第12話 弟子
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ゴーシュは浮かない顔で、目の前に広がる平原を見ていた。
そして、意を決したように真剣な表情になると、ぐっと手に力を込めて目を閉じた。
「燃え盛る艶やかなる焔」
彼女の足元には赤く輝く術式が浮かんだ。
その額にはわずかに汗が滲んでいる。
「イラプション!」
腕を振り上げ、術名を叫んだ。
地面から溶岩が噴出し、大地を赤く染める----------はずなのだが。
目の前に広がるのは、静寂に包まれた緑広がる大地だった。
「っ・・・・・・」
ゴーシュは苦い顔つきで緑貫く平原を凝視し、ぎゅっと両拳を握り締めた。
彼女の後ろには、心配げな面持ちの二人、リリーティアとドロワットの姿がある。
もう一度、彼女は目を閉じた。
「燃え盛る艶やかなる焔」
再び、彼女の足元には赤く輝く術式が浮かぶ。
「イラプション!」
術名を叫ぶゴーシュ。
しかし、やはり目の前に広がるのは、静寂に包まれた緑広がる大地だけで、魔術が出現することはなかった。
「どうして・・・・・・っ」
彼女の表情は悔しさに歪んでいた。
そんな彼女にドロワットは駆け寄り、リリーティアもその後に続いた。
「ゴーシュちゃん、大丈夫?」
「ゴーシュ、少し休んだ方がいいよ」
「・・・・・・・・・」
二人の言葉にも、ゴーシュは何も返すことなく、ただ前を見詰めていた。
その様子にリリーティアは音もなく小さく息を吐いた。
リリーティアがゴーシュとドロワットの師となってから、早三ヶ月。
彼女の指導のもと、二人は戦いの術を身に着けていっていた。
三ヶ月と言っても、月に数回程度でしか二人の元には行けないので、
今日の分を数えても、二人に指導したのはまだ数えるほどしか行えていなかった。
それでも、出会った頃に比べて、二人は着実に強くなっていた。
彼女は二人の成長を喜んでいたが、ただ一つ気がかりなことがあった。
それは、ゴーシュのことだ。
「いいゴーシュ?あなたは今、とても焦ってる。もちろん、焦るのもわかるよ。でも、それじゃあ、なかなか前には進めない。焦って歩いたら転びやすくなるように、今の状態で何かをやろうとしても、結局は思い通りにいかないんだ。だから、確実に前に進むために、ゆっくりやっていこう」
リリーティアはゴーシュの背に言葉をかける。
今、彼女は魔術がちゃんと発動できないことを深く悩んでいた。
会う度に、思いつめた表情で話を聞いているゴーシュが心配でならなかった。
「・・・休むわけにはいきません」
「でもゴーシュちゃん、朝からずっと休んでないわん。ちょっとでも休んだ方がいいよ」
そして、何よりも心配なのは無理をしていることだった。
今もこうして、休むこともせずに魔術を習得しようと躍起になっている。
そのせいか、少し顔色も悪いように見えた。
「私なら平気だ。それに、私はまだまだ努力が足りないんだ。だからドロワットみたいにうまくいかなないんだ、きっと」
まだ一つも魔術の発動に成功していないゴーシュと違い、ドロワットはすでに初級の魔術をうまく使いこなせていた。
理論を学んでいるときはよく分かっていない様子だったのだが、実際にやってみると、早い段階で魔術の発動を成功させた。
これにはリリーティアも驚きを隠せなかったが、エアルの流れを読むことに才があったようだ。
ここまでゴーシュが未だに魔術が使えないことに焦っている理由は、それをふまえて自分は遅れていると感じているからだった。
もっと努力をしないといけないのだと。
リリーティアは心配しげにゴーシュを見詰める、彼女の横に並んだ。
「あなたは魔術理論の覚えが何より早かったし、いつも私が言ったことを事細かく覚えてくれてる。今はうまく出来なくても、誰よりも努力しているあなたなら絶対に出来るようになる。だから、今はちゃんと休みなさい、ね?」
ゴーシュの顔を覗き込みながらそう言ったが、それでも、彼女は納得のいかない面持ちであった。
リリーティアが言うようにゴーシュは覚えが早かった。
ただ覚えがいいというわけでなく、人が何気なく言った些細なことさえもきちんと覚えているのだ。
だから、魔術の理論を覚えるのも一度言えばほとんど覚え、あとは実際に魔術を発動させるだけだったのだが、どうも魔術の発動がうまくできなかった。
逆に剣術など武術に関しては申し分なく、俊敏な動きで立ち回り、相手の動きをよく見ていた。
それはひとえに彼女はいつも努力を惜しまず、これまで頑張ってきた結果である。
だからこそ、魔術にしても、毎日のように努力しているゴーシュなら必ず出来るという確信がリリーティアの中にはあった。
リリーティアは、もう一度ゴーシュに休むように言おうと思ったその時、彼女はその視線を平原の遠くに向けた。
視線の先には、数十人の人影が数台の荷馬車と共に平原を歩いている姿があった。
その集団をよく見ると、屈強な体つきとその格好からギルドの人間を思われる者たちと、その中に数人の商人たちが混じっていた。
彼女はその集団を凝視すると、何に気付いたのかはっとした表情を浮かべ、ゴーシュとドロワットに視線を戻した。
「ごめん、ちょっと待ってて。すぐに戻るから」
そう言うないなや、彼女は足早にその集団の元へ向かって行った。
ゴーシュとドロワットは疑問符を浮かべながら、離れていく師の後ろ姿を見詰めていた。