第12話 弟子
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「こんにちは、お久しぶりですね」
リリーティアは笑みを浮かべて、集団の中にいた一人の商人に声をかけた。
その商人も笑みを浮かべ、気さくに片手を上げて応える。
二人のその様子に、互いに親しい者同士なのだろうということが誰から見ても窺い知ることができた。
「やあ、やっぱり君だったか。まさか、こんなところで会うとは思わなかったよ」
「トリムにいる知り合いの子に魔術について教えてほしいと頼まれまして、ここでそれを教えていたんです」
リリーティアは少し離れた所にいる二人の弟子たちを見ながらそう話すと、商人の方へと視線を戻した。
「次はダングレストで商いを?」
「おうよ、しばらくハルルにいたんだがね。次はその街でしばらく世話になるつもりだ」
どこか気の良さそうな商人の男。
その瞳は優しげで、とても親しみ感じる雰囲気をもった男であった。
「知り合いかい?」
「ああ、いつも贔屓にしてもらっているんだ。といっても最近は顔を見せてくれないけど」
その集団の中にいたもう一人の商人の男に尋ねられて、彼女の知り合いの男は苦笑を浮かべて答えた。
「はは、すみません。いろいろと忙しくて」
「いやいや、いいんだよ。それより、いい物が入ったんだよ。今なら安くしとくよ」
「またまた、そううまい事を言って、私からお金をしぼりとるつもりなんじゃないですか?」
リリーティアは知り合いの商人にわざとらしく疑いの目を向けると、商人の男は慌てて抗議の声をあげた。
「ちょっとちょっと、それはひどい言い様だなぁ。あんさんだから、わしはいつも安値で売ろうと頑張ってるんだよ。今だって身を削る思いでだね-------」
それはもう大げさに思えるほどに、必死になって自分の苦労を訴えている。
「ははは、わかってますよ。いつも、ありがとうございます。本当に助かっていますから」
「まぁ、身を削るって言っても、わしが勝手に安くしてるだけだがね。気にしないでおくれよ。客が喜んでくれることが商人としての生きがいだからね」
そう話す商人の男。
商人としての生き方を誇りを持っていることがよく分かる言葉だった。
しかし、実際にその言葉には、そんな意味など含まれてはいなかった。
所詮、ただの言葉であり、ただ伝えるためだけの手段として用いられただけに過ぎない。
リリーティアはそれを知っている。
だがら、商人が言ったその言葉に対して、何も感じることはなかった。
そもそも、すべての会話に感情などないのだ。
この商人の男に限ったことではなく、彼女自身の言葉の中にも、それは含まれていない。
これまでの会話も、そして、これから交わされる会話も、そのすべてに感情というものは無意味なものでしかないのだ。
「で、どうだい?今ここで何か見ていくかい?」
「いえ、せっかくですが、また次の機会に。周りのみなさんを待たせるのもよくないでしょうし」
「ああ、まぁそうだな。それじゃあ、またあんさんの街に寄った時はよろしく頼むよ」
「はい、お待ちしています。その時はいつものようにお安くお願いしますね」
そう言って、リリーティアは悪戯な笑みを男に向けてみせた。
それも、その場の会話に合わせただけの、彼女がただ作った表情(もの)だというのは相手の商人にしか分からないだろう。
「ははは、やっぱりあんさんには敵わないねぇ。よっしゃ!いいもんそろえてくっから楽しみにしててくれよ」
「はい。楽しみにしています」
商人の男は頭を掻きながら快く頷くと、リリーティアは嬉しげに笑った。
そして、互いに別れの挨拶を交わすと、男は最後まで気さくな笑みを浮かべて去っていった。
彼女はしばらく、ダングレストに向かって進む集団の後ろ姿を見送った。
知り合いの商人との会話を終えた彼女は、少し離れたところにいるゴーシュとドロワットへと踵を返した。
その時の彼女は、思案顔でなにやら真剣に考えている様であった。
しかし、二人の前に戻った時には、すでにその表情はなく、いつもの彼女の表情に戻っていた。