第10話 光輝
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薄暗い廊下。
静寂漂う中に一つの影。
深く被った漆黒の頭巾帽(フード)。
黒い影は、両開きの扉の前で佇んでいた。
影は扉のドアノブに手をかけた。
音もなくその扉を開くと、部屋の様子をうかがう。
広い部屋。
まず、目に付くのは壁にかけられた大きな絵画。
その下に備え付けられた棚は煌びやかに装飾され、月の僅かな光だけでもそれは輝いて見える。
複雑に装飾された椅子、机。
部屋にあるものすべてが豪華絢爛(ごうかけんらん)たる調度品ばかりである。
そんな部屋の中に、それこそ煌びやかな寝台が一つ。
寝台の上には、大きな黒いかたまりがある。
それを視界に収めると、影はさっと中に入り、静かに扉を閉めた。
仄かに照らす月明かりを頼りに、ゆっくりとその黒いかたまりに近づいていく。
近づくにつれて、その黒いかたまりは、微かに規則正しく上下に動いているのが分かった。
影は寝台の前で一度立ち止まり、じっと黒のかたまりを見下ろした。
しばらくそうした後、羽織っている漆黒の外衣(ローブ)から銀色に鈍く輝くものが現れた。
それは、短剣だった。
影はその寝台の上に片膝をついた。
寝台から僅かに音がたったが、影は気にもとめずにそのままの上に乗った。
その時、僅かに黒いかたまりから小さな声が漏れた。
黒いかたまりが大きく動き出す。
「っ!!なん-----ぐっ!?」
黒いかたまりは苦しげに声を詰まらせた。
「お前に聞きたいことはただひとつ」
その声に、黒いかたまりは身震いする。
大きく見開く目。
震える口。
その首には鈍く光る刃。
恐怖に怯える黒いかたまり、その男。
それは、カプワ・ノールの現執政官 ウォガル だった。
「例の魔核(コア)、誰から手に入れた?」
感情もこもっていない、重く低い声。
この状況に混乱し、ウォガルは影が発した言葉が一切頭に入っていなかった。
恐怖に額からは汗がにじみ、自分を見下ろす黒い影を、目がはち切れんばかりに見ていた。
「もう一度問う。-------例の魔核(コア)は誰から手に入れた?」
「お・・・おま・・・え、は・・・何者、だ・・・」
月の光が僅かにしか差し込まないこの部屋では、黒い影の正体を窺い知ることは難しかった。
本当に単なる黒い人影にしか見えずに、得体の知れない人物を前にウォガルは一層その身を恐怖に震わせた。
「これで最後だ。-------例の魔核(コア))、誰から手に入れた?」
「な・・・何の、ことだ」
なかなか答えないウォガルに、影はさらに彼の首に短剣を突きつけた。
男は恐怖におののいた甲高い声を上げる。
「-------言え」
その重く響く声だけでは、相手が男か女かさえも分からなかった。
それほど、感情がこもってもいない、人間味のない声だった。
「ぐ、う・・・ま、待て!!・・・か、金、金ならやる!お前も雇われた身だろう!いくらだ!いくら積まれた!それ以上を出してやる!!」
「・・・・・・・・・・・・」
ウォガルの言葉のあと、黒い影はしばらく黙したまま、身動き一つ取らない。
それを、肯定の意だと解釈した彼は助かると安堵してか、僅かに口元に笑みを浮かべた。
だが、その解釈は大きな間違いだった。
「ど、どうだ、いくら欲しい!い、言ってみろ!いくらでも出してやるぞ!」
彼は叫びに近い声で影に言った。
それでも影は黙したままで、何の反応も返してこない。、
長い間、その沈黙は続いたように思えた。
「-------買えるものか」
「へ?」
瞬間、ウォガルの目の前が真っ暗になる。
そして、声も上げられないほどの激しい痛みが体中を襲った。
それも一瞬のことで、自分の身に何が起きたのか理解したのもつかの間に、彼の意識は永遠の闇に沈んだ。
静寂が部屋を包んだ。
黒い影は黒いかたまりから、銀色に光る刃を離し一振りすると、漆黒(ローブ)の中に仕舞った。
そして、ゆっくりと寝台から降りる。
寝台の上には小さな山の黒いかたまりがあるだけ。
もうそれは、規則正しく上下に動くこともなく、物言わぬ塊となった。
長い間、黒い影は月光が差し込む寝台の前で佇んでいた。
もう一つの黒い影が、その部屋の前に佇んでいるのも気づかないまま----------。