第11話 師匠
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陽は高く上りきり、少しずつ下り始めた。
リリーティアはまだ平原の中を歩いていたが、.魔物と遭遇することもなかったため、思っていた予定よりも早く目的地に着きそうだった。
この調子だと夕刻前にはトリム港につくだろう。
そう思った矢先のことだった。
「うわぁああ、ど、どうしよ~!!」
「お、お、おち、落ち着けっ!!」
二人の声。
遠くから聞こえた。
そして、もうひとつ聞こえたのは、
「グシャァア!!」
その咆哮を耳にするやいなや、リリーティアは駆け出した。
被っていた頭巾(フード)が取れたのも気にせずに一直線に駆け出す。
人の慌て叫ぶ声と魔物の咆哮。
それは、誰かが魔物に襲われているということだ。
彼女は全速力で走りに走った。
そして、少し小高い丘を駆け登った先に小さな赤色と黄緑色が見えた。
その赤色と黄緑色を追う影が五体----------クラブマンだった。
甲殻類の大きな体の魔物で、手は大きなハサミになっており、とても危険な魔物だ。
彼女は一瞬も足を緩めることなく、力の限りに丘を駆け下りた。
そのまま着ていた魔導服(ローブ)を脱ぎ捨てると、《レウィスアルマ》を両手に引き抜いた。
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「うわぁ~ん!やっぱり二人だけじゃ無理だったよ~っ!」
「まだ諦めるな!ぜったい私たちで倒してやるんだ!」
追いかけてくる魔物から必死で逃げる二人の少女。
黄緑色の髪をした少女は半分泣きべそをかき、赤色の髪をした少女は泣きはしていないものの、恐怖にその目は怯えているようだ。
二人は息を切らしながら、自分たちより遥かに大きい魔物たちから必死に逃げる。
しかし、そろそろ二人の足にも限界が近づいていた。
「きゃ!」
「ドロワット!」
黄緑髪の少女は足がもつれて、勢いよく転んだ。
それを見た赤髪の少女は走っていた足を止め、急いで駆け戻った。
「いたいぬ~」
「しっかしろ、このままじゃ-------」
その時、二人に黒く大きな影が覆った。
「ゴーシュちゃん!!」
「!!」
気づくと、二人のすぐ前に魔物が迫っていた。
少女たちは互いの腕をぎゅっと掴んだ。
恐怖におののく少女に向かって、魔物は奇声を上げながら、大きなハサミを振り上げる。
----------”死”。
それが二人の脳裏によぎり、とっさに力強く目を瞑った。
二人に広がるのは闇。
「アーラウェンティ!」
「ッグシャア!」
その闇の外から聞こえた声。
凄まじい音。
そして、魔物の苦痛な奇声。
肌に感じる風。
それは妙に優しくあたたかみのある風に感じた。
柔らかな風を感じながら、二人はゆっくりと闇から光を受け入れた。
そして、その光の中にいたのは----------深紅だった。
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少女たちの前に立ったリリーティアは、《レウィスアルマ》を一振りした。
すると、その先端からエアルで構築した刃が現れる。
それは、羽のようなに形取り、仄かに赤く光っていた。
風の魔術でその場にうずくまったクラブマンはすぐに起き上がり、怒り狂った喚声を上げると、周りにいたほかのクラブマンもそれに倣うように叫んだ。
彼女はぐっと足踏み込むと、五体のクラブマンへと駆け出した。
クラブマンは大きなハサミを振り下ろしてき、彼女はそれを横に避けると、《レウィスアルマ》を下から上に振り上げた。
ハサミになっている腕が地面に落ちるが、すぐにもう片方のハサミを突き出し、彼女を切り裂こうと反撃する。
それでも、彼女は軽々と上へと飛び上がり、落ちる勢いに任せて周りにいたもう一体のクラブマンへと攻撃した。
「ルベウスイレ!」
そして、《レウィスアルマ》を巧みに回しながら、数体のクラブマンに火炎弾を放つ。
弱点である炎を浴び、苦痛に体を上げて叫ぶ魔物たち。
彼女はその隙を見逃さなかった。
地面と魔物の体との間に隙間ができ、そこに潜り込むと、突き上げるようにして攻撃を与えた。
体ごと突き上げられたクラブマンは、そのままひっくり返り、身動きがとれなくなった。
一度ひっくり返ると、起き上がるまでに時間がかかるのがこの魔物の特徴だ。
リリーティアはそれを利用し、他のクラブマンも同様に攻撃を与え隙をつくり、動きを封じていった。
それはものの数秒。
五体もいるクラブマンをすべて身動きを取れなくするのに、それは十秒もかからなかった。
それだけ、彼女の動きは俊敏で無駄がなく、敵の動きをよく見て戦っていた。
そんな彼女の姿を呆然と見詰める二人の少女。
瞬きすることも忘れ、彼女の戦っている様子をじっと見詰めていた。
それは、踊り子の舞に魅せられた観客のように、少女たちは一瞬も彼女から目を離さなかった。
5体のクラブマンはひっくり返ったまま、もがくように手足をじたばたと動かす。
リリーティアは目を閉じ、静かに詠唱を始めた。
「光芒(こうぼう)たる一閃 煉獄(れんごく)の炎(えん)となり 去り行く者を天上へ導かん」
足元には赤い術式。
彼女は《レウィスアルマ》を回しながら、その周りに術式を描き出す。
その時、最初にひっくり返されたクラブマンが起き上がった.。
「フラグランティア!」
それとほぼ同時に、彼女は魔術を発動させた。
広範囲にわたり炎柱が現れ、すべてのクラブマンを囲む。
炎柱は内側に向かって膨張するように眩い光を放つと、音を立てて爆発した。
激しい音の後、辺りは静けさに包まれた。
そして、穏やかな風が吹き渡る。
魔術を使った名残でか、辺りに吹く風はいつもより少し暖かかった。
二人の少女は、暖かな風にたなびく深紅の後ろ姿を、瞳を輝かせながらじっと見詰めていた。