第4話 歪
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あの時、
何も思わなかった。
考えることをやめていた。
言われたことをやっていく。
ただ、それだけ。
思考も、感情も、消した。
無の仮面を被るように。
でも、その仮面は簡単に剥がれ落ちた。
標的の人物が目の前に現れた、その時。
怯えきった、あの男の顔を見たとき。
感情が動き出す。
黒い疼き。
そこに思考はない、ただ黒い感情だけが渦巻く。
仮面の下から現れたのは----------闇だった。
深い闇
憎の闇。
深い、深い、憎しみ。
-----------------------------------、
半月が照らす部屋。
抜き身の剣を握ったシュヴァーン。
彼に詰め寄められ、怯えきるカクターフ。
深く被った漆黒の頭巾(フード)の下から、リリーティアはそれを静かに見る。
相手は自分たちが誰だか分かっていないようだった。
「ばっ・・・・・・な、一体どうやって」
しゃくりあげに近い声でカクターフは言った。
恐怖に慄いた顔。
----------彼らの恐怖はそんなものじゃなかった。
『ま、待!・・ま、まま、待ってくれ!』
カクターフの必死の形相。
必死の叫び。
----------彼らの叫びはそんなものじゃなかった。
『か、金、金ならやる!言い値でいい!』
----------金?お金なんていらない。
『だ、だから・・・・・・!』
----------だから、おまえの命を貰うまで。
カクターフは懐から短剣を抜き取った。
----------それでどうする?次は、私たちの命を奪うか?
カクターフはありったけの力を込めてシュヴァーンに短剣を突き出した。
----------その前に、知ってもらおう。
それをシュヴァーンは己の剣で悠然と受け流し、勢いを逸らした。
そして、一歩踏み込んで空いている方の手で短剣を握るカクターフの手首をからめとって捻ると、握らせたまま短剣を持ち主自身の体に深々と埋めた。
----------あの時の彼らの痛みを。
まるでカクターフ自身がそう望んだような、流れる動きだった。
シュヴァーンは朱を避けて一歩身を引く。
----------あの時の彼らの恐怖を。
カクターフは激痛と絶望が体内を駆け巡るのを感じながら、よろめく。
----------あの時の私の絶叫を。
リリーティアはじっとカクターフを見据えながら、歩み寄る。
深く被った頭巾(フード)を取りながら。
----------その身を以ってして。
「おまえたち、は・・・っ・・・・」
----------何も怒ることもないでしょう?悔やむこともないでしょう?
月の光によって、闇の中に僅かに浮かぶ二つの顔。
カクターフはその時初めて相手の顔を知った。
----------おまえは、それ以上の怒りを買った、それ以上の憎しみを買った。
驚きよりも怒りと屈辱の響きを帯びた言葉を最後まで言えなまま、カクターフは力なくその場に崩れる。
----------その怒り、憎しみ、あの世までもっていくといい。
伏したその肩越しにゆっくりと朱溜まりができていく。
----------それでも、私は、
彼女は冷たい瞳で、肉の塊と化していく者を見下ろしていた。
----------おまえを許さない。