第4話 歪
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気がつけば窓から見える半月の位置が変わっている。
どうやら、しばらく考え込んでいたらしい。
リリーティアは目の前で佇んでいるシュヴァーンを見た。
彼は前方にそびえる壁一面にはめ込まれた大鏡をじっと見詰めている。
鏡越しに見えた彼の表情は、いつもの彼の姿。
目を逸らすと、彼の傍らにある屍体(したい)が目に入った。
ほんの少し前までこの広大な館を支配していた人物。
その人物は今は物言わぬ肉の塊と化していた。
熱を失った朱(あか)がその下でじゅうたんに染み込み、すっかり黒ずんだ影もどきとなっている。
明日には別の人物がその屍の代わりを名乗るのだろう。
もっと若く、もっと害のない誰かが。
あるいは違うかもしれないし、それには時間もかかる。
いずれにしても-------、
「(私には関係のないことだ。そう、関係・・・ない)」
-----私の任務は、彼の補佐をするだけ。
-----ただそれだけだ。
漆黒の外套(ローブ)を羽織るリリーティア。
外套(ローブ)が窓から流れ込む微かな風に揺れた。
その姿はまるで闇をそのまま纏っているかのよう。
彼女は漆黒の外套(ローブ)から金属球を取りだした。
近くで稼働する魔導器(ブラスティア)の存在を教えてくれる装置、魔導器(ブラスティア)を探す魔導器(ブラスティア)。
この探知機の力を借りて、リリーティアとシュヴァーンは館に仕掛けられたあらゆる罠を回避することができた。
魔導器(ブラスティア)の場所さえ分かれば、解除することは彼女にとって造作のないこと。
ただ操作や破壊するだけでなく、こちら側に有利に利用し、罠だらけのこの館にたやすく侵入することができた。
いつぞやの赤い眼の男たちがいたら厄介なことになるところだったが、現れなかった。
アレクセイの指摘した通り、あの時雇われただけのギルドの人間だったのだろう。
警護を含め、館にいた者たちはシュヴァーンの相手にはならなかった。
何人死んだのだろうか。
それは分からないが、ひとりとして二人の顔を見た者はいないだろう。
目の前にある物言わぬ肉の塊の化した、この男以外は。
その時、シュヴァーンが大鏡に背を向けた。
リリーティアは彼を見ることなく、その横を通り過ぎるの感じながら、ずっと屍を見下ろしていた。
彼が窓際に手をかけた時、彼女も踵を返して、屍体に背を向けて歩き出す。
そして、二人は月光が射し込む窓の外へと消えていった。
後にその部屋に残ったものは、
冷たい物言わぬ肉の塊と化した男、
<帝国>評議会議員 カクターフ だけだった。