第13話 竜使い
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アレクセイとの話が終わった後、リリーティアは研究私室にいた。
薄暗い部屋の中、机の前で書類を手に佇んでいる。
彼女は、技官が話していたことを思い返していた。
〈人魔戦争〉当時、結界をものともせずに都市を襲った、見たこともない魔物たち。
それを人々は竜と呼び、恐れられていたあの頃。
あの日から幾数年が経ち、その存在は人々の記憶の奥へと消えかけていた。
そんな時、突如として現れた竜。
今回現れたそれが当時恐れられていた、結界をものともせずに都市を襲ったという竜と同じであるならば----------、
----------私はその”正体”を知っている。
結界をものともしない生き物。
世界に複数存在する、人間とは姿形は異なる生き物。
魔物のような姿、しかし、魔物ではない生き物。
その生き物たちが世界(ここ)に存在する意義。
そこには世界存亡と密接に関係した使命というものがあった。
その使命の下、その生き物たちは都市を襲うという暴挙に出たのだ。
すべてはあの記録書にて記されていた。
今は失われた、ヘルメスの遺したあの冊子の中に。
----------そう、私は知っている。
悲惨なる〈人魔戦争〉の発端。
テムザを襲ったあの巨大な生き物の正体。
生き物が街を襲ったその真意。
その真意を知った時、”有罪宣告”を受けた気がした。
私が行ってきたことは間違いだったのだと知らされたのだから。
ペルレスト、エルカパルゼ、ファリハイド。
〈人魔戦争〉の最中、壊滅した3つの街。
街が壊滅した理由は、そこには記されてはいなかったが、その冊子に記された真意によってその理由は容易に推測できた。
推測と言っても、それはほとんど確定的なものであった。
3つの街の結界魔導器(シルトブラスティア)に手を加えた私の行い。
その行いが、街が壊滅する事態を招いたのだろうという推測、そして、結果。
----------私は”罪”を犯していたのだ。
その生き物は街を滅ぼすことで、私が行った罪に制裁を下したのだろう。
私は己の過ちに気付かぬまま、罪を犯し続けていたのだ。
挙句、さらに2つの街と、そこに住んでいた多くの人々の命が奪われてしまった。
関係のない、何の罪も犯していない者たちの命が。
なのに、罪を犯した当の本人は今もこうして生きている。
さらに多くの罪を犯しながら。
ただ、確定的な真実を得るには、当時の〈人魔戦争〉の敵である竜から、直接聞くことでしか得ることはできないが。
そして、また竜は現れた。
幾数年の時を経て、再び。
リリーティアは、手にしていた文書を机の上に置くと椅子に腰かけた。
机に肘をついて組んだ両の手の上に額を乗せた。
ならば、私は確かめなければいけない。
確実な真実を。
過去に犯した罪の真実。
ずっと、ずっと知りたかった真実。
でも、知りたくない真実でもあった。
でも、知らなければいけない。
知ってどうするのかと聞かれても、正直、わからない。
犯した罪で失ったものは、二度と取り戻せない。
犯した罪で変わったものは、二度と戻らない。
けれど、知らなければいけない。
知らなければいけないんだ。
リリーティアは組んでいる両の手をさらにぎゅっと強く握りしめた。
薄暗い研究私室の中、彼女は長い間、そのまま動くことはなかった。