第3話 明瞭
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彼らの思いに甘えるように、リリーティアは今抱えている気持ちを言葉にした。
アレクセイのこと、評議会のこと、<帝国>の未来のこと。
簡単にだが、彼らに思い悩んでいることを打ち明ける。
そして、彼らもまたそれを真剣に聞き、考え、言葉をかけた。
それは、
彼女の悩みを吹き飛ばすかのように。
彼女の不安を優しく包み込むかのように。
彼女の闇を明るく照らすかのように。
彼らは彼女の悩みを、不安を、少しでも無くしたいと思った。
「一度は失いかけたこの流れを絶対に止めはしません」
「ええ、必ず守って見せます。騎士の誇りにかけて」
「リリーティア殿、わたしたちがいることをどうかお忘れなく」
「ですから、これからも一人で抱え込むことはやめてください。絶対ですよ」
ドレム、シムンデル、リアゴン、クオマレ。
彼らは自分たちの想いを込めて言った。
その瞳にも深い想いがあった。
理想、誇り、誠、信念、未来。
そこに見えるのは、揺るぎない心そのもの。
〈人魔戦争〉によって失ってしまったもの。
そして、
〈人魔戦争〉によって失いかけていたものが、そこにあった。
「っ・・・・・あ、ありがとう、ございます。本当に、ありが、と・・・っござい、ます」
リリーティアは椅子から立ち上がると、机に額があたりそうなほどに深々と頭を下げた。
彼らの温かい言葉は、彼女の張り詰めた心を優しく包むように心にしみ渡る。
その温もりを身に染みて感じた彼女は、彼らに向けた感謝の言葉も声が震えてうまく言えなかった。
何度も繰り返し繰り返し、感謝の言葉を言い続ける彼女に、補佐官たちは互いに照れた笑いを浮かべた。
「それに、これ以上一人で悩んでいると、大事な書類がしわくちゃになっちゃいますしね」
「え・・・?」
苦笑を浮かべながらクオマレが言った言葉に彼女は一瞬ぽかんとする。
ふと自分の手元にゆっくり視線を移すと、強く手にしていたせいで、持っていた書類がしわくちゃになっていた。
「!! ああっ!? す、すす、すみませんっっ!!」
リリーティアは叫びに近い声で謝ると、急いでしわになってしまった部分を手のひらで伸ばした。
少しよれてしまったが、内容は問題なく読み取れるのでさほど気にすることでもないが、それでも大事な書類に変わりはないので、彼女の動揺ぶりはこの上ないものだ。
彼女の慌てぶりに若き補佐官たちは声を出して笑った。
でも、それはとても優しい笑顔で、温かみのある笑い声であった。
彼らもまた、彼女を心から信頼している。
仲間であり同志、そこには固い”絆”があった。
かつて紡いだキャナリ小隊たちのように。
彼女にとって、あの”戦争”によって奪われたものはあまりにも大きい。
そして、それによって、彼女が奪ってしまったもの、与えてしまったものも大きかった。
大切なものを奪ってしまっても、
絶望を与えてしまっても、
罪を背負っても、
己の信念が揺るいでも、
それでも、彼女が今も前へと進んでいけるのは、彼らがいるからなのだろう。
信じてくれている者たちが、真の理想を求める者たちが、まだここにいる。
仲間がここにいるのだ。
そう、すべては失っていない。
それはまた、
想いのこもった手紙だったり、
優しさ溢れる写真だったり、
切なくとも温かい記憶の場所だったり、
様々な形として、残っているのだ。
悲しけれど、苦しいけれど、背を押してくれる。
ずっと心に、手に、しまっておきたいもの。
それは今、確かに、ここにあるもの。
とても大切なもの。
失ったものもあるが、残っているものもあること。
守るべきもの、大切なものが、たくさんここにあるのだということを、
補佐官である彼らの想いが、リリーティアへと教えてくれたのだ。
それらを改めて知ったとき、彼女は思った。
--------------------「大丈夫。今の私でも、歩いていける」
しかし、この時すでに、深い闇が覆おうとしていた。
彼女の希望を。
<帝国>の未来を。
第3話 明瞭 -終-