第1話 背中
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重く垂れ込む曇天の空。
後期エリカズム様式構築の建物がつらなる大きな街。
街の特徴でもある丸い屋根は皇帝ヘリオルス四世が考案したルリアン式といわれ、古き趣きを醸し出している。
そんな歴史を感じさせる街の中を、この街の住民であるひとり男に案内されながら歩くリリーティアたちの姿があった。
リリーティアは以前、ペルレストの街が壊滅した事態を追究するために一度だけこの街に訪れたことがある。
<帝国>やハルルの街があるマイオキア・ペイオキア・イリキアの大陸ではなく、その大陸から海を渡った先にあるトルビキア大陸の、その東に位置する場所に古き都市 カルボクラム があり、一行はそこを訪れていた。
ここを訪れる前、この大陸に渡るために立ち寄った港の町でも当然のように英雄の名は知れ渡っていた。
その港町ノールで、外交儀礼のために執政官に会いに行くも多忙だという理由で面会を拒否され、そして、このカルボクラムでも執政官とは会えず、代理人にも拒否された。
それどころか館にさえも入れてもらえない始末で、仕方なく一行は住民の案内で宿をとることにしたのだった。
街を見て回っていたリリーティアは、古い街並みと昔の風習が今も息づくこの街になら何かしら目ぼしい情報があるかもしれないと考え、単独に行動を起こした。
この街に保管されている書物を、特に古いものは念入りに目を通し、少しでも役に立つ情報を収集する。
それは、この〈騎士の巡礼〉のもうひとつの目的であった。
何か目ぼしい情報や資料があれば回収、報告するようにとアレクセイから言われていた。
それもこれも、<帝国>を変えるためであり、〈人魔戦争〉の”
〈人魔戦争〉の”敵”。
それは、結界に守られた街の壊滅させ、大勢の<帝国>騎士の命を奪った。
あまりにも多大な犠牲を払ってしまったが故に、この出来事の加害者である”敵”は絶対に放置することはできなかった。
ヘルメスが遺してくれた記録によってアレクセイは”敵”の何たるかを知った。
そして、リリーティアもそれを知っている。
それを知ったとき、思わず彼女は身を震わせた。
あまりにもその”敵”は強大すぎた。
そして、それは個ではなく、複数。
明らかに人間の身だけではどうこうできる問題ではなかったのだ。
そして、彼の記録から知らされたことはそれだけではなかった。
そこには彼女が求めていた真相の手掛かりとなることが書かれていたのだ。
彼女が追い求めていた真相。
それは、ペルレスト、エルカパルゼ、ファリハイドの壊滅の理由。
その求めていた真相が、彼の記録をもとにして導き出すことができた。
それは、知りたかった真実。
けれど、信じたくない真実だった。
けれど、導き出されたとはいえ、
つまりは、導き出されたそれが真実とは限らないということ。
所詮、記録から得た手掛かりから推測した、ただの仮定にしかすぎないのだ。
確かな真相を知るためには、実際に”敵”の口から聞くしかない。
しかし、彼女の中ではすでに確信に近いものを持っていた。
そのことが彼女を深く追い詰めてしまっていた。
それでも彼女は立ち止まることはしなかった。
〈人魔戦争〉は終わっていない。
また、いつ始まるか分からないのだ。
この世界にその”敵”がいる以上は。
だからこそ、そのための
その強大な力を防ぐための強大な
そのためにも彼女は今、カルボクラムの中を隅から隅まで調べ歩き、情報や資料を掻き集めていく。
それは傍から見れば、どこか必死で、焦っているようにも見えた。
彼女は自分で気付いていなかった。
”敵”に対する恐怖。
真実に対する恐怖。
そのふたつの恐怖心が反動となって、自身を突き動かしているのだということを。
そう、今の彼女は、あまりにもその身に様々な”怖れ”を抱え込みすぎているのだ。
彼女自身はそれに気づかず、いや、無意識にそれを押さえ込んで、ただひたすら前に進んでいた。