第2話 不安
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*************************************
騎士団本部にあるリリーティアの部屋。
唯一、彼女の部屋を照らし出すのは、窓から差し込む月の光だけ。
彼女は机の前に座り、びっしりと字が書き綴られている資料を見ていた。
月の光だけをたよりに一枚一枚めくって確認していく。
それは、今日行った帝都の地下の調査記録だった。
その中には、調査が一時中断になる前に行っていた時の記録もあり、机の上には千をこえる用紙が数十枚づつ束ねられ置かれている。
開け放たれている窓から柔らかい風が吹き、リリーティアの髪を揺らす。
その風に呼ばれたかのように、彼女は窓の外に視線を移すと、一つ息を吐き、夜空を見上げた。
「(これからどうなるんだろう・・・)」
不安に揺れる瞳に夜空に瞬く星たちを写す。
リリーティアの心に押し寄せる不安。
それは、彼らの行く末。
心臓魔導器(ガディスブラスティア)によって、再び生を受けた者たちの未来。
ただただ、彼らの幸せを想う。
そのためには何だってやろうと。
けれど、今の彼らに対して自分が出来ることはしれているし、本当ならば合わせる顔さえもない。
だからといって、何もしないことは許されないのもわかっている。
今この時は、彼らの未来に光が宿ることをこの星空に願う。
そして、もう一つ、彼女が不安を感じるもの。
あの”惨事”から生まれた言葉たち。
〈人魔戦争〉
〈人の勝利〉
〈英雄〉
〈シュヴァーン・オルトレイン〉
今、この世界に飛び交う言葉。
今では、その言葉は嫌というほど耳にする。
それらの言葉にどれだけの市民が恐れ、また、救われただろうか。
それは、この先も<帝国>の歴史に、<帝国>の未来にさえ残っていくのだろう。
その言葉が嘘なのか真実なのかも知らないままに。
〈人魔戦争〉によって不安に陥った市民を安心させるに為には、〈人の勝利〉が必要だった。
〈人の勝利〉を確信にする為に、〈英雄〉が必要だった。
〈英雄〉を現実にする為に、〈シュヴァーン・オルトレイン〉が必要だった。
それはすべて、<帝国>の理想ため。
そして、<帝国>の理想は市民たちのため。
<帝国>の理想に導くためには仕方がないことなのだと。
けれど、彼女はどこか引っかかっていた。
本当にこれで良かったのかと。
確かに理想のためだが、あの惨事から生まれた言葉は紛れもなく”嘘”だ。
彼女は何より、その”嘘”が世間に広まっていることが怖かった。
シュヴァーンが〈英雄〉として担ぎあげられている様子を見る度に、何かが胸を締め付ける。
そんな時、彼女は知ったのだ。
《真実が嘘になる》ことよりも、《嘘が真実になる》ことが、どれだけ恐ろしいことかということを。
けれど、すでにこれは変えられないことなのだ。
ならば、”嘘”だとしても、<帝国>の理想を導いていくための、市民の笑顔のための、糧にしていくしかない。
ただ、それが”嘘”だという真実は忘れずに、この罪悪感を忘れずに、その上で導いていく覚悟をしていくべきなのだろう。
そして、それ以上に彼女を不安にさせているものがあった。
それは、アレクセイ騎士団長のことだ。
現実を見た彼は、理想を求めた。
貴族と平民の身分と貧困との差を見た彼は、<帝国>を変えるべく騎士の鑑となり、
魔物に怯えて暮らす市民を守るために彼は、父と共に画期的な研究を行い、
あの惨事で無二の友を亡くしても、悲しみに暮れる暇もない彼は、法に触れている可能性があるにも関わらず、古代文明の資料や遺物を収集にさらに力を注ぎ、
一層激しくなった評議会からの反発や非難を受けても彼は、法に触れているにも関わらず”敵”から守るために”備え”となるものを考え始めた。
そう考えていったとき、彼女の心の中には不安でいっぱいになる。
最近の彼は、あまりにも成し遂げるための手段に対し臆することがなくなってきているように感じるのだ。
そして、彼女は思った。
---------------私は、閣下を支えられるのだろうか?
そう思うたび、怖くなった。
何故だかわからない。
ただ、怖かった。
ひどく、恐ろしかった。
彼を支えられるか否かということ。
それが、今の彼女を一番に不安にさせていることだった。
---------------お父さんとお母さんがいてくれれば。
そう思わずにはいられなかった。
けれど、彼女は自分に言い聞かせた。
私だけではない、と。
クオマレ、ドレム、リアゴン、シムンデル----------アレクセイ閣下と同じく、そして、父と母と同じく、理想を持つ彼らがいるのだ、と。
そこには、あの小隊たちのような身分を超えた絆があるのだから、と。
まだ、終わりではない、終わってはいけない、進んでいくしかないのだ、と。
だから、彼女は願った。
不安を掻き消すように。
星が瞬く月夜の空に。
----------------彼らが向かう、すべての未来(さき)に、光があることを。
第2話 不安 -終-