第4話 歪
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すでに騎士団本部の前には、人だかりができ始めていた。
「(何、何を、何を・・・!)」
リリーティアは、前を行くアレクセイの背を視界に、必死になってその人だかりの中を進んだ。
鼓動が激しく体を打つ。
「(一体何が起きてるの?何をしたの?)」
騎士団本部に近づくほど、彼女は不安に襲われる。
本部の前には数十人の騎士が立っていた。
その騎士たちは、人だかりを掻き分け出てきたアレクセイに気付くと、血相を変えながら駆け寄ってきた。
少し遅れて、リリーティアもなんとか人だかりを掻き分け、本部の前にたどり着く。
そして、アレクセイと騎士たちに駆け寄ろうと、僅かに息を切らしながら一歩足を踏み出した、その時だった。
「!」
彼女は騎士団本部の建物上空に奇妙なものが浮かんでいるのに気づいた。
一体何なのか、じっと目を凝らし、それを見た。
光で描かれた紋章めいたもの、結界にも似た、ただしずっと小さい輪がいくつも浮かんでいる。
それは----------、
「え・・・・・・」
リリーティアの目がこれ以上にないほどに大きく見開かれた。
彼女は、そのまま動かない。
まるで彼女だけそこで時間が止まったかのように。
「ど、して・・・・・・」
----------術式だった。
それが、本部の上にいくつも浮かんでいる。
彼女は震える手を口元に当てた。
この時、嫌な胸騒ぎが確信に変わってしまった。
「リリーティア!あれを知っているか!」
「・・・・・・・・・」
アレクセイは、本部の上空を見上げて立ち尽くす彼女に駆け寄り、問いかけた。
しかし、彼女は何も言わない。
彼女にはそれが聞こえていなかった。
これから
その時になってようやく、先ほど一緒にいた魔導士たちと護衛の騎士たちが息を切らしながら、リリーティアたちに追いついた。
「リリーティア!!」
「っ、・・・か・・・閣下・・・」
アレクセイの怒号にも似た声に、リリーティアははっとし、ゆっくりと彼に視線を向けた。
手も震え、血の気が引いた表情の彼女を見て、あの術式は何かとんでもないものだということをアレクセイは悟った。
そんな中、追いついてきた魔導士の一人がゆっくりと進み出た。
その魔導士もリリーティアと同じに血の気が引いており、口を開くにも大変な努力を必要としているかのようだった。
「あれは・・・、そんな・・・。騎士団は・・・、騎士団は・・・、あ、あんなものを保有していたのですか!?」
魔導士は声を震わせながら、信じられないという目でアレクセイを見た。
彼は魔導士の肩を掴んだ。
無意識に力がこもる。
「我々は自分たちが制御できないようなものは何も保有していない。答えろ、あれはなんだ、何をするものなのだ!?」
アレクセイの剣幕に魔導士はうろたえ、説明しようとするも声が詰まってしまい、答えることができない。
「・・・あの、輪は、・・・」
それは、リリーティアの声だった。
口元を押さえている手の間から、震えた声がこぼれる。
彼女は、じっと本部上空に広がる術式を瞬き一つもせずに見詰めながら、やっとの思いで絞り出すかのような声で話し始めた。
アレクセイをはじめ、周りにいた人々が一斉に彼女へと顔を向ける。
「力場を、展開させる術式・・・です。都市結界に似ていますが、作用は内向きに働くもの。力場展開後、破壊波を放出し、それを内側に押し留め反復することで範囲内の物体を、破壊。・・・その後、力場を解放して周囲をも巻き込む、複合内破兵器・・・・・・。
つまり、魔導器(ブラスティア)を使った、一種の ----------」
リリーティアは唇を大きく震わせる。
「---------- 爆弾、です」
戦慄が一同の間を走った。
「閣下、あれを!」
騎士のひとりが声を上げ、指を指す。
その先には、大きく開け放たれた本部の正門、その奥にはなにやら十数人の人影が見える。
「っっ!!!」
リリーティアは全身が凍りついた。
どれも見知った顔。
「閣下、出られません!助けてください、閣下!」
クオマレの声だった。
彼だけでなく、ドレム、シムンデル、リアゴンの補佐官たちや、他数十人の騎士たちの姿があった。
彼ら叫びにアレクセイは前に進みかける。
それを魔導士の一人が慌てて制止した。
「いけません!入ればあなたも出られなくなります。彼らがあれ以上出てこられないのは、あそこに力場の境界があるからです。近づいてはいけません!」
だがアレクセイは聞こえていないかのように、魔導士を押しのけて進む。
「みなさん、止めてください!」
魔導士の必死な声に、我に返った騎士たちはアレクセイの進路に割り込んだ。
「閣下おやめください、危険です!!」
立ち止まる気配のないアレクセイに、とうとう騎士たちはしがみついた。
「離せ、聞こえんのか、離せ!!」
五人の騎士がしがみついてなお、アレクセイの歩みは止まらない。
それどころか彼が身をよじる度に、騎士が次々と振り払われていく。
それでも彼らは、必死に騎士団長の手足にすがりつき、その行く手を遮ろうとした。
リリーティアは、騎士たちが必死になってアレクセイを止めているのを視界の隅にとらえながらも、
助けを求めるクオマレたちを呆然として見詰め続けていた。