第4話 歪
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瞳に映るものすべてが信じられなかった。
信じたくなかった。
でも、それは紛れもない真実で、現実だった。
-----また、
廃墟と化した騎士団本部。
-----また、
「閣下、アレクセイ閣下!」
瓦礫の中から傷ついた騎士団長を運び出す騎士たち。
燃え盛る炎と煙が届かない位置に運び、騎士団長をそっと地面におろした。
-----守れなかった。
-----救えなかった。
騎士団長の目は何かを締め出すかのように固く目が閉じられている。
今までどこにいたのか、フィアレンが彼に近寄ってきて、恐る恐るその顔を覗き込んだ。
-----どうして奪った?
騎士団長は目を見開いた。
思わずフィアレンは飛び退るが、騎士団長はそれに目もくれず、ゆっくりと身を起こすと本部の方に目を向けた。
彼はじっと空を焦がす炎を見つめている。
-----あそこにある、すべてのものを。
騎士団長はよろよろと立ち上がった。
体中から朱(あか)が流れて地面に滴り落ちていく。
-----お父さんの手紙を。
-----家族の写真を。
-----想い出の場所を。
-----大切な仲間たちを。
「<帝国>の未来が・・・わたしの・・・わたしの夢が・・・・・・!!」
騎士団長のうわ言のような言葉が耳に響く。
-----そこには、
-----理想があったのに。
-----未来があったのに。
-----想いがあったのに。
-----守るべきものが、大切なものが。
アレクセイが膝を突いた。
初めて見た。
そんな彼の姿を。
<帝国>騎士団 団長にして最強の剣士、不屈の改革者たる彼が、がっくりと膝をつく様を。
-----理想は奪われた。
-----未来は奪われた。
-----想いは奪われた。
-----大切なものも、守るべきものも。
騎士たちはむせび泣き、魔導士たちは言葉もなくうつむいている。
-----どうしてそこまでする必要があった?
はっと思い出したかのように、アレクセイはゆっくりと頭を巡らせた。
その目が、引きつり強張ったフィアレンを捉える。
「フィアレン・・・・・・!!」
-----どうしてそこまでして奪う必要があった?
アレクセイの視線に縮み上がり、その場に縫い付けらたかのように動けなくなるフィアレン。
「ひっ、し、知らん、私は知らん。関係ない!!」
-----私だって知らない。
-----彼らが奪われなければならなかった理由など。
「フィアレン!!」
アレクセイは油の切れた器械のように、ぎこちなく立ち上がった。
一歩ずつ辛うじて地面を踏み締めながらフィアレンに歩み寄る。
-----どうして奪った?
「ひいい、来るな、来るな!」
フィアレンは両手を振りまわして叫ぶ。
-----やってきたのはそっちからじゃないか。
銀光が走る。
鮮やかな朱がフィアレンの右腕から迸る。
「----------!!」
-----彼らの叫びはそんなものじゃない。
激痛にフィアレンは地面をのたうち回った。
撒き散らされる己の朱でみるみるその姿が染まっていく。
-----彼らの痛みはそんなものじゃない。
アレクセイの手から虚ろな音を立てて剣が落ちた。
再びよろめいて、片膝を突く。
-----なぜ守れなかった。
蒼白なその顔を滝のような汗が伝い落ちる。
アレクセイの体は震え、力なく開いた口から朱がこぼれた。
----なぜ救えなかった。
「閣下!!」
アレクセイに駆け寄り、その体を支える騎士たち。
じっとそれらを見ていたリリーティアは、拳を力強く握りしめた。
-----彼らを守れなかったのは、
彼女は、ゆっくりと前に歩き始める。
-----大切なものを守れなかったのは、
瞳に捉えるのは、這うようにしてその場を離れようとするフィアレンの背。
-----大切な場所を守れなかったのは、
彼女は瞬きひとつせずにフィアレンを凝視し、迷いなく前に進む。
----そう、
彼女は腰にある短剣の柄に、ゆっくりと手を伸ばした。
-----すべては、
短剣の柄を掴む手に力を込める。
-----おまえが、
そして、短剣を引き抜こうとした、その時。
「リリーティア殿!騎士団長閣下を!」
「---------- っ!!」
彼女は我に返った。
ひとりの騎士が肩を掴み、呼び止めたのだ。
それは、気を失ったアレクセイに応急処置として治癒術をかけてもらうために。
「・・・・・・・・・」
彼女はその場に立ちつくしたまま、呆然と前を見ていた。
這うようにして去るフィアレンの姿を見詰めながら。
もう一度、騎士が彼女を呼ぶ。
しかし、彼女はそのまま動かない、何も答えない。
この時、リリーティアは自分が分からなくなっていた。
今、自分がしようとしていたことを含めて。
目に見えるもの、心に感じること。
様々な感情が溢れる。
抱え込められないほどに溢れすぎて、どうしていいかわからなかった。
それは、悲愴感、絶望感、罪悪感---------- そして、憎悪。
入り乱れる感情が溢れに溢れ、そこに立っているのが精一杯だった。