第10話 光輝
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「そうそう、リリィちゃん」
名前を呼ばれ、はっとするリリーティア。
感慨にふけりすぎていた彼女は、一瞬反応が遅れた。
急いで彼の方へと振り向いた。
「渡したいものがあるんだわ」
レイヴンは彼女に歩み寄る。
内心、この時に彼の心の内は不安に揺れていた。
「渡したいもの、ですか?」
そんな彼の心情を知らないリリーティアは、不思議な顔をして彼を見る。
彼女の前に立ったレイヴンは今更ながらに気づいた。
それは、彼女と出会った頃は、今より少し視線を下のほうへ向けないと彼女とは視線を合わせられなかったが、あれから幾度となく年月が経ち、あの頃と比べると、今は僅かに視線を下ろすだけで彼女に視線を合わせられた。
彼女の背が少し伸びていたことに、長くて短い時間(とき)を感じ、そして、彼女と出会った頃を思い出していた自分に少しの戸惑いを感じながら、彼は口を開いた。
「気に入るかどうかはわからないけど・・・」
そう言うと、彼は紫の羽織りの中を探り、そこから何かを取り出した。
太陽の光で、一瞬それが煌く。
「それは・・・、髪飾り、ですか?」
彼の手に乗せられていたのは、彼の掌(てのひら)より少し小ぶりの髪飾りだった。
薄桃色の石とそれよりも小さな深紅の石がはめ込まれた髪飾り。
そこには2本の白い羽が付けられて、とても小さなふたつの花飾りが揺れて輝いている。
よく見ると、薄桃色の石には1輪の花の絵が彫られてあり、
それは、どこかハルルの樹に咲く、ルルリエの花を思い起こさせるような、とても愛らしい作りだった。
リリーティアは一目でその髪飾りに惹きこまれた。
「ダングレストにある店の前を何気なく通ってたら、何故かふとこれに目に留まったのよ。んで、リリィちゃんらしい・・・というか、どうかな~と思ったんだけども・・・・・・」
どこか歯切れ悪く話す彼は、照れたように、また少し不安げに小さく笑っている。
彼女は言葉もなく、そんな彼の顔と髪飾りを何度か見返した。
「ま、俺様の気まぐれのようなもんだと思ってくれればいいから」
リリーティアには思ってもいないことだったので驚きを隠せなかった。
この景色を見せに連れてきてくれたこと事態、彼女には十分すぎるほど嬉しいことだった。
その上、自分が奪ってしまったのだと、もう見られないのかもしれないと思っていた彼の笑顔を、こうして見られたのだ。
それが、まさかそれ以上のこと、彼から贈り物を貰うなんてことは夢にも思わなかった。
髪飾りという彼からの贈り物に、彼女は心の奥底から嬉しさが込み上げ、胸が一杯になる。
驚きと、嬉しさ、様々な感情が一気に溢れ、彼に対する言葉がなかなか出てこなかった。
じっと髪飾りを見詰めたまま何も言わない彼女に、いよいよ不安になったレイヴンは、それを誤魔化すように軽い調子で、それでいて微かに落胆した様子が見え隠れした苦笑を浮かべながら、彼は言った。
「はは。まぁ、急に渡されても困るって----------」
「そんなことありません!」
最後まで言い終わらないうちに、リリーティアは顔を上げて叫んだ。
突然の声に彼は目を丸くする。
「あ、・・・す、すみません。急に大きな声を、上げてしまって・・・」
思っていた以上に声が出てしまっていたことに、彼女自身が一番驚きを隠せなかった。
恥ずかしさの余り、微かに頬を赤く染めながら慌てて謝ると、彼女は俯き加減で言葉を紡いだ。
「髪飾り、とても嬉しいです。その、あまりに嬉しかったものですから、なかなか言葉が出なかったんです」
顔を上げた彼女の表情は未だ少し照れながらも微笑んでいた。
その言葉通り、とても嬉しそうに。
リリーティアのその言葉と笑みに、思わずレイヴンは呆気に取られたが、すぐにそこには安堵の笑みを浮かべた。
彼は迷いなくその髪飾りを買ったものの、実際に彼女に渡すかどうかは、渡す直前まで迷っていた。
どちらかというと、渡さないでおこうかという考えのほうが強かったが、この場所の絶景を前に、子どものように声を上げで喜んでくれた彼女の姿を見て、彼の中で渡そうという思いが強くなったのだ。
「ありがとうございます」
そして、リリーティアはレイヴンから髪飾りを受け取った。
朝日に照らされ、髪飾りは彼女の手の中で美しく輝く。
「・・・かわいい」
彼女は、絶景を目の当たりにした時のように、無意識にそう呟いた。
美しい装飾、優しい色合い、その愛らしい作りに、今一度、彼女はその髪飾りに魅入った。
その様子から、誰がどう見てもその髪飾りが彼女の好みに合っていたのだということは分かるだろう。
思っていた以上に彼女が気に入ってくれたことに、レイヴンは少し得意げな気分になった。
「大切にします。とても大切に・・・」
彼に対して言った言葉のようでありながら、自分自身にも言っているような、そんな囁く声だった。
瞳をそっと閉じ、胸の前でぎゅっと強く、それでいて優しく、髪飾りを両手で包み込みながら彼女は言った。
それは、慈しむように、心から大切に、大切に。
そして、彼女は顔を上げると、レイヴンに満面の笑みを向けた。
「ありがとうございます、レイヴンさん!」
その笑顔は太陽の光に照らされて、髪飾りよりもさらに美しく、綺麗な輝きを放っていた。
彼女が見せたそのあどけない笑顔に、彼は一瞬、胸の高鳴りを覚えた。
そんな自分に内心戸惑いながらも、単なる気のせいだろうと、彼はその高鳴りも戸惑いもすべて振り払い、
「どーいたしまして♪」
陽気な調子で、彼女に笑顔を浮かべてみせた。
仮面でもない、それは、心からの彼の笑顔だった。
朝日に煌く絶景。
その中に、ふたつの笑顔.。
----------あどけない笑顔とおどけた笑顔。
その笑顔は、絶景よりも美しく、朝日よりも光り輝いていた。
第10話 光輝 -終-