第5話 少女
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「(・・・声?)」
研究所の地下に降りて、保管庫まであと少しというところまで来ていたときだった。
リリーティアはどこからか声が聞こえてくることに気づく。
歩きながら辺りを見回していると、さっきよりもはっきりと声が聞こえた。
『----------もないのに研究所に来てさ。ほんとは父さんも母さんもいないくせに!』
「?」
そんな声と共に、ドタバタと騒がしい音が耳に届く。
すぐ近くにある扉から聞こえてきたので、そちらに目を向けて、彼女は立ち止まった。
すると、
----------バンッ!!
「!? わっ、・・・っとと」
その扉から、栗色と赤色の何かが転がるようにして出てきたかと思うと、リリーティアにドンとぶつかってきた。
突然のことで驚いたが、何とかその何かを腕の中で受け止めた。
「!」
その腕の中では、小さな女の子が驚きに目を見開き、リリーティアを見上げていた。
見た感じでは、まだ7、8歳ぐらいの少女だろうか。
肩までかからない栗色の髪に、小さな頭には少し不釣合いにも見える 大形眼鏡(ゴーグル) をかけている。
帯を腰に巻いていて、赤が基調となった服、足元は左右非対称(アシンメトリー)になっていて、少し変わった服装をしていた。
首には赤い魔導器(ブラスティア)が嵌め込まれた首輪(チョーカー)を身に付け、印象としてはとても可愛らしい、小さな女の子。
「一体なんなんだ?」
「リリーティア殿、大丈夫ですか?」
「まだ子どもじゃないか」
数人の騎士たちがリリーティアに駆け寄る。
その騎士たちの姿を見るや否や、腕の中にいる栗色髪の女の子はぎょっとした顔をした。
それはどこか怯えにも似た驚きだった。
「大丈夫?どこかケガしてない?」
「ぁ・・・」
彼女は、女の子の目線の高さに合わせ、肩に優しく手をあてると穏やかな声で聞いた。
しかし、相手は怯えた表情で固まってしまい、声を詰まらせた。
「どうして子どもがいるんだ。しかも、こんなにたくさん・・・」
騎士の一人が女の子が転がり出てきた部屋の中を覗き込み、案内してくれている研究員に訊ねた。
彼女もその部屋のほうを見てみると、そこには女の子と同じぐらいの子どもたちがいた。
「いや、研究員の子どもたちでして・・・他に空いている場所がないものですから」
研究員はしどろもどろになりながら説明する。
研究員の説明を聞きながら、彼女はその部屋にいる子どもたちを見詰めた。
子どもたちは皆、怯えた表情でこちらを見ている。
「保管庫はもうすぐですので」
研究員は足早にその場を離れ、騎士たちもそれに続いた。
リリーティアも立ち上がると、もう一度、目の前にいる女の子に視線を向けた。
やはり、その目は未だに少し怯えている。
<帝国>騎士団たちを見て怯える子どもたちの姿に、彼女は”壁”を見た。
いつかに見た”壁”と同じもの。
貴族と平民。
騎士と市民。
そのふたつの間にある大きな”壁”。
それと同じものだった。
いつか見た、貴族の出の若い騎士に怒鳴り散らされ、怯え震える老夫の姿を思い出した。
あの頃とまったく変わっていない。
これだけは変わらなければならないことなのに。
騎士と市民、貴族と平民の身分の差。
その”壁”の高さは、〈人魔戦争〉の後も高いままだった。
かつて変わりつつあったその”壁”は元の高さに戻ってしまい、けしてよくなることはなかった。
「ビックリさせてごめんね」
リリーティアは栗色髪の女の子に困ったように笑うと、女の子は少し驚いた表情でこちらを見た。
そして、もう一度、優しく微笑みかけると、案内役の研究員と騎士たちの後を追いかけ、その場から立ち去った。
あの栗色髪の小さな女の子が怯えていた表情。
それは、リリーティアの頭からなかなか離れてはくれなかった。