第13話 竜使い
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「竜使い-----か。その話、にわかには信じがたいが」
執務机の前に座り、今回の事態について事細かく書かれた報告書類に目を通した後、アレクセイの眉間には深いしわが刻まれる。
騎士団長執務室にて、リリーティアとアレクセイは新型魔導器(ブラスティア)が破壊された事について話していた。
「そこにいたすべての者が同様の証言をしております。その襲撃者に直接襲われた者もなく、魔導器(ブラスティア)だけを破壊するとすぐにその場から去ったということです。そのことから、本当にただ魔導器(ブラスティア)だけを狙った襲撃だったのかもしれませんが、確かなことは言えません」
「それは、本当に結界をものともせずに中に入り込んだのかね。”ヘルメス式”魔導器(ブラスティア)がその機能を果たせていなかったという可能性は?」
----------ヘルメス式。
その名称は、新型魔導器(ブラスティア)と同意義。
リリーティアたちは、新型魔導器(ブラスティア)をそう呼んでいた。
ヘルメス----------天才と謳われた科学者の名前。
彼女の父ヘリオース、そして、アレクセイの友であった彼の名。
なぜ、彼の名で新型の魔導器(ブラスティア)をそう呼称しているのかといえば、新型と呼ばれる所以である魔核(コア)の調整をして本来持っていた機能とまったく別の物に作り変えるという技術は、ヘルメスが考え、確立させたものだからである。
この技術は公に発表されておらず、世間一般には知られてはいない。
だが、ヘルメスが考えた新たな理論の下に生まれた高性能技術は、かつてテムザにあった<帝国>最重要研究施設で機密に実用化に向けて研究が行われていた。
しかし、それは〈人魔戦争〉で失われ、確立者である本人もその出来事により命を奪われてしまった。
ならば、なぜ今、それが存在しているのか。
それは、ヘルメスが書き遺してくれていたおかげであった。
現に、〈人魔戦争〉の生き残りであるシュヴァーン、イエガーに施した心臓魔導器(ガディスブラスティア)も、そのヘルメス式で作られれたもの。
といっても、それが記録された冊子はあの爆破事件によって失われたが、その時にはすでにその技術を受け継いだ者たちがいた。
アレクセイ、そして、リリーティアだ。
この高性能技術、ヘルメス式を用いて彼女は様々な研究を行っており、今回の実験もその一つとして進められている。
「聞いたところ、正常にその機能を果たしていたということですが・・・。それは、技術者からの見解に過ぎず、確かな検証を行う前に魔導器(ブラスティア)が破壊されたため、実際のところはわかりません」
アレクセイは険しい顔つきで顎に手を当て、黙り込んだ。
突然現れた襲撃者について考えているらしい。
リリーティアは一度ためらったあと、静かにその口を開いた。
「閣下、その竜のことですが。やはりそれは-------」
「そう考えるほうが妥当かもしれんな。それに乗っていた人間、というのが気になるが」
最後まで言わずとも、アレクセイも彼女と同じ事を思っていた。
彼も、リリーティアと同じ時、同じ場所で、息絶えていたあの本当の魔物、竜の姿を見ていたからだ。
この世に存在し、そして、それが複数いるという事実。
その竜が、とある決断の末に起こした行動。
それらの事実を知ったとき、竜に対し恐怖と、そして、アレクセイに至っては、いつしか怒涛(どとう)たる怒りを覚えていた。
そして、その存在が自分たちの前に現れたかもしれないという報告に、彼の顔つきは僅かに憎しみに溢れているように見える。
「どこから情報が漏れたのか、一度調べる必要があるな。だが、それが本当に奴らの仲間であれば、それを知らずともそこに現れたということは頷ける」
結界をものともしないという竜ならば、情報がなくとも、それを知る術(すべ)を持っている。
生まれながらにしてその術を持ち合わせているのだ。
それが、竜たちの特性であり、この世に存在する意義を持つ。
「漏洩(ろうえい)の調査と併用し、次の実験は私も共に向かいます」
アレクセイは僅かに眉をひそめると、窺うような視線をリリーティアに向けた。
「あの魔導器(ブラスティア)だけが目的であれば、次も必ず竜使いは現れると思われます。あの時と同じ理由で現れたのならば尚のこと。この目で実際に確認し、事の真相を掴みます」
彼はしばらく険しい顔つきで彼女を見据えていたが、視線を落とし、しばらく考える素振りを見せる。
過去に見た竜と、現在(いま)になって現れた竜は同じ仲間なのか。
竜が現れた理由は、本当に自分たちが思うところと同じなのか。
そして、竜と共に現れた襲撃者は一体何者なのか。
その時ふと、アレクセイは白銀と紅のある人物を思い浮かべた。
だが、その人物と報告内容を照らし合わせると、それとは一致しないように思われた。
もう少し確かな情報がいる。
だが、実際にリリーティアを向かわせることは躊躇われた。
彼女は竜が現れた理由と深く関わっているかもしれなかったからだ。
過去に竜が現れたその理由を知ってから、ずっと彼女は思い悩み、それを半ば己の罪と認めはじめている。
いや、すでに認めているのかもしれない。
そんな心情の中、彼女を向かわせていいものなのか。
実験に関しては、他の者に任せておいても何ら支障はない。
だが、再び希少な魔導器(ブラスティア)を壊されるわけにもいかないのも事実。
それは、彼女が何よりも重要な人形(どうぐ)だからか、それとも、かつての彼が持っていた心の表れなのか。
それは誰にも分からない。
彼の言葉を待つリリーティアは、違和感を覚えた。
それは、彼からの指示を待つ時間がいつもよりも大分長いからだ。
いつもはそれなりに早急な決断を下す彼が、何をそんなに考え込んでいるのか。
彼女には見当もつかなかったが、竜が現れたという事実に神経質になっているのだろうかとも思った。
そうして、互いに心中を巡らせながら続いた長い沈黙は、アレクセイの下した決断に破られた。
「接触には十分に注意しろ。本当に奴らの仲間ならば、容赦などしてくれんだろうからな」
「はい。重々承知しております」
アレクセイは、結局リリーティアに任せることにした。
頭を下げる彼女に、彼は声もなく頷いた。