第4話 歪
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「いずれの数値もお二人の推測を裏付けているように思われます。ご覧下さい」
興奮気味みに魔導士は書類の束をめくって、そこにびっしりと書き付けられた文字を順を追ってリリーティアとアレクセイに指し示した。
「これは帝都結界の術式を解析して算出した出力の最大値です。実際に展開されている結界の実測値は、これを大きく下回ります。
一方、こちらは先日の調査で発見された地下設備の負荷許容量の推定値です。見ての通り、結界出力の最大値を大幅に上回っています。無論、現時点での調査が万全とはいえませんが、設備機能と現在の活動規模との間に大きな乖離(かいり)が存在するのは間違いないでしょう。
即ち----------」
「帝都の結界魔導器(シルトブラスティア)、あるいは、その基部には、まだ何か未知の機能が存在する、ということか」
「あくまで可能性ですが」
魔導士はやや慎重な姿勢を崩さず言った。
「どう思う?」
アレクセイは隣を歩くリリーティアに問う。
彼女は少しの間、口元に手をあてて考える。
「少なくとも、結界力場形成に関与していない設備も稼動し続けているのは確かなようですし。見たところ、限りなく休眠状態に近いと言っていい状態ですが、規模からいって不要になったなら停止させいてもいいはずです。しかし、稼動しているということは・・・、それは何かしらの意図があると考えていいと思います」
彼女の考察にアレクセイは満足げに頷いた。
「以前から、帝都の結界魔導器(シルトブラスティア)は都市の規模と比較してなお、大がかりすぎると思っていた。あるいは何か別の目的があるのではと思ったが---------- どうやら想像以上のものがありそうだな」
リリーティアたちは騎士団本部を目指して、帝都の大通りを歩いていた。
先日行った<帝都>地下の調査結果をアスピオの魔導士から報告を聞いているところで、彼女はアレクセイの隣を歩き、その周りを魔導士たちに囲まれるようにして進んでいた。
その後ろに護衛の騎士たちが追いかけるように付き従っている。
そうして、熱気をはらんだ活発な議論を交わすうちに、騎士団本部が見えてきた。
「これはぜひとも本来の区画調査から切り離して、継続せねばならんな。諸君には引き続き協力を----------」
アレクセイはそこで言葉を切った。
急に言葉を切ったアレクセイを不思議に思いながら、リリーティアも彼が見ている方へ視線を向けてみた。
すると、その先には見覚えのある人物がいた。
「(どうしてこんなところに?)」
彼女は訝しげにその人物を見た。
その人物とは、フィアレン監査官だった。
彼は、周囲には目もくれず、騎士団本部の方をじっと凝視している。
「これは監査官、奇遇だな」
背後から声をかけられ、フィアレンはぎょっとした表情で振り向いた。
「き、騎士団長!?今は会議では・・・」
彼女は眉をひそめる。
フィアレンのその驚きようになぜか胸騒ぎを覚えた。
「まさに今、例の区画調査の件で、こちらの魔導士たちと協議していたところだ。これから本部で続きを-------どうした監査官、顔色が悪いようだが?」
明らかにうろたえた様子で、フィアレンは視線を目まぐるしく往復させた。
アレクセイと----------騎士団本部を。
リリーティアはとっさにアレクセイを見た。
彼女の瞳はひどく不安に揺れている。
アレクセイは彼女のその視線に一瞥すると、のみで一打ちしたかのように眉間に深いたてじわが刻まれた。
「直ちに本部に戻る」
先ほどと打って変わった、ぞっとするような冷徹な声。
「監査官、あなたも来るのだ」
アレクセイの声に何を感じたのか、フィアレンは全身を強張らせて後ずさった。
「い、いや、私は・・・・・・」
そのうろたえようはあまりにも酷いものだったから、
「(何?一体何を・・・・・・)」
リリーティアは、全身が脈打つのを感じた。
それは、漠然とした恐怖。
「引きずって来い!!」
「閣下!」
アレクセイは大声で騎士たちに言い放つと、監査官を一顧だにせず走り出した。
その後を追いかけて、リリーティアも走り出した。
言いようのない怖れを、胸の奥に感じながら。