第3話 明瞭
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「リリーティア殿?」
「・・・・・・え?」
リリーティアは自分が呼ばれた声にはっとした。
「あの、大丈夫ですか?」
「・・・あ、・・・クオマレ、さん」
その声はアレクセイの補佐官、クオマレだった。
彼は心配した面持ちでリリーティアの顔を覗き込んでいる。
「どうかされましたか?先ほどから何度か呼んでいたんですけど」
「あ、す、すみません。ぼうっとしてたみたいで・・・」
彼女は申し訳なさそうに笑った。
騎士団本部の会議室で作業を行っていた彼女は、いつの間にか呆けていたらしい。
クオマレは、突然書類を捌く手を止めて、書類を呆然として見ている彼女に心配になって声をかけたようだ。
それは彼だけでなく、同じくここで作業を行っていた補佐官ら、ドレム、リアゴン、シムンデルも彼女を心配そうに見ている。
「少し休まれては?」
「いえ、単にぼんやりとしていただけで、具合が悪いのというわけではありませんので」
ドレムの気遣う言葉にリリーティアは笑みを浮かべて答えると、再び作業を開始した。
補佐官たちは困ったような面持ちで互いに顔を見合わせると、彼女を気にしながらも彼らも作業に戻った。
リリーティア、補佐官たちは、先ほど会議を終え、書類をまとめているところだった。
アレクセイは補佐官らの誰の護衛もつけずに、別件で今は席を外している。
もくもくと作業を続ける中で、彼女はずっと気にかけていることがあった。
「(閣下は大丈夫だろうか?だいぶ無理をしているようだし)」
それは、彼の身の安全というよりも、精神的な面に対してのことだ。
ここ最近、彼は予算案の件で評議会と小競り合いのような状態が続いていたが、それもつい先日に決着がついた。
度重なる修正と否決を経て、騎士団の予算が承認されるに至るまでには、きっと裏で相当な駆け引きがあったはずだった。
彼は何も言わないが、リリーティア、そして、補佐官たちもそのことは聞かずとも分かっていた。
以前から評議会の人々は、騎士団の強大化を危険視している。
だからこそ、今回の”戦争”で多くの痛手を負った騎士団に、評議会はそれを好機と捉え、騎士団再建にことごとく異議を唱え続け、予算案の表決には相当の時間がかかった。
会議に出席していた、貴族出身の補佐官 リアゴン、シムンデルの話によれば、その審議は凄まじいものだったらしい。
リリーティアはそれを聞いて、さらにアレクセイの事を気にかけた。
彼女自身、街が崩壊したあの一件で審議に出席したことがあるため、その審議の凄まじさは身にしみて知っている。
ちなみに、現時点でも、その件の責任追究については平行線のままだ。
といっても評議会自体がそのことをすでに忘れ、まったくといって追究してこなくなっているのが現状である。
とにかく、毎回、あのような酷く激しい論調の中でいるのかと思うと、彼のことを心配せずにはいられない。
まして、あの”戦争”で、多くの同志と親友(とも)を失い、真としての心の支えとなる者たちがいなくなった中、その負担は更に計り知れないもののはずだ
「(それに、今回のことで評議会側が黙っているはずが・・・・・・)」
そして、評議会側が騎士団に対して、今後どういった態度を示してくるのかが気がかりでならなかった。
予算案が十分な賛同を得て表決したとはいえ、反対していた評議会議員がそれをどう思っているかが問題だ。
一層、騎士団長である彼に対して威迫な態度を示してくるだろう。
特に、評議会議員 カクターフ は誰よりもアレクセイに対し露骨に敵意をあらわにしている。
今回の予算案に一番納得していないのは、当然として彼だ。
従来、謀略こそ評議会が騎士団に勝る武器であったはずなのに、今回、騎士団長 アレクセイ にことごとくしてやられてしまったのだから。
「(なんとしてでも、評議会側にこの流れを奪われないようしないと。今まで築き上げてきた理想を、これ以上・・・、失うわけには・・・・・・!)」
リリーティアは苦渋に満ちた顔で、書類を持つその手にも自然と力が込もった。
「リリーティア殿!」
「っ!?」
突然の声に、リリーティアは肩を震わせ驚いた。
見ると、それはまたクオマレの声だった。
彼は不安げにこちらを見ている。
他の補佐官たちもさっきと同じ様子で、心配する視線をこちらに向けていた。
「やはり無理をしているのでしょう?」
「いえ、それは----------」
「隠しても無駄です」
「・・・・・・・・・」
クオマレの向かいで作業をしていたシムンデルにぴしゃりと言われ、リリーティアは口を閉ざした。
「あなたがいつも無理をしていること、我々は知っていますよ」
「どうか一人で悩むことだけはしないで下さい」
「そうです。わたしたちもいるのですから」
「どんなことでも力になりますよ。何でも言ってください」
シムンデルから始まり、リアゴン、ドレム、クオマレが続いた。
その言葉はどれも彼女を想う言葉だった。
「・・・・・・みなさん」
彼らの言葉に、リリーティアは驚きに目を見開く。
それは、彼らの姿にキャナリ小隊たちの面影が見えた気がしたからだ。
不安だった時、悩んでいた時、励ましと力強い言葉をくれた仲間たち。
何かあれば必ず心から心配してくれた仲間たち。
もう、ここにはいない仲間たち。
けれど、彼女のことを心配する者たちは、ここにいた。
傍にいたのだ。
補佐官たちもまた、あの”戦争”以来、さらに無理をしている彼女のことを、誰よりも心配していたのだった。