第8話 責
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帝都ザーフィアスが見えてきた。
リリーティアはひとり、草原が貫く街道を足早に歩いている。
照りつける太陽の光に深紅の頭巾(フード)を深く被り直し、遠くにある帝都を見ながら路を急ぐ。
ブラックホープ号での実験から数ヶ月が経ち、結局失敗に終わった〈満月の子〉人造計画。
それでも、アレクセイが考え出す様々な計画は留まることを知らず、理想のための準備は着々と進んでいた。
しかし、思わぬところである知らせを受けた。
リリーティアはその対処のためにアレクセイと共に一昨日の朝早く帝都を出ていた。
そんな中、また新たな事態が起きた。
その問題も急ぎ阻止しなければならず、仕方なく先の問題はアレクセイとその情報を知らせてくれたある人物にすべてを任せることにした。
彼女はその新たな障害の芽を摘み取るために、今こうして帝都の路を急いでいたのである。
「(障害が動く前に、・・・早く)」
足早に歩く彼女の表情は、どこか焦っているように見えた。
額には僅かに汗がにじみ、呼吸も少し乱れている。
それを見れば、長い道のりを休みも取らずに進んできたのだということが分かった。
「?」
突然、彼女は急いでいた足を止めた。
草原が貫く遥か先から微かに気配を感じたのだ。
その気配の先へと目を凝らすと、ここからでは遠くてよく見えないが、確かに何かがいるのが分かった。
それは、人影であった。
リリーティアは出来るだけ気配を消しながら近づいていった。
草木に身を潜めながらゆっくりと進み、木の陰に隠れると、そっと覗き込むように窺い見る。
「(あれは赤眼!・・・なぜこんなところに)
そこには数年前、以前の騎士団本部に侵入してきた武器商人ギルドでもあり暗殺をも請け負っている、赤眼がいた。
数は5人、いや、その他にもいた。
赤眼たちに捕らえられている人物がひとり。
「触るな!!」
「(シュヴァーン隊長!?)」
凄みの効いた怒号があたりに響き、その人物が誰なのかはっきりと分かった。
彼を確認するやいなや彼女は武器に手を伸ばした。
そして、駆け出そうと一歩踏み出した時だ。
「?」
何かが光った。
それは一度消え、そしてすぐにまた光り出す。
次の瞬間、シュヴァーンの全身から光がほとばしり、それは渦を巻きながら広がった。
「っ!!」
リリーティアはぞっとした。
圧倒的な力の輻射(ふくしゃ)。
破壊的な力の渦動。
その光からは、今まで感じたことがない莫大な力を感じた。
眩い光にシュヴァーンの様子は見えなかったが、彼の周りにいた赤眼たちが光の渦に吹き飛ばされ宙を舞うのが見えた。
光の渦はほんの数秒で終わったが、いったい何が起こったというのか。
目の前の起きた出来事に目を瞠り、彼女はすぐにはっとした。
圧倒的な力の光。
魔術のようで魔術ではない力の光。
シュヴァーンからほとばしる光。
「(大変!!)」
その光の正体が心臓魔導器(ガディスブラスティア)のものだと、彼女はその光の意味を理解した。
心臓魔導器(ガディスブラスティア)から膨大な力を放出したということは、彼の生命力をも大きく消費したということになる。
それは、彼の命が危険だということを意味していた。
彼女は急いでシュヴァーンの元へと駆け出した。
だが、すぐにその動きを止めた。
「っ・・・・・・」
彼女の目が僅かに見開いたと思ったのもつかの間に、たちまちその目は据わり、ある男を瞳の中に捉えた。
シュヴァーンの前で狼狽えている男。
それは、こんなところで出会うような男ではないはずだった。
男はその場に佇み、がっくりと膝を突いているシュヴァーンを見下ろしている。
この時すでに、リリーティアの心の中には、黒い感情が激しく渦巻いていた。
そして、彼女は静かに武器を引き抜く。
それは、いつも愛用している武器ではなく----------短剣だった。