第7話 人形
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「明日カルボクラムへ向かう」
その言葉は、リリーティアにとって恐怖そのものだった。
それは、自身の死刑を告げられたような・・・。
「都合により先送りになっていたが、ようやく準備が整った」
「・・・・・・・・・」
窓の外を見ながら、アレクセイは静かにそう言った。
リリーティアはただ黙ったまま、彼の背を見ることなく視線を落とし、じっと床を見ていた。
床を映す瞳は怯えたように揺れ動き、握り締めた手は微かに震えている。
「住民に気取られぬよう、事は実行せねばならん。実験は-------」
「お願いします」
アレクセイが訝しげに彼女へと振り返ると、彼女は視線を上げて前を見据えた。
「この実験計画は破棄するよう、どうかお願いします」
「すべてを白紙に戻せというのかね。・・・今更無理な話だ」
「ですが、あれは失敗すれば多くの犠牲が。リスクが大きすぎます」
アレクセイは、射抜くような目でリリーティアを見た。
「犠牲はつきものだと以前も言ったであろう」
「これは、これは本当に間違いです!このような実験は絶対にやってはならないことです!もっと違う形で、<帝国>を変える方法がきっとあります」
「君は・・・、まだ分かっていないのかね」
リリーティアは悲愴な面持ちを浮かべながら、アレクセイを見詰めた。
しかし、アレクセイはそんな彼女に対して、少しも表情を変えず冷淡なままだった。
「しっかりしてください!以前のあなたに戻ってください!!今からでも-------」
「あくまで私のやり方に歯向かうつもりか。それはそれでいいだろう、・・・しかし」
アレクセイは、一度言葉を区切ると目を閉じた。
すると、おもむろに懐から何かを取り出した。
「これでも君は、私に逆らうというのかね」
「!?・・・ど、どう・・・し、て・・・」
アレクセイの手の中にあるものを見た途端、リリーティアは頬を強張らせた。
彼の手の中に在るのは、見覚えはあっても存在しないはずのものだった。
それは、---------- 心臓魔導器(ガディスブラスティア)の、制御装置。
シュヴァーンに施されている心臓魔導器(ガディスブラスティア)を遠隔的に制御を行える機械装置であった。
そして、それはヘルメスが遺したものの中に心臓魔導器(ガディスブラスティア)と共に記されていたもの。
けれど、彼女は心臓魔導器(ガディスブラスティア)のみをつくり、実際にその装置は作らなかった。
その理由は単純で、彼らにも自分にも必要なかったからだ。
ただ命を救いたいがために施した心臓魔導器(ガディスブラスティア)。
その理由だけなら、遠隔操作が出来る装置をつくるなど無意味な行為である。
だから、彼女はそれを作ることはしなかった。
しかし、それが今、アレクセイの手の中にある。
リリーティアはそれを作ったのがアレクセイ自身だということをすぐに悟った。
それが記されていた冊子もあの爆破事件によって今は失われており、心臓魔導器(ガディスブラスティア)を含め、その存在を知る者はリリーティアとアレクセイだけだからだ。
「どうして・・・、どうしてそれを・・・・・・」
そして、彼自身、魔導器(ブラスティア)に関する知識に長けているといっても過言ではない。
だからこそ、アレクセイがそれを作ったのも不思議ではないのだ。
「この装置の意味するところ、一番君が知っているだろう」
「っ!!??」
一気に体中に悪寒が走った。
「(あの人は何を言っている。何をしようとしている)」
しかし、彼女はその装置を見せられた時から、アレクセイが何を考えているのかを理解していた。
ただ理解したくなかったのだ。
----------なぜなら、
「脅し、ですか?」
リリーティアの問いに、アレクセイは答える代わりなのか不敵な笑みを浮かべてみせた。
----------制御装置を使い、
「それは・・・、あなたが一番困るのではないのですか?」
彼女の声は震えていた。
----------彼の心臓(いのち)を、
「・・・そこまで言うのならば、仕方あるまい」
そう言うと、アレクセイは制御装置を操作し始めた。
そして、最後の操作を終えようと、装置のボタンに指をあてたとき。
----------止めようとしているからだ。
「まっ-----!!!」
「やっと立場が理解できたか」
青ざめた表情の彼女に、アレクセイは嘲笑った笑みを向けた。
「君は私の何なのかを肝に銘じておきたまえ」
「・・・・・・・・・」
彼は背を向け、再び窓の外へと視線を戻した。
「下がれ」
だが、彼女は動かなかった。
ただじっと見詰めていた。
アレクセイの腰に回された両の手の中にある制御装置を。
「(どうして・・・、どうして・・・・・・っ!)
沸々とした怒り。
彼女は震えるほどに強く手を握り締めた。
「(彼の命は・・・、彼の命は・・・っ!!)」
彼女は《レウィスアルマ》を引き抜き、頭上高く振り上げた。
瞳に捉えるのは、アレクセイの手の中にある制御装置。
その瞳は怒りに揺れていた。
「(こんな装置(もの)でっ!! )」
衝動的な怒りまかせ、勢いよく腕を振り下ろした。
しかし-------、
「っ!!」
----------振り下ろした手は途中で止まった。
見ると、振り下ろそうとした《レウィスアルマ》をアレクセイが掴んでいた。
リリーティアは彼の顔を見る。
「っ・・・・・・!」
狂気。
彼の瞳は狂気じみていた。
ああ、何度その瞳を見てきただろう。
その度に、私はただ彼の理想を実現させるためにここにいるのだと言い聞かせてきた。
感じないふりをした。
自分は恐怖など知らないのだと。
己の意思と感情を奥底に押し込んだ。
それが正しいのか、間違いかなど考えることもしなかった。
私は、闇を纏えばいい。
そう、いつものように。