第3話 明瞭
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--------------------私はまだ、泣いていなかった。
リリーティアは、灯りも点っていない部屋で立ち尽くしていた。
部屋の中は閑散とし、この場所だけ時が止まったかのようで。
彼女はの哀愁帯びた表情で、目の前にある机にそっと手を置く。
その机には何も飾られていない花瓶がぽつんと置かれ、それはもう長い間、その用途を果たすことなくそこに放置されていた。
ここは、キャナリの執務室だった。
彼女は静かに目を閉じる。
目蓋の裏に浮かぶのは、仲間たちの笑顔。
聞こえてくるのは、仲間たちの声。
そこから広がる、キャナリ小隊たち、皆の姿。
リリーティアは目を開けると、花瓶に背を向けた。
そして、部屋の扉へと向かって歩き出す。
ドアノブに触れようとした手を止め、彼女はもう一度振り向き、何も飾られていない花瓶を見た。
「(あの時、喜んでくれていたのかな。それとも・・・・・・)」
何もない花瓶に、彼女の瞳にはキルタンサスの花が微かに浮かんだ。
赤い花弁が揺れ、---------- 消えた。
いつもこの部屋を仄かに優しく包んでいた香りも、今は記憶の中。
遠くに感じたあの香りと共に、彼女の顔が浮かぶ。
帝都を発つ彼女に向けた、最後の言葉。
-------------------「絶対に無事に帰ってきてね、キャナリお姉ちゃん!!」
それは、最初で最後、彼女を”お姉ちゃん”と呼んだ言葉。
あの時は、恥ずかしさのあまり、相手の顔もろくに見ずにその場から逃げてしまった。
だから、その言葉を言った後の彼女の反応はどうだったのか、知らない。
喜んでくれたのか、それとも--------。
今はもう、それを知ることはできない。
彼女は、もう、ここにはいないのだから。
リリーティアは、再び花瓶に背を向けて、その部屋を出た。
ただ哀しい色を瞳に湛えたまま。