます」
状況を飲み込めたカロルは頷いて、その場を駆け出す。
「ちょっと、あんたも!」
「それしかなさそうだな」
いまだドンを見ていたユーリにリタが叫ぶ。
魔物と人々の喧騒の中、一行は街の結界魔導器(シルトブラスティア)へと急行した。