第11話 大森林
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「ここがダングレスト、ボクのふるさとだよ」
カロルが意気揚々に言った。
昼となるまでまだ二時間あまりあるが、相変わらずこの一帯は夕方の斜陽に照らされ、実際の時間にそぐわない景色が広がっていた。
ダングレストを故郷とするカロルや、何度か訪れたことのあるリリーティアにはすでに見慣れたものであったが、その不思議な現象を初めて目の当たりにしたユーリたち三人は皆が一様に驚いていた。
彼らは時間の感覚がおかしくりそうだと話していたが、リリーティア自身もこの一帯の時間感覚については未だに掴めない。
そんな不思議な現象に惑いながらも、街へ続く橋を渡り、ダングレストへと到着したのだった。
「にぎやかなとこみたいだな」
「そりゃ、帝都に次ぐ第二の都市で、ギルドが統治する街だからね」
自慢げに胸を張ってカロルは答える。
街の中は大勢の人々が往来し、人々の喧騒が響き渡っていた。
一行がいる橋の上も人々の往来は途絶えることなく、すぐそこではトリムへ向かう隊商たちが集まっており、どの場所も騒がしく賑わっている様子だった。
「もっとじめじめした悪党の巣窟だと思ってたよ」
「それって、ギルドに対する偏見だよね」
カロルはジト目でユーリを見る。
「『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の印象が悪いせいですよ、きっと」
「騎士団と同じで、ギルドにも色々あるからね」
エステルとリリーティアは困った笑みを浮かべる。
集団というものはひとつのものが何かを起こすとすべて一括りに考えられてしまうから、ユーリの言葉も分からなくもない。
「ボクまで悪党なのかと思ったよ」
「あんたが悪党なら、こいつはどうなるのよ」
「それもそうだ。さて、バルボスのことはどっから手つけようか」
ユーリは街の中を見渡す。
「ユニオンに顔を出すのが早くて確実だと思うよ」
「ユニオンとはギルドを束ねる集合組織で、五大ギルドによって運営されている、ですよね?」
「うん、それと、この街の自治もユニオンが取り仕切ってるんだ」
「でも、いいわけ?バルボスの『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』って五大ギルドのひとつでしょ?」
「ってことはバルボスに手出したら、ユニオンも敵に回るな」
「・・・それは、ドンに聞いてみないとなんとも」
カロルは肩をすくめて答える。
「(・・・ドンも奴らのことは問題視しているようだし、おそらく敵にまわる心配はないだろう)」
ユーリたちが話をしている中で、リリーティアはひとりそう考えていた。
「そのドンってのが、ユニオンの親玉なんだな?」
「うん、五大ギルドの元首『天を射る矢(アルトスク)』を束ねるドン・ホワイトホースだよ」
「んじゃ、そのドンに会うか。カロル、案内頼む」
「ちょっとそんな簡単に会うって・・・。ボクはあんまり・・・」
カロルは言葉を渋らせた。
100以上あるギルドの頂点にいるドンは、日々様々な事項を持った面会者が訪れてはそれを対処している身だ。
そうやって話したいことがあるからとすぐに会うことは難しいだろう。
「お願いします」
「・・・・・・ユニオンの本部は街の北側にあるよ」
それを分かっていながら、エステルの言葉に渋々頷いたカロル。
一行はカロルを先頭に街の中を進み歩いた。
街中にはいろいろな商店が立ち並び、行き交う人々を店に呼び込もうと威勢のいい声があちらこちらで飛び交っている。
近くの酒場を兼ねた食事処からは陽気な笑い声が聞こえ、歓楽街さながらの雑踏であった。
「とても賑やかですね」
「賑やかっていうか、うるさいっていうか・・・」
活気に満ち溢れた街の姿に圧倒されながらも、エステルは目を輝かせて見渡している。
その隣でリタはあまりの喧騒に少々うんざりした表情を見せているが、彼女も物珍しくした様子でギルドの街を眺めていた。
二人の会話を聞きながら、ふとリリーティアは前を行くカロルの様子を心配した面持ちで見ていた。
彼はさっきからやけに落ち着きがなく、きょろきょろとあたりを見回している。
それは何かに怯えているような・・・、そんな風に見えた。
「あんた、何してんの?」
「え?な、なにって、べつに」
