第11話 師匠
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「大丈夫?どこか怪我はしてない?」
「・・・・・・・・・」
リリーティアは息をついて武器を鞘に仕舞うと、二人の少女に歩み寄った。
互いに肩を寄せ合い、しゃがみ込んでいる少女たち。
声をかけても二人は固まったままで、言葉もなかった。
魔物に襲われたことがよほど怖かったのだろうかと、彼女は心配した面持ちで少女の前に膝をつき、その顔を覗き込む。
「もう大丈夫だから、心配しないで」
その恐怖を少しでも和らげようと、彼女は二人の少女に優しく微笑みかけた。
それでも、二人は尚も固まったまま、じっと一点を見詰めている。
いよいよ心配になった彼女は二人の肩に手を伸ばそうとした、その時だ。
「弟子にしてほしいだむん!!」
「へ?」
黄緑髪の少女が唐突に言った言葉に、リリーティアは間の抜けた声を上げる。
どうして急にそんなことを言い出すのか理解できなかった。
しかも、見ず知らずの自分に対して、何を思ってそう言うのだろうか。
「な、何を言ってるんだ、ドロワット!」
「だって、この人すごいんだもん!一人であんなにたくさんの魔物やっつけたんだよ。それも一瞬で!それに魔術だって、こう、ドッカーンってすごかった!」
黄緑髪の少女は、頬を高揚させながら身振り手振りで息もつかずに話し、ひどく感情が高ぶっている。
少女のその様子に圧倒されて、彼女はただただ唖然として、それを見詰めることしかできなかった。
「だから、強ーいこの人の弟子になって、私らを鍛えてもらおうよん!」
「だ、だが、まったく素性も知らない人に・・・」
「私たちを助けてくれた人だよ。悪い人じゃないのは確かでしょ。お願いしようよ!」
どうもこの二人の少女は戦い方を教わりたいらしい。
黄緑髪の少女は、惑う赤髪の少女を必死に説得している。
赤髪の少女は見ず知らずの人物にそんなことを頼むのは気が引けるのと、少し警戒しているようだ。
といっても、それが当然だろう。
見ず知らずの、しかも会ったばかりの人に対して「弟子にしてほしい」なんて発言は、あまりにも向こう見ずすぎる。
それでも、黄緑髪の少女はどうしてもリリーティア教えてほしいと強く思った。
本当は赤髪の少女も、誰か自分たちに戦い方を教えてほしいという気持ちがあったが、その教えてくれる人が、突然現れた彼女でいいものなのがどうか悩んでいた。
「ゴーシュちゃんはイエガー様の役に立ちたくないの?!」
「そ、それは・・・!」
「(イエガー様?・・・それって、まさか。・・・いや、そんなはず・・・)」
リリーティアは内心動揺した。
少女が口にした名前----------イエガー。
その名前は彼女自身よく知る名前であり、今も深く関わっている人物であった。
さらに言えば、少し前までその人物のことを思い浮かべていた。
正確には、その人物の、遠い過去の姿であった時のことを。
彼女は、少し動揺したものの、結局は人違いだろうと考えた。
世界には同じ名前の人など何人といる。
偶然、自分のよく知る人と同じ名前だっただけで、それは不思議なことではないのだ。
それよりも気になったのは、目の前の少女は、なぜその人の為に戦い方を教わりたいのか、ということだ。
よく見ると二人の傍には、ふたつの剣があった。
少女たちのものなのだろうが、刃はボロボロでちゃんと手入れが行き届いていない。
魔物と戦うも何も、その刃では小枝一本もうまく切れることはできないだろう。
あまりにもその状態は酷いものだった。
「その為に、私らはもっと強くならないけないむん!強くなったら、イエガー様も私らを認めてくれるよ」
「・・・ああ、そうだな。私たちは強くならないといけない。イエガー様のために、強く」
お互いに真剣な表情で頷きあう二人の少女。
二人のやり取りを黙って見守っていたリリーティアは、そっと口を挟んだ。
「あの、一体どうして-------」
「お願いします!」
「!」
赤髪の少女が急に叫ぶと、少女たちは彼女に向かってその場できちっと正座した。
「どうか私たちを鍛えてくれませんか!どうしてもあの人の役に立ちたいんです!」
「もっと、もっと、もーっと強くなりたいのん!」
そして、二人は地面に手をつき、
「お願いします!」
「お願いしますむん!」
二人の少女は揃って頭を下げた。
地面に額がつくまで深々と。
彼女は二人のその様子に圧倒され、たじろいだ。
惑う瞳で、しばらく少女たちを見詰め、彼女は考え込んだ。
どう言葉を返したものか、全くわからない。
どうして自分に頼むのかと問えば、さっきの戦いを見てというだろうし、黄緑髪の少女が現にさっきそう言っていた。
なんの為にと問えば、その”イエガー様”という人の役に立つためだと言うのだろう。
そして、その為に強くならないといけないのだと、それがその人に認めてもらうためなのだと。
これまで二人が話してたことを聞いて大体の事情は掴めた。
おそらく、二人が魔物に襲われていたのも、すべてはその為に魔物と戦おうとしていた結果なのだろうと推測できた。
けれど、ただひとつわからないことがある。
それは、素性も知らない自分にそこまで頼み込むほど、彼女たちはどうして強くなることに固執しているのか。
そんなふたりの姿は少し理解し難いものがあった。
あなたたちは----------、
風が吹き渡った時、リリーティアは静かにその口を開いた。
「-------どうしてそんなに焦ってるの?」
「「え?」」
二人はその顔を上げた。
思ってもいなかった相手の言葉に、きょとんとしている。
「そこまでお願いするほど、二人にとってはその人の役にたちたいという想いはよくわかったよ。でも、会ったばかりで見ず知らずの私にお願いするのはどうしてかなって思って。その、二人が信頼できる人とか、そんなに焦らなくても、もっと人をよく見て決めても----------」
「お姉ちゃんは私らを助けてくれたむん!それだけで十分だと思うんだわん」
リリーティアの言葉を遮り、黄緑髪の少女は体を乗り出してきっぱりと言う。
言葉に詰まった。
私はそんな人間じゃないと。
そんな信頼に足るほどの器ではないのだと。
彼女はそう話そうと思った時、赤髪の少女が続けて言った。
「初めから信用できないような人が、たったひとりで危険の中に飛び込んで、赤の他人を助けてくれるわけがありません」
純真無垢な瞳、その心。
リリーティアは己の心に潜む冷たい闇を実感した。
あまりにも、自分の心と少女のその純真な心は天と地以上の差がある。
それよりも比べるにも値しないだろう。
やはり、彼女たちの頼みは断ろう。
真剣にお願いする彼女たちに気が引けながらも、彼女はその口を開きかけた。
「お願いしますっ!」「お願いしますむんっ!」
彼女たちは、さっきよりも声を張り上げ、再び深く頭を下げた。
また、あたりは沈黙に包まれる。
彼女たちの真剣な想いを無下にはできず、結局この場ですぐに断ることは出来なかった。
とりあえず二人に詳しい話を聞こうと、リリーティアは話を切り出すことにしたのだった。