第12話 弟子
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「死んだらどうにもならない。なんの意味もない。そんなことで命を危険に晒すなんて-------」
「!!」
師の言葉に、今まで顔を伏せて黙っていたゴーシュが大きく反応を示した。
「そんなこと、・・・ですか?」
「ゴーシュちゃん?」
ドロワットは訝しげにゴーシュを窺い見た。
「そんなこと・・・・。そうですね、師匠にとっては”そんなこと”でしかないのかもしれません」
すると、ゴーシュは睨むようにして師を見上げた。
「でも!私にとっては!私にとっては・・・!!」
ドロワットはゴーシュの怒りに驚きを隠せず、目を見開いている。
しかし、リリーティアはその表情を一切崩すことなく、厳しい瞳は変わらずそこにあった。
「約束を破ったと言いますけど、師匠だって約束を破ってるじゃないですか!あの時、早く用事を済ませてすぐにまた来ると言っていたくせに!」
「・・・・・・・・・」
ゴーシュは肩を震わせていた。
リリーティアは何も言わず、ただただゴーシュを見据えている。
相変わらず厳しいままで、変化のないその表情からは何も読み取ることはできない。
「今まで何度も、何度も、自分が言っていたことを守れていないじゃないですか!一日いると言いながら、半日もたたずして用事が出来たとか言って、結局は・・・。
この前の時だってそうだった!『いつも頑張っているから必ず魔術も出来るようになる』とか、『すぐに出来るようになる』とか・・・・・・。すぐっていつですかっ!師匠は必ず出来るっていって、ただ言うだけで!ただ言うだけで・・・っ!!」
ゴーシュは今まで溜めに溜め込んでいたものをすべてを吐き出すかのように一気に捲し立てた。
それは、これまで我慢してきたこと。
ゴーシュはいつも聞き分けが良かった。
用事があって十分に指導ができなかった時も、指導する約束の日が過ぎても、彼女は決して不満を言うことなく。
寧ろ、労いの言葉をかけてくれて、不満を口にするドロワットに対して一喝するほどだった。
だから、ひと月前の別れる時に、「もう少し指導してほしいと」とゴーシュが言ったのは珍しいことであった。
「師匠は強いから、そう簡単にできるようになるって言えるんだ!”そんなこと”だって済ますことができるんだ!誰かを守れるぐらい強いから!だから!だから・・・っ!!」
だからこそ、あの時のゴーシュは追い詰められていたことも分かっていた。
そう、わかっていたのに・・・・・・。
リリーティアはゴーシュが今までどれほど苦しみ、心の中でひとり葛藤していたのかを改めて知った。
「私たちはそうじゃない!あの時だって守れなかった!ただ逃げることしかできなかった!私たちは何もできなかった!だから、だから、・・・家族を失って、キャナリ姐まで失って、みんなみんな、私たちを置いていった!!私は何も守れないままでっ!!」
「っ!?」
”キャナリ”という名に、リリーティアは激しく動揺した。
自分の知る”彼女”と同一人物なのかは分からない。
リリーティアは昔の記憶が、思い起こされて胸が苦しくなった。
それは、あまり思い出すことをしなくなった記憶。
思い出したくない、記憶。
「もう、もう、・・・死ぬのなんて見たくないんだ!誰かが死ぬのは・・・っ!」
ゴーシュの言葉と共に、彼女の脳裏に浮かぶもの。
白い砂。
そこに染みついた、朱殷(あか)。
そこに散らばった、黒い欠片。
そこに広がる、守れなかったものたち。
「もう、大切な人が・・・、大切な人が死ぬのなんて嫌なんだっ!!」
あの”戦争”でどれだけの命が奪われただろう。
私は、守れなかっただろう。
生(ひかり)をなくした瞳。
薄ら笑った顔。
絶望。
後悔。
もう、あんな思いはしたくないし、----------何よりさせたくない。
そう、させたくないんだ。
だから、この子たちに教えていた。
危険な道だと知りながらも、その道を歩もうとするこの子たちに。
それは、誰かを守るために教えているのではない。
その為に私は教えているんじゃない。
ただ、ただ----------、
「だから、早く強くなって、強くなって・・・・!もう失わないように、奪われないように!そのためだったら命だって惜しくなんて---------!」
「やめなさいっ!!!」
リリーティアの表情は今まで以上の怒りに歪んだ。
これまでにない彼女の怒気と怒声に、二人は反射的に身を固くした。
「今言おうとしていた意味をわかって言ってるの?」
静かな声。
言葉の音は低く、それは異様さを感じるほどに重い響きがあった
「命だって・・・?」
そう言いながら、二人に歩み寄るリリーティア。
「知ってるなら・・・、それを知っているなら・・・」
いつもとは明らかに違う師の雰囲気。
ドロワットは思わずゴーシュの腕をぎゅっと掴んだ。
その瞳は不安と僅かな恐怖で揺れている。
ゴーシュも微かに不安げな表情だったが、鋭い目で師を見据え、怯んだ様子を一切見せなかった。
寧ろ、師が歩み寄ってくるのを待ち構えるようにして堂々とそこに立つ。
「大切な人を失う辛さを知っているのなら-------」
二人の目の前に立ったリリーティアは、勢いよくゴーシュの左肩を掴んだ。
その勢いに押され、ゴーシュは後ろに一歩足を引いた。
ドロワットは、ゴーシュの腕をさらに強く握り締め、師の剣幕に肩を震わせた。
「-------知っているのならこそ!そんなことを軽々しく口にするのはやめなさいっ!!!」
師の怒声を浴び、二人は反射的にぎゅっと目を瞑った。
その時であった。