第10話 光輝
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「レイヴンさん、この先に何があるんですか?」
「それは行ってみてからのお楽しみよ」
二人は草木が生い茂る、少しばかり急な斜面の上を歩いていた。
レイヴンが先を歩き、その後をリリーティアがついていく。
彼女は額に汗を滲ませながら、前を歩く彼の背を訝しげに見詰めていた。
そうして、彼の背を見ながら、彼女は少し前のことを思い返した。
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ノール港を発って数時間。
空が少し明るみかけてきた頃、エフミドの丘に到着し、一息ついていたときだった。
『ねぇリリィちゃん、ちょっと寄り道して行かない?』
『寄り道、ですか?』
『そう。是非とも見てもらいたいものがあるんだわ』
戸惑いの表情を浮かべて何も返さないリリーティアに、レイヴンはどこか残念そうな表情を浮かべた。
『あ、そんな時間ない?』
『あ、いえ。大丈夫ですよ』
実際、時間も何も、いつまでに帝都に戻らなければならないという指示は受けてはいない。
ある程度の日数までに、帝都に戻れば問題はなかった上に、リリーティア自身が予想していた時間より、早く事が進んでいたため、だいぶ余裕があるなと思っていたほどだ。
『見てもらいたいものって何ですか?』
彼女の言葉にレイヴンはただ笑ってみせるだけだった。
そこにはさっきの残念そうな表情は消え、彼は少し嬉しそうにも見えた。
彼女はそんな彼の姿に、表情がよく変わるなと感慨にひたった。
本来、それは普通のことなのだが、あの”戦争”以来、それが普通ではなかったのだからそう思わずにはいられなかった。
『そんじゃ、行きますか』
膝に手をつきながら立ち上がるレイヴンに、彼女は困惑した表情で見上げた。
そんな彼女に彼は、
『ま、俺様にだまされたと思って、ついてきてちょーだい♪』
楽しげな調子でそう言ったのだった。
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こうして彼に連れられ、ここまで丘を登ってきたのだが----------。
一向に辿り着く気配もなく、一体どこまで登るのかと少しだけ不安が募った。
しかも、さっきから歩いているところは人が通った跡など見られない獣道で、ここまでくるのに何度か魔物とも遭遇した。
戦いに慣れているリリーティアでも、慣れない道と相まって、多少の疲れを感じ始めた。
「あの、どこまで行くのですか?」
「あと少しだからさ。もうちょっと頑張ってよ」
その会話のすぐ後になって、狭い獣道から開けた場所に出た。
開けた場所を歩きながら、リリーティアは音もなく小さく息を吐くと、さっきよりだいぶ歩きやすくなった分、あたりを見回す余裕ができた。
ふと空を見上げてみると、木々の隙間から明けの明星が輝いているのが見える。
もう少しで夜も明けそうだ。
「やっと着いた~。リリィちゃん、ここからは先に行って」
彼が示す先には、再び狭い上り道が続いていた。
リリーティアは訝しげにその道を見詰めると、そのままレイヴンへと視線を移した。
戸惑う彼女に、行ってみたら分かるからと彼は言う。
彼女は頷いて、その狭い道を進んでいった。
後ろにレイヴンの気配を感じながら、一歩一歩前へと進み歩いていく。
そして、それほど経たずして、目の前の視界が開けた。
瞬間、潮が香る風が頬を優しく撫で、
「!?」
リリーティアは思わずその足を止めた。
瞬きも忘れ、その場に佇んでいる。
口を閉じるのも忘れているその姿は、彼女にしては珍しい姿であった。
そんな彼女の目を奪って離さない、目の前に広がるもの。
それは、----------広大な青海原。
リリーティア自身、海を見るのは初めてではないし、しばらく見ていないというわけでもない。
彼女にとっては珍しくもない海の景色。
けれど、彼女は目の前の海に釘付けになっている。
それは、ここから眺める光景だからこそ、目の前に広がる景色に驚きを隠せなかった。
海に面した側は断崖絶壁で、草木に覆われてもなく、遮るものが何もない。
高い崖の上から、あたり一面に海が見渡せた。
まさにそこには、絶景と言って相応しい壮観な景色が広がっていたのであった。