第7話 人形
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リリーティアは城にある研究私室にいた。
室内は実験器具やら古い書物、様々な図面や字で埋め尽くされた書類が散らかっている。
その中で彼女は椅子に腰掛け、一枚の紙を見つめていた。
冒頭に書かれてある一節を声に出して読んだ。
「”一昨日未明、古き都市カルボクラムが巨大地震により壊滅”」
それは本日付けに、<帝国>から市民へと公示された内容文だった。
この公示内容は事実のようで、真実ではない。
カルボクラムが崩壊したのは事実。
けれど、ひとつだけ違っていた。
それは、壊滅した原因に関して。
カルボクラムの壊滅は巨大地震が原因と書いてあるが間違いなくそれは”嘘”だった。
リリーティアは視線を外すと、目の前に散らばる書類を見た。
それも、びっしりと彼女の字で文字が綴られてあった。
その中の一節に、彼女は焦点を合わせた。
そこに記されてあるのは、
”満月の子人造計画”
〈満月の子〉とは、魔導器(ブラスティア)を使わずともエアルを制御でき、術を使える”力”を持っている者のことだ。
普通ならば、魔導器(ブラスティア)を所持していなければ、魔術が使えないのはもちろんのこと、魔物と戦うことになれば大変な危険を伴う。
〈満月の子〉は千年もの前に現れたとされ、現在では皇族がその子孫にあたる。
しかし、その末裔たちも今となっては昔のように〈満月の子〉としての力はほとんど持っていなかった。
それでも、その力がアレクセイには必要だった。
寄せ集めた文献からこの世界の中心部、深い海の底にザウデ不落宮という遺跡が存在することを知った。
所々のその記録には穴があったが、その文献を解読していった末に、アレクセイはそのザウデというのは巨大な兵装魔導器(ホブローブラスティア)であると考えたのである。
彼女もその文献の内容からしてその考えに至っていたが、理想のためには、果たしてその巨大な兵装魔導器(ホブローブラスティア)を復活させるべきなのか、よく分からなかった
けれど彼は、<帝国>を変えるためには、そして、強大な”敵”から<帝国>を守るためには必要だと考えた。
確かに強大な”敵”から守るためには、必要な力なのかもしれない。
自分たち人間が、あの強大な”敵”と対抗するには想像以上の力が必要だろう。
それは彼女もわかっている。
砂漠で息絶えたあの
それでも、彼女は不安が大きかった。
あまりに危険なような気がした。
それでも、彼はザウデ不落宮の存在を知ってから、そのことばかりに固執していた。
そして、そのザウデ不落宮の鍵となるものが宙の戒典(デインノモス)だということだった。
宙の戒典(デインノモス)は代々皇室に受け継がれている宝剣である。
だが、それも今はあの〈人魔戦争〉の後、すぐに行方知れずとなっていた。
そこでアレクセイは宙の戒典(デインノモス)の代用として〈満月の子〉の力に着目したのだ。
より強い〈満月の子〉の力を欲していた彼は、〈満月の子〉の力を人為的につくれないかと考えた。
自在無限にその力が得られればと。
そのために、彼はまず、〈満月の子〉の末裔である皇族の者たちではなく、一般の市民である者たちで実験を行う計画を立てた。
この実験の成功する確立は明らかに低く不完全なため、手始めに関係のない一般市民で行い、それらで得られた実験データを活用し、新たにこの計画を確実なものへと近づけさせるという考えだった。
そのための実験の舞台となったのが、カルボクラムだ。
実験は失敗。
だが、アレクセイは何も動じていなかった。
それは当然だった。
この実験の目的はその実験過程のデータであり、結果など端から着目していなかったのだから。
もし、この実験が成功したとなったならば、それは奇跡といっても過言ではないだろう。
だからといって多くの命を奪ったあの実験に、表情も態度も何ひとつ変えない彼に、リリーティアはおぞましさを覚えた。
同時にそれは自分にも言えることだと、彼女は自嘲の笑いを浮かべた。
しかし、その笑みもすぐに消え、彼女は頭を垂れ、手で顔を覆った。
しばらくの間、そのまま動かなかった。
「(もう、私たちはすでに、・・・取り返しのつかないところにいる)」
リリーティアは体の力が抜けたかのように、机の上に広がる書類の中にその顔を打ち伏した。
彼女は、カルボクラムのことを思い出した。
あまりにも鮮明に浮かぶ光景。
まるでまだその場にいるような錯覚さえ覚えるほど、鮮明に記憶されている。
焼けるような熱さ。
むせ返るような異臭。
かつて人だったであろう黒い
そんな悲惨な中を歩いていたのにも拘わらず、自分でも不思議に思うほど冷静にその状況を見て回り、実験後の記録をとっていたように思う。
そして、彼女は考えるのを止めた。
頭の中は闇だけになる。
しばらく何も考えずにいると、ふと思い浮かぶものがあった。
「・・・・・・っ!」
----------ダンッ!!
彼女は机に頭を伏したまま、机を力強く拳を握って叩いた。
机上にあったいくつかの書類が音もなく床に落ちていく。
リリーティアがその頭の中に浮かんだのは、アレクセイの手の中にあった心臓魔導器(ガディスブラスティア)の遠隔装置だった。
彼女は振り落とした手を、もう一度ぐっと握り締める。
それは、怒りの表れ。
アレクセイに対してではなく、自分自身に対しての怒り。
そして、歯を食いしばった。
それは、罪悪感の表れ。
シュヴァーンに対して感じる罪悪感。
命を救うために施した心臓魔導器(ガディスブラスティア)。
なのに、今はアレクセイの手に握られたあの遠隔装置により、彼の命が握られてしまったも同然となってしまった。
そして、脅すようなあの言葉。
アレクセイのあの行動言動は、人の命を弄んでいる。
明らかに彼を道具として扱っているのだ。
「(なら、閣下にとっては・・・、私も・・・)」
----------踊らされている人形(どうぐ)にしか過ぎないのか。
彼を道具のように弄ぶあの人にとっては、私も踊らされている人形(どうぐ)にすぎないのだろう。
そう、所詮、あの人の理想(ぶたい)の上で踊る人形(どうぐ)にすぎないのだ。
彼女は微かに嗤った。
ひとり納得するように笑みを浮かべ続けた。
さぁ、また新たな開幕の時。
再び人形(どうぐ)は理想(ぶたい)の上に立つ。
次に用意された、舞台(じっけん)の場所は--------------------、