第16話 選択
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「次で最後の報告です」
騎士団長の執務室。
机に向かうアレクセイの前に向かい立って、諮問官のクロームは書類をめくった。
その後ろにはシュヴァーンと、彼の隣にはリリーティアがいた。
「評議会のラゴウ議員ですが、先日、屋敷の改修を行った際、大掛かりな機械設備を持ち込んだ形跡があります。規模からして魔導器(ブラスティア)関連と思われます」
カクターフ亡き後、鳴りを潜めていた反騎士団派の中から頭角を現し始めた議員の名が出ると、
それまで机の書類に向かったまま、声のみで返事をしていたアレクセイが顔を上げた。
アレクセイだけでなく、それにはリリーティアも僅かに反応を見せた。
「ラゴウか。あの歳にもなって元気なことだ。ある意味、評議会の鑑というべきだな」
「今なら比較的現場を抑えることが出来ますが」
「いや手出しせずに、監視のみ続けろ。気取られぬようにな」
「はい」
その声にリリーティアは言葉以上のことを感じ取った。
ラゴウが何をしようとしているにせよ、それはアレクセイの思惑に乗ったということを。
アレクセイはそれについてここで語るつもりはないようだったが、リリーティア自身はその思惑を知っているため聞く必要もなかった。
なぜなら、彼女自身もそのために裏で密かに動いていたからだ。
知っているのも当然だった。
ラゴウはそんなこと露とも知らないだろうが。
ラゴウ議員。
彼はカブワ・ノールの現執政官。
前執政官のウォガル議員は数年前に突然の病で亡くなり、現在は彼がカプワ・ノールの執政官に就任した。
-------というのは表立っての事柄。
ウォガル議員の死も、そのあとのラゴウの就任も、起こるべくして起きたことだ。
すなわち、それら一連の流れは、すべてアレクセイの思惑のひとつということ。
報告を終え、クロームが下がると、シュヴァーンが進み出た。
「ダングレストでは以前から問題視されていた五大ギルドのひとつ『紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)』の行動が無視できないものとなっています。ユニオン脱退の噂もあり、ホワイトホースは対応を検討しております」
ユニオンの中核を構成する五つの名門ギルド。
それが五大ギルドと呼ばれ、各分野に特化したこれらのギルドが睨みを利かせているお蔭で、ユニオンはその統制力を維持していた。
『紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)』は同業の中でも最大の勢力を誇るギルドである。
それがユニオンを離れるとなれば、単なるいちギルドの離脱以上の問題に発展する可能性があった。
「そちらも状況の把握のみでいい。ただしホワイトホースが具体的な行動に出そうな時は報告しろ」
だが、これには大きな反応を示さず、アレクセイは再び書類に視線を戻した。
シュヴァーンは後ろに下がった。
以前と比べ、アレクセイはシュヴァーンに多くを語らなくなった。
すべき行動についての指示を告げても、その意図については明かすことはほとんどない。
そんなアレクセイを彼女は諦めにも似た気持ちでそれを見ていた。
シュヴァーンを単なる部品か何かのように扱う彼のその態度に色々と思うことがあったが、だからといって、彼女は彼に対し何かを言うわけでもなく、ただそれを見るだけにいつも終わっていた。
「リリーティア、君はどうだね?」
「進行状況は前回の報告通りです。その後、何度か検証を行ってみましたが、問題はありません。順調に進んでおります」
彼女の報告にアレクセイは頷くが、相変わらず視線は書類に向いたままだ。
「万事、想定通りだ、諸君。シュヴァーン、ダングレストに戻り監視を続けろ。さっきも言ったが、指示があるまでは余計な行動はするな。リリーティアは引き続きその進行状況の対応を図れ」
アレクセイは顔を上げることなく、淡々と告げた。
「はい」
リリーティアもまた、そんな彼を気にも留めずに淡々としていた。
ただシュヴァーンだけは、少し訝しげな様子であるのを彼女は微かに感じ取っていた。