第5話 少女
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保管庫にある兵装魔導器(ホブローブラスティア)の状態を確認し終えると、リリーティアは栗色髪のあの女の子をはじめ、子どもたちがいた部屋へと向かっていた。
どうしてもあの女の子の怯えた表情が頭から離れず、気になって仕方がなかった。
それだけでなく、あの部屋にいた子どもたち皆が怯えた様子でこちらを見ていたことが脳裏に焼きついている。
子どもたちがいた部屋は、その通りに〈子どもの部屋〉と言われ、子どもを持つ研究員のために研究所が場所を提供しているのだという。
あの案内役の研究員からその話を聞きながら、アスピオにはほかの街と違って保育機関が備わっていないということを今更ながらに彼女は気づいた。
そうして、〈子どもの部屋〉の前までたどり着いた。
リリーティアは一つ呼吸をして、軽くドアを叩く。
----------コンコン
扉は開くこともなく、返事もなかった。
----------コンコン
もう子どもたちは帰ったのだろうかと思ったが、中から人がいる気配は感じとれた。
仕方なくリリーティアはそっとドアノブに手をかけ、部屋を恐る恐る覗いてみた。
すると、まるで隠れるようにして、部屋の隅に子どもたちが集まっていた。
「こんにちは」
子どもたちは、またぎょっとした顔でこちらを見た。
そのままリリーティアをじっと見て、黙り込んでいる。
彼女は戸惑いながらも部屋の中へ入った。
今ここにいる子どもたちは、男の子が4人、女の子が2人。
女の子の中にはあの栗色髪の女の子もいた。
「また驚かせてごめんね。さっきも驚かせてしまったみたいだから、ちょっと気になって・・・」
警戒した瞳でこちらを見る子どもたちの視線にリリーティアは居た堪れなくなった。
自分の格好は、魔導士としては当然の如く着用している魔導服(ローブ)を羽織ってはいるが、その左胸には、アスピオの研究員は誰もつけていない<帝国>の徽章(きしょう)がある。
見慣れた魔導服(ローブ)の上に、見慣れない重々しい<帝国>の紋章があるその異様さに、子どもたちは警戒しているのかもしれない。
確かなことは、騎士団と一緒にいたということが子どもたちが自分を警戒する一番の理由だろうけれど。
彼女はこれ以上ここにいたら子どもたちが可愛そうだと思い、申し訳なさそうに笑いながらもう一度謝ると、踵を返し、その場を立ち去ろうとした。
「待って!」
「?」
急に誰かに呼び止められ、彼女は振り向くと、集まっている子どもたちの前にひとり立っている子どもがいた。
それは、あの栗色髪の女の子だった。
小さな体に大きな瞳でこちらを見ている。
その瞳の中には少しだけ不安な色が見えた。
「さっきはごめんね。ケガがなくてよかった」
リリーティアはそう言いながら、その女の子に歩み寄るとしゃがみ込んだ。
女の子の目線の高さに合わせるとにっこりと微笑む。
「・・・ねえ、お、お姉ちゃんって・・・魔導士・・・なの?」
栗色髪の女の子は恐る恐る聞いてきた。
でも、そこにさっきよりも不安に溢れていた表情は少しばかり和らいでいるようだった。
「うん、そうだよ」
その様子に、彼女は少しほっとしながら笑顔で頷いた。
「じゃ、じゃあ、たくさん魔導器(ブラスティア)を見てきたの?」
彼女が魔道士と知るや、女の子の目が一変して輝いた。
それは、とても子どもらしい好奇心に満ちた目だった。
「魔導器(ブラスティア)に興味があるの?」
「好きなの!あの子たちが大好き!」
「あの子?」
「うん!あの子たちはいろんな所で一生懸命頑張っててすごいでしょ!だから好き!」
話を聞いていて、女の子が言う”あの子”とは魔導器(ブラスティア)のことだと分かった。
栗色髪の女の子は頬を高揚させ、無邪気に笑って話している。
そこには、もう不安も怯えさえもなかった。
リリーティアは、”あの子”と呼ぶその女の子を見て、不思議な子だと思った。
けれど、それはその子を馬鹿にしてるのではなく、寧ろ感嘆していた。
その瞳、その言葉。
誰よりも純粋に魔導器(ブラスティア)を見て、魔導器(ブラスティア)を感じて、人が人を愛するように、女の子は魔導器(ブラスティア)を愛しているのだと伝わってきた。
「っ・・・・・・」
同時に、針で突かれたように胸の奥が僅かに痛んだ。
とっさに目の前の女の子から目をそらしたい衝動にかられたが、微笑みを崩さずにその子を見詰めた。
「そうなんだ。あなたの付けている赤い”この子”もきれいだね」
リリーティアの言葉に、女の子は目を瞬かせる。
「あなたに大切にされて、”この子”も喜んでるんだね、きっと」
彼女の言葉に、女の子は恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。
照れているその女の子の首元で輝く、赤い魔導器(ブラスティア)。
実際、その赤い魔導器(ブラスティア)はとてもきれいに輝いているように見えた。
まるで、女の子の愛情をちゃんと感じているかのように、”その子”はとてもきれいに喜んでそこにいるような・・・。
「リリーティア殿、ここにおられましたか」
「あ、はい」
ひとりの騎士が、開いたままだった〈子どもの部屋〉の扉から覗き込む。
「すみませんが、ちょっと来ていただけますか?」
「はい。すぐ行きます。それじゃあ、私行くね」
リリーティアは羽織っている魔導服(ローブ)を軽く払いながら立ち上がると、栗色髪のその小さな頭を優しく撫でる。
栗色髪の女の子は、じっと彼女を見上げているだけだった。
彼女は部屋を出て扉を閉める前に、もう一度子どもたちを見ると、小さく手を振って扉を閉めた。
その時、栗色髪の女の子は慌てて口を開き、何かを言おうとしていたが、すでに扉が閉まった後だった。
しばらくの間、栗色髪の女の子は彼女が出て行った扉を見詰め続けた。
周りの子どもたちが何やら声をかけても、その扉をただじっと輝きに揺れる瞳に写し続けていた。