第9話 未来
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リリーティアは自分の居室にいた。
部屋の窓を開け放ち、眼下に広がる帝都を眺める。
今はもう見慣れた景色を見ながら、広場で懸命に剣を振っていたルブランのことを考えていた。
彼の揺るぎない忠誠心と未来(まえ)を見る濁りのない目。
それを感じる度、また、それを見る度に、彼に対して感じる罪悪感。
そもそもシュヴァーン隊の結成は実に安直的な考えのもとに結成された。
騎士団の密命で単独行動の多い人物に、強力な部隊をつけるのは効率的ではない。
つくられたのは、隊と呼ぶには小規模で、しかも予め有為な人材は省かれた部隊だった。
隊長主席が部隊を持たないのは不自然なため、ただそれだけのために集められた騎士たち。
それがシュヴァーン隊の選考基準だった。
それと知らずに、シュヴァーン隊の隊員はシュヴァーン隊に配属されたことを何より名誉なことだと思っている。
特に生真面目で何事にも熱心に挑むルブランは、誰よりもシュヴァーンを尊敬し、隊を率いることに責任と誇りを持っていた。
シュヴァーン隊が結成された理由は、そんな彼らの想いを踏みにじっているといってもいいだろう。
リリーティアは窓際に手をつき、目を閉じて頭(こうべ)を垂れた。
穏やかな風が彼女の髪に流れる。
彼女にはもうひとつ、罪の意識を感じさせることがあった。
それは、ルブランはシュヴァーンだけでなく、隊長主席特別補佐であるリリーティア自身にもシュヴァーン同様に尊敬の思いで接してくれているところだ。
ルブランだけでなく、シュヴァーン隊の隊員たちが全員がそう接してくれている。
シュヴァーンはギルドユニオンでの生活があるので、隊の面倒を見ることは困難なのは当然であった。
だがらこそ、城で暮らす彼女はアレクセイの密命があるとしても、シュヴァーン隊の補佐官として出来る範囲で隊の指揮を執ろうと努めた。
常務の状況把握、問題改善、また時として常務以外の任務に自ら指揮を執ることもあった。
だが、やはり今までを総合すれば、そのほとんどはルブランに任せっきりになっているのが現状だ。
そのため、ルブランをはじめ、シュヴァーン隊の隊員たちにはそのことで迷惑をかけることはあっても、彼女自身、彼らに何か特別なことをしているわけでなかった。
おそらく彼らは、英雄である隊長主席の補佐をしているというこの肩書きだけに、ただ偶像を見ているに過ぎないのだろう。
だから、自分のような者に尊敬の眼差しを向けられるのはいつまで経っても慣れず、寧ろ罪悪感が深くなる一方だった。
頭を垂れたまま閉じた瞳をゆっくりと開くと、彼女は窓際についた自分の両の手を視界に映す。
もしも、自分が行っている行為を知ったら、彼らは自分をどう思うだろうか。
自分に対する彼らの想いはどう変わるのだろうか。
時折そんなことを考える。
だが結局、今考えなくてもその答えはいずれ知ることになるだろう。
私が理想のためにやってきた行為はいつかは晒されることになる。
そんな気がしていた。
その時、
私はどんな顔で、どんな思いで立っているのだろうか。
彼は、彼らはどうなっているのだろうか。
あの人はどこまで変わっているのだろうか。
きっとそのすべても知ることになるのだろう。
この未来(さき)の末に、いつか。
リリーティアはそこまで考えに耽って、小さく身震いした。
知りたいという思いよりも、遥かに勝る恐ろしいという気持ち。
彼女は左の掌を見詰めると、再び目を閉じた。
目を閉じた闇の中で、彼女は未来(さき)にある答えを知る恐怖を振り払った。
そして、今のことをただ考えた。
ゆっくりと目を開くと、手を握り締めたまま彼女は再び眼下に広がる帝都を眺めた。
太陽の光が街を燦々と輝き照らしている。
この<帝国>の未来は、
今、目の前にある太陽に照らされた帝都のように、光に輝いているのか。
それとも、自分の今の心情のように黒に沈み、闇に覆われているのか。
その答えは、今は誰にもわからない。
でも、ただひとつだけ、はっきりしている未来がある。
それは----------、
リリーティアは強く左手を握り締めた。
----------この掌の中に広がる未来は、朱(あか)に覆われるだろうということ。
第9話 未来 -終-