第5話 少女
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リリーティアは茜色に染まる部屋の中にいた。
その部屋には、椅子と机、寝台、衣装箪笥(クローゼット)が備えられている。
机の上にはなにも置かれていない。
その部屋で目につくものはまったくといって見当たらなかった。
質素。
その部屋の印象はまさにそれだった。
この部屋は城の中にある一室。
本部施設が壊滅して以来、騎士団は皇帝不在の城にその拠点を移していた。
もともと隣接している距離にあったため、一時的な処置として、新施設が完成するまでの期間、騎士団は城住まいをしている。
以前であれば、評議会が黙ってはいないところだが、大物議員カクターフの突然の”病死”以来、彼らの干渉はほとんどないといってよかった。
事件の前より寧ろ一段と弱体化したはずの騎士団だったが、カクターフの末路とアレクセイ以下の騎士たちの放つただならぬ気配に、議員たちはなだめて懐柔する道を選んだのだった。
カクターフの後、不審な死が続くということはなかった。
アレクセイの予期した通り、一人で十分だった----------未だフィアレンは姿をくらましたままだったが。
そして、この部屋は今のリリーティアの居室となっている。
彼女が使用する部屋はここと、あと城内の別区画に研究私室が設けられている。
騎士団本部の爆破事件から、彼女は専らその研究室にいることが多く、この居室で過ごすことは殆ど皆無に近かった。
だからということもあり、この居室には何も置いていなかった。
そうでなくとも、あの爆破によって、これまでのすべてを失ってしまった彼女には今持っているものなど知れている。
幼いころから書き記してきた様々な研究、その結果。
集めた書物に、研究材料。
彼女の魔導士としての軌跡。
家族との写真、手紙。
想い出の部屋、場所。
仲間たちの想い、笑顔。
彼女の自身としての軌跡。
そのすべてが失われたのだから。
今あるのは、現在研究中の資料、それに関する書物、
そして、新たにまとめ記した心臓魔導器(ガディスブラスティア)の考察資料。
リリーティアは窓の外を眺めた。
夕陽に染まった帝都の広大な街並みが見える。
街自体は何も変わらずそこには広がっているが、やはり以前の部屋から見える景色とはだいぶ違っていた。
その違いが、彼女の心を鈍く締め付ける。
あの頃、あの”戦争”が起こるまでは、これほどまで日常が変わるとは思っていなかった。
もちろん、時が流れるにつれて、自分も周りも成長し、その過程で考えも想いも変わり、その場所も変わっていくのは分かっていた。
それは、当然なこと。
自然の摂理。
けれど、この変化はあまりも突然すぎて、変わりすぎて、思考も想いもついていけなかった。
だから、今はただ----------、
「(----------流されるままに、ここにいるだけ)」