第15話 ギルド
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「初めてここに訪れた時は本当に吃驚したんです」
「ははは、だろうね~。今はもうあれだけど、俺様も最初は慣れなくて困ったもんよ」
あれから二人は互いに他愛ない話を交わし、今はダングレストに初めて訪れた時の話をしていた。
空は茜色からだんだん紺青の色に染まっていき、少しずつ星が浮かび始めている。
「レイヴン、おめぇこんなところでなに油売ってやがる」
突然、割って入ってきた声。
その蛮声に、リリーティアは反射的に身を硬くした。
「うげ、じいさん」
レイヴンに至っては、その声の主を確認するやいなや、苦い表情で一歩後ずさっていた。
「なんでえその反応は。おめえ、そこの御嬢にちょっかい出してんじゃあねえだろうな?」
その声の主を見ると、長い白髪を後ろに垂らした頭に、白髪のひげ顎が伸びるその顔には二本の赤いペイントが走っている。
何より圧倒されるのが、そのがたいの大きさ。
肩幅は並の大人よりも倍はある。
まるで-------山。
それは、単純に物理的な意味での喩え。
その図体の大きさから遥かに背丈があるように思ったが、よくよく見ると意外にもその背丈はレイヴンよりも頭一つ分上回る程度でしかない。
しかし、分厚い筋肉を感じさせるようなその体つきは圧倒的な存在感があった。
おそらくこの者が、ギルドユニオンを束ねる大首領、ドン・ホワイトホースだ。
目の前の巨体な男の全身から醸し出す雰囲気に彼女はすぐに悟った。
何よりその雰囲気が、彼が単なる大男以上の何かだということを告げている。
彼女はただただ圧倒されて、その巨体な男 ドン・ホワイトホース を見上げていた。
「ちょっかいって何よ。それじゃあ俺様が女癖悪いみたいに聞こえるじゃないの」
レイヴンはドンを軽く睨むが、声の主は痛くも痒くもないといった感じでそれを無視し、リリーティアの方を見る。
「うちのもんが迷惑かけてたんじゃねえか?」
「あ、いえ、迷惑だなんて。レイヴンさんとは古くからの知り合いなんです。今日、久しぶりにお会いしたので、つい話し込んでしまって・・・」
リリーティアは至って平静に話してはいるが、実際はドンを前にしてドギマギしていた。
睨みつけているようにしか見えない彼の鋭い目に、彼女は心臓を鷲掴みにされたような感覚さえ覚えた。
この男には何を言っても見透かされてしまう。
そう思わせる目をしていた。
「そうそう。だから、迷惑かけてるとか人聞きの悪い。寧ろあれよ、悪い虫がつかないようにしてあげてたのよ、俺様が」
「とかいっておめえ、その悪い虫はてめえじゃねえのか」
ドンの疑いの目に、レイヴンは大げさな身振りで非難の言葉を返す。
何度かそのやり取りを繰り返す彼らを彼女はただ黙って見ていた。
ドンを前にしながらも、変わらずその軽薄な様で話すレイヴンを見ていて、気が張っていた彼女も少しずつ気が和らいでいった。
「こいつの知り合いたあ、おめえさん、たいぶ苦労してるんじゃねえか?」
「じいさん、それどーゆー意味よ」
ドンの言葉に、リリーティアは小さく声を上げて笑う。
そんな彼女に「笑ってないでそこ否定してよ」とレイヴンは不貞腐れた顔を向けた。
「あの、挨拶が遅れました、リリーティアといいます。あなたがドン・ホワイトホースさんですか?」
「ドンでいい。周りのやつらもそう呼んでるからな」
彼女は小さく笑みを浮かべて頷いた。
そして、幾分か緊張の糸が解けた彼女はドンに軽く一礼した。
「レイヴンさんがいつもお世話になっています」
「ちょっとリリィちゃん。なんかそれ、まるで俺の保護者みたいじゃないの」
「ははは。お互い苦労するもん同士よろしくな」
豪快に笑うドンに、彼女も笑みを浮かべて「よろしくお願いします」と返した。
ドンという男は気さくな男でもあるのかもしれない。
彼と出会った瞬間は近寄りがたい印象に感じていたが、言葉を交わしてみると、彼女の中で大きくその印象が変わった。
「ちょうどいい、レイヴンちょっと酒に付き合え」
「えー、俺様この後-------」
「リリーティア、酒はいける口か?」
ドンに無視されブツブツと何か文句を言っているレイヴンの横で、彼女は少し考える素振りをみせると、
「一度も飲んだことがないので、何とも・・・」
苦笑を浮かべ、肩を竦めた。
すでに成人の時を過ぎているリリーティア。
だが、酒は好きか嫌いかという前に、まだ一度も飲んだことがなかった。
今まで、自らその機会を作ろうとも思わなかったし、飲んでみたいとさえ思うこともなかった。
そもそも、酒が飲めるかどうかを考えた今になって、自分が成人の時を過ぎていたということを改めて思ったほどだった。
己に対する無頓着さに、彼女は心の中で自嘲の笑いをもらした。
「そりゃあ勿体ねえ。せっかくだ飲んでいけ」
「ちょっと、じいさん。どっちかちょっかい出してんのよ。リリィちゃんも、じいさんのわがままに付き合わなくたっていいわよ」
レイヴンは呆れた顔でドンを見ると、 戸惑っているリリーティアに苦笑を浮かべて言った。
「無理にとは言わねえよ」
その言葉通りに、有無を言わさずということではなさそうだった。
彼女からすれば、相変わらずドンの目は睨んでいるようにしか見えないが、その言葉にも、その目にも、威圧的なものは一切感じられなかったからだ。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
リリーティアは笑みを浮かべて承諾した。
この時すでに、彼女はドンの人柄に多少なりとも惹きこまれていた。
そして、何となく予想していた。
ドン・ホワイトホースは、自分の素性までは分からなくとも、おそらく<帝国>の人間だということは勘付いているということを。
それを察しても、彼は決して問い詰めることはしないのだろうということを。
お酒に誘ったのも、深い意味はなく、ただ単に言葉の意味そのままで言っているだけなのだろう。
彼は端(はな)から相手を探るつもりはないのだ。
彼女には、そう感じられた。
だから、別段気構えることはしなかった。
寧ろ、彼女はもう少し”ドン・ホワイトホース”という男を知りたいと思った。
<帝国>の人間としてでも、魔導士の人間としてでもなく、ただ--------------------ひとりの人間として。