商店が建ち並んだ場所を抜けて、街の中心である大きな広場に出た時、
リタもカロルのおかしな様子に気づいたようだが、カロルは至って平静を装おうとしている。
しかし、それが余計に挙動不審に見えた。
「ん?そこにいるのはカロルじゃねえか」
その声にカロルがビクッと肩を震わせるのがわかった。
リリーティアたちはその声へと振り返る。
「どの面下げてこの街に戻ってきてんだ?」
「な、なんだよ、いきなり」
言葉を詰まらせながらも、カロルはむっとした表情で声の主に視線を投げる。
見ると二人の男が近づいてきた。
一人はがたいのいい男で、背にはその体に見合った大きな武器を背負っている。
もうひとりは頭にバンダナを巻いた細身の男で、手には湾曲刃の短剣を持っていた。
その見た目からして、おそらくどこかのギルドに所属している者だちであろう。
互いに正反対の容姿だが相手を見下したようなその目はどちらも同じだ。
「おや、ナンの姿が見えないな?ついに見放されちゃったか。あははははっ!」
「ち、違う!いつもしつこいから、ボクがあいつから逃げてるの!」
がたいのいいギルドの男は相手を馬鹿にした豪快な笑い声を上げ、カロルは半ばムキなって言い返す。
「これがあるから、ダングレスト行きを最初嫌がったんだな」
ユーリは呟いた。
あの時、乗り気ではなかったカロルの様子が気になったリリーティアもユーリ同様に納得していたが、それよりもギルドの男たちの態度に、彼女は険しい表情でじっとその男たちを見ていた。
「あんたらがこいつを拾った新しいギルドの人?相手は選んだ方がいいぜ」
「自慢できるのは、所属したギルドの数だけだし。あ、それ自慢にならねえか」
男たちは下品なまでの大声で笑い出す。
さっきまで言い返していたカロルだが、この時には黙り込み、顔を俯けたままぐっと拳を握り締めていた。
「カロルの友達か?相手は選んだ方がいいぜ?」
「な、なんだと!」
ユーリの皮肉に男が声を荒らげた。
「あなた方の品位を疑います」
「ふざけやがって!」
「あんた、言うわね。ま、でも同感」
目の余る彼らの態度にユーリだけでなく、エステルまでもがきっぱりと言い放つ。
リタもエステルの言葉に大きく頷き、皆が男たちの態度に呆れ、また憤りを感じていた
ただリリーティアだけは默したままだったが、その瞳にはユーリたちと同じく呆れと怒りを湛えた目でギルドの男たちを見据えている。
「言わせておけば-------」
----------カン!カン!カン!
がたいのいい男が何かを言おうとしたその時、街全体に甲高い音が突然鳴り響いた。
「何の音・・・?」
リタが言う。
よく聞くと、その音だけではなく、ほかに地鳴りのよなものも聞こえてきた
「やべ・・・また、来やがった・・・」
「行くぞ!」
二人のギルドの男たちは慌てた様子で武器を手に持って駆け出していった。
「警鐘・・・魔物が来たんだ」
「魔物って・・・まさかこの震動、その魔物の足音・・・」
「だとすると、こりゃ大群だな」
微かに揺れている程度だが街全体を響かせているその震動。
明らかに魔物の数は想像を絶するほどの数だということは容易に推測できた。
「ま、でも心配いらないよ。最近やけに多いけど。ここの結界は丈夫で破られたこともないしね」
カロルの話を聞きながら、リリーティアはふと街の上空に浮かぶ結界を見た。
見ると、結界がなぜか瞬くように消えかけている。
リリーティアは驚きに目を瞠った。
「外の魔物だって、ギルドが撃退-------」
カロルがそう話している内に、街を守る結界の輪が空に溶けるようにすっと消えてなくなってしまった。
「-----って、ええっ!!」
「結界が、消えた・・・?」
カロルの叫ぶ横でエステルも動揺を隠しきれずにいる。
皆が何もない赤く染まった上空を見上げた。
「一体どうなってんの!魔物が来てるのに!」
「ったく、行く場所、行く場所、厄介ごと起こりやがって・・・」
リタとユーリが話す傍で、リリーティアは睨むようにして上空を仰ぐ。
「(・・・いくら何でもタイミングが良すぎる)」
魔物の襲来と同時にして結界が消えた。
それはあまりに偶然というには出来すぎているような出来事であった。
彼女にはこの事態には陰謀が隠されていると半ば直感的に悟った。
「なにか憑いてんのよ、あんた」
「・・・かもな」
「ユーリ、リリーティア、魔物を止めに行きましょう!」
エステルの言葉に頷くと、一行は一目散に街の入口に向かって駆け出した。